200Vの電源が必要なブレードサーバー

「ブレードサーバーねぇ、いいんだけどさ、うちの会社、200V引けないんだよね」

ブレードサーバーのProduct Manager(製品担当)となり、たくさんのお客さまにご説明しました。しかし、当時のブレードサーバーは200Vの電源が必須で、200Vがサーバールームに引けないという理由で購入できないお客さまがたくさんいらっしゃいました。

ブレードサーバーは多くのサーバーを高密度で稼働させるため、大量の電力が必要でした。ただし、1台あたりの消費電力は割り算すると結局小さくなるので、結果的にはエコなのですが、この200Vが必要という件と相まって、ブレードサーバーはとんでもなく電力を消費するというイメージがついてしまったほどです。

海外旅行をされた方ならご存じかと思いますが、その国によって供給される電圧が異なり、大きく分けると、約100V(Low Voltage)もしくは約200V(High Voltage)の2種類(厳密には、200V,240Vといった違いがもう少しありますが)。

そして、このLow Voltageが普及している国は世界で見ても、アメリカ・カナダと日本くらいです。

実は使える200V

ここからは中学校の理科の授業の復習になりますが、電気機器が動作するのに必要なのは電力(W)で、電力(W)=電圧(V)x電流(A)という式で表されます(本当はもっと細かいのですが今回は省略)。

そして、電線の太さによって、流せる電流の最大値が決まります。よって、例えば15A流せる電線がある場合、100Vで電力を供給すると、100V x 15A = 1,500Wが電気機器に供給できます。しかし、これを200Vで供給すると、同じ電線にもかかわらず、200V x 15A = 3,000W供給できることとなります。

  • マシンルームとブランケット 第9回

    電線に流せる電流は電線の太さと比例する

同じ太さの電線を使う場合、高い電圧で供給するほうが、たくさんの電力が供給可能なのです。日本の家庭のコンセントは100Vですが、実は1990年代ごろから新たに電気を引いた家庭やビルでは、建物内のブレーカーまでは200Vへの対応が可能です。

200Vが使いたくなったら、契約も変える必要なく、家の中の配線を電気屋さんに少しいじってもらうだけで200Vが使えるようになっています。海外でLow Voltageが一般的なアメリカなどでも、上記の技術的理由から電力が必要なサーバーなどを動作させる場合は、High Voltageを利用することが一般的です。

200Vが使えない理由

ですので、ブレードサーバーはLow Voltageで動作しないので困る、という課題は日本以外では発生していませんでした。では、なぜ日本のお客さまはマシンルームに200Vが引けないのか。

よほど古い建物でない限り、上記のように電力会社からブレーカーまでは200Vが来ています。そこにはさまざまな技術要素「以外」の壁が存在することがわかりました。一番の壁は、電源を準備する施設担当者と、サーバーを準備するIT担当者の「仲が悪い」。

施設担当者は、できるだけ特別なことは行いたくないのです。また、なぜか施設担当者の方が立場が上、というケースが多かったのです。「200Vのコンセントを用意してもらうのって、いろいろと厄介なんですよ」と、多くのIT担当者の方がおっしゃられていました。話せばわかると思うのですがね……。

また、自社内にサーバーを設置せず、データセンターを間借りしているお客さまからもご相談を受けました。利用電力量に合わせた電気代を別途支払っているのに、ラック単位の月額レンタル料金が、なぜか200Vを引くと増額するという謎のルールがありました。

このように日本の場合、技術的観点から200Vを利用することが合理的であるにも関わらず、200Vを「特殊なもの」と認識する方が多かったようで、ブレードサーバーをはじめとした200Vが必要な機器の販売は、非常に難しかった時期がありました。

100V動作の実現に向けて奔走

Product Managerの私は、日本で販売を拡大するには、100Vで動作することが必須であると確信し、米国のさまざまな担当者に会うたびに、「Low Voltageをサポートしてほしい!」と、何度も何度もお願いをしていました。いつのまにか彼らの間では、私のあだ名は「Low Voltage Guy」になっていました。

そして、その要望が通り、ついに100Vで動作する中小規模用のブレードサーバーが発表されました。米国製品担当者が、私を含めた全世界のProduct Managerに、「これはLow Voltage GuyのShingoのために作った製品なんだ」と、説明していたことを思い出します。

私はあまりにも嬉しかったので、この製品の記者発表会の時には、わざわざ100Vのコンセントをステージに準備してもらい、そこに差し込むというデモを行ったほどでした。

  • マシンルームとブランケット 第9回

    発表会では100Vのコンセントに差し込むデモを行った

あれから10年以上月日が経過し、ブレードサーバーだけではなく、さまざまなIT機器の消費電力が増大、100Vで対応できない製品が増えてきました。その結果、日本の多くのデータセンターでは200Vが普通に利用できるようになってきたようです。日本のガラパコス文化は1つ、消滅しつつあるようです。

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