2022年12月12日、早稲田大学(早大)らの研究グループは、センサ位置最適化問題を解消する新しいアプローチを開発したというプレスリリースを発表した。では、この新しいアプローチとはどのようなものだろうか。また、これによりどのようなメリットがあるのだろうか。今回は、こんな話題について紹介したいと思う。

センサ位置最適化問題を解消するまったく新しい手法とは?

早大修士課程の井上智輝氏、早大の松田佑教授、東北大学の永井大樹教授、東北大学博士課程後期の伊神翼氏、愛知工業大学の江上泰広教授らの研究グループは、センサ位置最適化問題を解消する従来とはまったく異なる新しいアプローチを開発した。

ではまず、なぜこのような研究を行ったのだろうか。現在、少数のセンサで複雑な現象を計測する技術に注目が集まっているという。センサを少数に抑えることで、低コストで高速にデータを取得・解析できるというメリットがあるからだ。しかしながら、複雑な現象を少数のセンサで捉えるためには、それぞれを適切な位置に配置する必要がある。

そのため彼らは、効果的な計測を行うための少数のセンサ位置を最適に決定する方法論を研究しているのだ。このような問題を「センサ位置最適化問題」という。また、この問題を解く方法には凸緩和法や貪欲法があるが、計算コストや推定精度などの面において課題があるという。

そこで研究チームは、以下の図に示すような手法を考案した。彼らは次のように説明する。「任意の2つの空間位置に対して、現象の特徴を良く表し、かつ互いに類似性が低い場合に大きな値をとる重みを考える。このように考えると、各空間位置をノードとし各ノード間を結ぶエッジを上記の重みとするグラフと捉えることができる。すると目的とするセンサ位置の組み合わせは、一定値以上の重みをもったエッジを残した無向グラフにおいて、最大クリーク問題の解を与える組み合わせと考えることができる」と。

  • グラフ位置を用いたセンサ位置決定アルゴリズムの概要図

    グラフ位置を用いたセンサ位置決定アルゴリズムの概要図(出典:早大)

また、この新手法によって得られた解の妥当性を確認するために、NOAA-STTの海水面温度変化データを用いて、精度検証が行われた。その結果、従来の方法と遜色なく少数の温度データのみから元の海水面温度分布を再現できることも確認済みだという。

  • NOAA-STTの海水面温度変化データの再構成の例

    NOAA-STTの海水面温度変化データの再構成の例(出典:早大)

加えて、ノイズを多く含む実験データにも新手法を適用している。この実験では、流れに直角に置かれた角柱後方にできるカルマン渦を感圧塗料法によって計測したデータが用いられ、60万点を超える空間点データからなる複雑なこの現象について、数十から数百点でのデータをもとに表現するセンサ位置の配置を決定した。また、このセンサ位置を基にノイズを低減したデータを再構成し、半導体圧力センサによって計測したデータと比較したところ、計測結果はよく一致しており有効性が示されたとする。

これらの結果から、今回開発した新たな手法は、これまでの凸緩和法や貪欲法などを用いた解法と同等以上の結果を得ることができると研究チームは述べている。また、直感的に理解しやすい方法である点も特長だとしている。

なお同研究成果は、オランダのエルゼビア社が発行する『Mechanical Systems and Signal Processing』に2022年12月8日(現地時間)に掲載されている。

いかがだったろうか。センサ位置最適化問題に対し、従来とは本質的に異なる新しいアプローチを構築したことは、学術界や産業界へと大きなインパクトを与えることだろう。例えば、先述で紹介した感圧塗装法では、計測ノイズが障害となっていて応用が難しいとされてきた航空機・鉄道・自動車分野での空力設計における、安全性の向上や空力抵抗の低減などに大きく貢献できることが期待される。

また、量子コンピュータやデジタルアニーラなどの新しいタイプのコンピュータへの応用例も増加していくことが見込まれ、今後インパクトは大きくなっていくだろう。