本連載では日本ヒューレット・パッカード(HPE)のさまざまな社員の「こぼれ話」を綴ります。今回はレア職種であるカテゴリーマネージャーの話を紹介します。

“超レア職種”のカテゴリーマネージャー

私は対外的には「エバンジェリスト」を名乗っていますが、社内的にはCategory Manager(カテゴリーマネージャー)という職責です。一般的にはProduct Manager(製品責任者)と記した方がわかりやすいかもしれません。営業でもなくエンジニアでもない、超レア職種です。

米国で開発・発表される製品をそれぞれの国で販売する際に、営業マンに製品の説明を行ったり、販売戦略や価格戦略を立案したり、製品に関するありとあらゆるトラブル解決などを行います。

基本的に米国本社側で開発が完了してからの仕事なので、なかなか開発途中で関われることは少ないのですが、今から約20年近く前、ブレードサーバーの担当をしていた時のことです。

ブレードサーバーの米国本社の開発チームのマネージャーから私に、ある日メールが届きました。「モーターを開発している、日本のある会社を訪問したいのだけれど、アメリカ人だけで行くとナメられるから、おまえも来てくれないか?」“ナメられる”という表現が英語でどんなだったかは、忘れてしまいましたが。

どうやら冷却ファンのモーターで困っているとのことでした。そのころ、一気にCPUの高性能化が進んでおり、それに伴い消費電力も発熱量も上昇をしていて、この熱をどのようにサーバー内部から排出するのかが、大きな課題だったのです。

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    HPEの冷却ファン

どれくらい大変だったかというと、高さ約2メートル、床は1メートル四方サイズの箱(ラック)から、一般家庭で使う電気ストーブ約24台が発する熱と同量の熱を排出し、冷やさなければいけないというものでした。

通常、われわれのようなサーバーメーカーは、冷却ファンを製造している会社から冷却ファンごと購入するという形が一般的なのですが、その時に必要だった冷却ファンは世界のどこにも存在せず、一から作る必要があったのです。そこで全世界のモーターメーカーをあたったところ、技術力的に作れそうな会社が日本のあるモーターメーカーでした。

前代未聞の冷却ファンの開発

会議室に入ると、作業着を着た多くのエンジニアの方が会議室を囲むように座っていらっしゃり、そこにHP米国本社のメンバーと、当時の私の上司、私が参加しました。

先方の通訳の方を通して、こちら側の要求が次々と伝えられていきます。かなり深い技術的な話だったので、ほとんど理解はできませんでした。ただ、相当無理な要求であることは先方のエンジニアの表情ににじみ出ていました。

一般的な冷却ファンの回転数が1分間で6,000回転程度であったのに対して、今回の要求は1分間で2万回転。しかも最低でも5年間の寿命。まさに前代未聞の冷却ファンでした。

先方のエンジニア同士が黙って目を見つめあっている場面も。なるほど、HP側に日本人の私がいることで、先方は日本語でいろいろとまずいことも含めた話ができない、“ナメられない”状況に。

少し会議室全体が重い空気のまま、昼休みに突入。お弁当を食べ終わり、会議再開。そして先方のリーダーが、重い口を開きました。

「これはかなり大変な技術開発になるので、お金に糸目をつけないのであれば、やりましょう」

後々、知ったのですが、当時のHPは購買部隊もなかなか強力であの手この手で購買価格を下げさせるとして有名だったようで、先方もそれを知っていたのか、早めに伏線を張っていたのかもしれません。

その後、米国本社のメンバーも電話会議で参加し、より具体的な技術的ディスカッションがはじまりました。モーターの形状をどうするか、軸受けのグリースの材料をどうするか、回転数を取ると寿命が短くなるなど、夕方までフルのディスカッションが繰り広げられました。正直なところ、こんな細かいところまでこだわって開発をしているのか、と強く感動したことを覚えています。

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    HPEのHousutonラボにおける開発中の冷却ファンの様子

それから約1年後、再びの訪問です。そこには、これまで見たことのないジェットエンジンのような冷却ファンが完成していました。実際に動かしてみると、風力も音も、これまでの冷却ファンの概念を吹き飛ばしてしまうほどのものでした。まさに両社のエンジニアの血と汗と涙の結晶。

そして、ついに製品が完成し、日本での記者向け新製品発表会のネタを考える会議で、どうしてもこの冷却ファンのスゴさを伝えたいと考えた私は、冷却ファンのデモを実施したいと申し出ました。

サーバーの発表会で管理画面のデモなどはよく行っていましたが、冷却ファンといった、いわば「脇役」を前面に押し出したデモは前代未聞でした。(後編に続く)

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