米国のAerospace Corpは、「Brane Craft」というスペースデブリを除去する新しいコンセプトを発表している。

2016年からNASA Innovative Advanced Concepts(NIAC)で研究されてきたものだが、「Small Satellite Conference 2019」にこのBrane Craftのコンセプトを発表して以降最新の情報はないが、このBrane Craftのコンセプトは非常に興味深い。今回はそんな話題について紹介したいと思う。

Brane Craftとは?

Brane Craftとは、スペースデブリを除去することを目的に開発されてきたもの。最近の世界においてスペースデブリを除去する方法としては、衛星がスペースデブリに接近し、磁石、アーム、網などの物理的な方法で捕捉し、一緒に大気圏に突入し燃やしてしまうというものが多い。

しかしこのBrane Craftは、スペースデブリを物理的な方法で捕捉する点は同じだが、磁石、アーム、網などではなく、紙のような薄膜のもので、スペースデブリを包んで一緒に大気圏に突入し燃やしてしまうというコンセプトだ。

このコンセプトは、NASA Innovative Advanced Concepts(NIAC:NASA先端概念研究所)で2016年にPhaseⅠ、2017年にPhaseⅡにて開発が進められてきた。しかし、Small Satellite Conference 2019の発表以降、現在までで最新の情報はない。

  • Brane Craftのスペースデブリ除去のイメージ

    Brane Craftのスペースデブリ除去のイメージ(出典:Aerospace)

Brane Craftはどのようにしてデブリを捕まえるのか

Brane Craftは、どのような構造になっているのだろうか。下図をご覧いただきたい。

  • Brane Craftの詳細

    Brane Craftの詳細(出典:NASA)

大きくは、構造体としてのStructural Sheet、太陽電池セル(Solar Cell)、エレクトロニクス系(Electronics Sheet)、スラスター(Thruster Module)で大きく構成されていることがわかる。

このスラスターの推進液は、構造体としてのStructural Sheetの内部に充填されていることもわかる。このスラスターによって、姿勢制御、軌道制御を行うことが可能となる。

そして、姿勢決定などに使われるスターセンサなどをBrane Craft用に2次元的なセンサにするという。

Brane Craftの厚みは、髪の毛よりも薄く30μm程度だ。髪の毛も欧米人と日本人で太さが違うようだが、50~80μmくらいと言われている。 1m2 あたりたった35g程度と非常に軽量。太陽電池セルの発電も7.7kW/kgという。

では、どのようにスペースデブリを包むのだろうか。ぜひ、Aerospace Corpの動画※1をご覧いただきたい。

Brane Craftのスラスターによって、軌道、姿勢を制御しながら、1枚の紙のような状態を保ったままスペースデブリへと接近する。そして、このBrane Craftのスラスターをうまく制御することで、巻物を作るかのような動きをすることで、スペースデブリを捕捉するのだ。

しかしながら、宇宙空間における放射線環境にエレクトロニクス系(Electronics Sheet)が耐えうるのかといった課題があるという。

いかがだっただろうか。

最新の情報は2019年以降ないのだが、非常に軽量で折り畳むことが可能な構造をもつBrane Craftは、まず輸送コストの観点で圧倒的なメリットを持つことだろう。

それによるスペースデブリ除去に関するコストも大幅に削減できると推測される。また、この薄膜型の構造にエレクトロニクスやスラスターモジュールを装備できるというテクノロジーがあれば、宇宙ビジネスにおけるさまざまな用途に活用、応用できるだろう。

Aerospace CorpのBrane Craftの今後に注目したい。

参考文献

※1https://aerospace.org/article/brane-craft-wins-nasa-award