2022年4月、ハーバード大学のエンジニアリングデザインプロジェクト「ES100」において、Ethan Seder氏は、サイクリング中の事故から身を守ってくれる自転車用エアバッグ「CrashPak」を開発した。この自転車用エアバッグは、さまざまな事故から命を守ってくれるというが、いったいどのようなものだろうか。今回は、こんな話題について紹介したいと思う。

サイクリスト用エアバッグ「CrashPak」とは?

Seder氏は、ハーバード大学の機械工学を卒業しているエリートエンジニアだ。米国の電気自動車スタートアップ「Rivian」や世界有数の宇宙ビジネス企業「SpaceX」でインターンを経験し、現在はAppleでウォッチプロダクトデザインエンジニアとして活躍しているという。

では、彼が開発した自転車用エアバッグとはどのようなものだろうか。まずこのエアバッグは、大きく3つのサブシステムから構成されているという。1つ目は、事故を検出するための電子機器とアルゴリズム。2つ目は、エアバッグをガスで膨らませるためのガス放出機構。そして3つ目は、サイクリストの身体上部を保護するための拡張可能なテキスタイルエアバッグだ。

  • CrashPakは、自転車に乗ったサイクリストが転倒する瞬間に展開するという

    CrashPakは、自転車に乗ったサイクリストが転倒する瞬間に展開するという(出典:ハーバード大学)

Seder氏は、CrashPakが転倒時に展開する様子をYoutubeにアップしている。こちらを見ていただければ、その効果は一目瞭然だ。

驚くべきは、転倒するだいぶ前の姿勢が崩れた状態で、すでにエアバッグが展開している点だ。エアバッグに充填するガスの放出量と展開のメカニズムを最適化し、200msという短時間で展開することに成功している。そしてこれにより、94%衝撃力を低減することができたという。

自転車での転倒の際にCrashPakが展開する様子の動画がこちら(出典:ETHAN SEDER)

では、なぜ彼はこの自転車用エアバッグを開発したのだろうか。それは、彼自身が自転車事故に遭った経験が理由だという。事故にあった際、頭を守るためにヘルメットがとても重要な安全策だと気付かされた一方で、頭以外の上半身が保護されていないことに疑問を抱いたとのことだ。彼はこの課題感が、実際に米国で発生し死者や怪我人を出している自転車事故の被害を低減することで、多くのニーズを満たす可能性があると考えたのだ。

いかがだっただろうか。このエアバッグはとてもコンパクトであり、自転車を漕いでいる時に邪魔になることはないだろう。重さについての言及はないが、装着するのに大変そうな印象も見られない。ヘルメットと共に、このような興味深いテクノロジーがさらに普及すれば良いのに、と感じるのはわたしだけだろうか。

余談だが、Ethan Seder氏個人のホームページが公開されている。このホームページには、彼のこれまでの実績・ポートフォリオがまとめられている。とても興味深いので、ぜひご覧いただきたい。