2023年3月15日、マンチェスター大学は、地球の外に存在する塵とじゃがいも由来のでんぷん、そしてひとつまみの塩からできる宇宙コンクリート「StarCrete(スタークリート)」の開発に成功したと発表した。なんとこの新素材は、普通のコンクリートの2倍の強度を持つという。では、このスタークリートとはどのようなものなのか。今回は、こんな話題について紹介したいと思う。

  • マンチェスター大学が、宇宙での利用に向けて開発したコンクリート「スタークリート」。その製造方法やメリットについて見ていこう

    マンチェスター大学が、宇宙での利用に向けて開発したコンクリート「スタークリート」。その製造方法やメリットについて見ていこう(出典:マンチェスター大学)

レゴリス×じゃがいも成分×塩=高性能コンクリート!

では早速スタークリートについて見ていこう。研究チームが開発したこの素材は、火星のレゴリスを模擬した物質を、じゃがいも由来のデンプンやひとつまみの塩と混合させることで作製される。以下の図が作製の工程だ。デンプンとレゴリスを混ぜ、そこに水を入れ加熱すると、デンプンがゼラチン化してゲル状になる。そしてその後、圧縮や乾燥を経ることでスタークリートが完成するのだ。

  • スタークリートの製造法

    スタークリートの製造法(出典:Open Engineering)

では、この新素材はどれほどの強度があるのだろうか。今回はその圧縮強度で示すと、スタークリートの圧縮強度は72メガパスカル(MPa)。地球上にある一般的なコンクリートの圧縮強度が32MPaである中、2倍以上の値を示したという。ちなみに、月面レゴリスの模擬物質で作製されたコンクリートは、圧縮強度91MPa以上とスタークリートをさらに上回っているとしている。

  • 月面のレゴリスを模擬した物質を混ぜて作成されたコンクリートも実現への可能性が高まっているという

    月面のレゴリスを模擬した物質を混ぜて作成されたコンクリートも実現への可能性が高まっているという(出典:マンチェスター大学)

スタークリート開発の先に見据えるサプライチェーンとは

マンチェスター大学では、このスタークリートを開発することで、次のような構想を描いているようだ。

宇宙空間においてインフラ設備などを構築する場合、莫大なコストがかかることから、地球上と同じ材料を輸送する方法は実現が困難であり、宇宙空間内でも確保できる単純な材料を採用する必要がある。そのため研究チームはデンプンに着目し、サプライチェーンの構築まで画策しているというわけだ。

想定されるサプライチェーンにおいては、まず、水と火星に豊富に存在するCO2を利用して、食物を育てる。そして、収穫した食物から得られるデンプンを利用して、スタークリートの製造に活用するというのだ。そのため、今回じゃがいもでの検証に成功した研究チームは、今後さまざまな食物のデンプンを用いて調査していくという。また違う角度からのアプローチとして、レゴリスの大きさやスタークリート製造の圧縮強度の最適化も模索していくとしている。

  • 実現が目指されるスタークリートのサプライチェーン

    実現が目指されるスタークリートのサプライチェーン(出典:Open Engineering)

なお、本研究成果は、科学誌「Open Engineering」にも掲載されている。

いかがだっただろうか。マンチェスター大学の研究チームは以前、このスタークリートの開発において、人の血液を混ぜて結合剤にする手法の研究に取り組んでいた。しかし、やはり人間の血液では持続可能ではないということで、今回のデンプンを利用した研究を開始した経緯があるようだ。

研究チームは今後、スタークリートの3Dプリンタによる製造に向けた取り組みや、デンプンの遺伝子的な観点での研究も進めていくとしている。