2022年11月24日、群馬大学生体調節研究所の研究グループは、肥満や糖尿病があると感染症が重症化しやすくなるメカニズムを明らかにしたとプレスリリースで報じた。では、感染症が重症化しやすくなるメカニズムとはどのようなものだろうか。今回は、こんな話題について紹介したいと思う。
基礎疾患があると感染症で重症化しやすくなる仕組みとは?
群馬大学生体調節研究所の白川純教授らの研究グループは、筑波大学・横浜市立大学と共同で、肥満や糖尿病などの基礎疾患があると感染症で重症化しやすくなるメカニズムを明らかにしたと発表した。
では、そのメカニズムとはどのようなものだろうか。
白川教授らは、敗血症ショックを起こした状態のマウスで実験を行った。この実験からは、敗血症ショックを起こしたマウスにS100A8を投与すると生存率が有意に改善することがわかったという。そして、肥満症や糖尿病があるマウスや、免疫細胞でS100A8遺伝子を欠損したマウスでは、死亡率が高くなることもわかったのだ。
細胞が障害を受けた時、S100A8という分子が放出される。このS100A8は、重篤な感染症(敗血症)での過剰な免疫反応によるサイトカインストームを抑制し、敗血症性ショックといわれる全身の循環や代謝の異常を伴う死亡を防ぐ役割を果たす。ちなみに、サイトカインストームとは、免疫反応の連鎖により、サイトカインよばれる炎症性タンパクが過剰に産生される状態のことだ。
しかし、肥満や糖尿病の基礎疾患がある場合は、この細胞が障害を受けた時、S100A8という分子が作られず、敗血症による全身の循環や代謝の異常のような敗血症ショックによる死亡率が高くなることがわかったのだ。
なお、同研究の成果は科学誌『iScience』に掲載されている。
いかがだっただろうか。世界中でまん延している新型コロナウイルス感染症(COVID-19)においても、糖尿病や肥満症を持つ患者は重症化しやすいことは周知の事実だろう。しかしこれまでに、肥満症や糖尿病の患者におけるS100A8と感染症との関係はわかっていなかったという。今回明らかにされたこのメカニズムによって、S100A8を適切に補充することで、敗血症の治療や重症化の予防に役立つ可能性があることを示した、素晴らしい研究成果だ。