2022年6月9日、名古屋大学らの研究グループは、スーパーコンピュータ「富岳」を活用して、核融合プラズマの閉じ込め改善効果を発見したと発表した。
では、この核融合プラズマの閉じ込め改善効果とはどのようなものだろうか、今回はそんな話題について触れたいと思う。
「富岳」で発見した核融合プラズマ閉じ込め改善効果とは!
名古屋大学の渡邉智彦教授、核融合科学研究所、日本原子力研究開発機構、京都大学らの研究グループは、スーパーコンピュータ「富岳」を用いた大規模シミュレーションにより、「マルチスケール相互作用」による核燃焼プラズマ閉じ込め改善効果を新たに発見した。
同研究成果は、2022年6月7日付でイギリス科学雑誌「Nature Communications」に掲載された。
では、「マルチスケール相互作用」による核燃焼プラズマ閉じ込め改善効果とはどのようなものだろうか。
まずマルチスケール相互作用を説明したい。マルチスケール相互作用とは、時間や空間の大きさ(スケールという)が異なる現象の間に生じる相互作用のことで、特に、今回の核融合プラズマにおいては、イオンのジャイロ半径程度の大きさを持つイオンスケール乱流と、電子のジャイロ半径程度の大きさを持つ電子スケール乱流との相互作用を指す。
ちなみに、このケースでは、おおよそイオンのジャイロ半径は1cm程度、電子のジャイロ半径は0.1mm程度だ。
実は、核融合プラズマの実現を実現するには、核融合プラズマの閉じ込めの改善が必要不可欠だ。このトカマク型やヘリカル型などの磁場閉じ込め型核融合炉においては、1億度の高温、高圧のプラズマを強力な磁場で閉じ込めて、プラズマのエネルギーから発電するという試みだ。しかし、どうしてもこの条件だとプラズマに乱流が発生してしまいうまく閉じ込めることができない。
名古屋大学の渡邉智彦教授らの研究グループは早くからこのプラズマの乱流による物理機構の解明を重要視し、このプラズマ乱流は、電子の作る乱流がイオンの作る乱流に影響を与えている「マルチスケール相互作用」ということを提唱してきたのだ。
名古屋大学の渡邉智彦教授らの研究グループは、今回、同研究グループが開発してきたジャイロ運動論的シミュレーションコードGKVを用いて富岳で大規模なシミュレーションを実施。
シミュレーション結果を可視化した結果は以下の図だ。
イオンスケールの乱流の揺らぎと電子スケールの乱流の揺らぎが共存していることを描写している。そして、次のことも明らかになった。それは、電子スケールの乱流が作り出す微小な電場揺らぎが共鳴粒子の軌道をも乱し、時に大きな半径方向のずれを生じさせると言うものだ。
また、電子乱流輸送束も評価した。
電子温度においてどのようになるのかを解析し、電子温度が高くなると電子スケールの乱流の寄与は減少していき、逆にイオンスケールの乱流の寄与が大きくなる。そして、両者が共存する電子温度領域では、電子スケールの乱流が作り出す微小な電場揺らぎがイオンスケールの不安定性をみ出すことで、イオンスケール乱流を抑制する働きもあることがわかったのだ。
下の図を見ていただきたい。電子・イオン温度比3付近では、マルチスケール解析において、イオン単一スケール解析よりも電子乱流輸送束が改善されていて、マルチスケール相互作用における閉じ込め改善を意味しているのだ。
いかがだっただろうか。この研究から将来核融合炉において計画されている電子・イオン温度比1ではなくこの比率を超える高電子温度領域において、電子スケール乱流がイオンスケール乱流を安定させ乱流輸送束が低減されるパラメータ領域があるということが明らかになった大きな発見だ。
今後、このパラーメータ領域での実験が楽しみだ。