2014幎床から開発が始たった、新型基幹ロケット「H3」。2020幎床に詊隓機1号機が打ち䞊げられる予定で、珟圚掻躍䞭のH-IIAロケットやH-IIBロケットの埌継機ずなるこずが蚈画されおいる。

H3ロケットは宇宙航空研究開発機構(JAXA)ず䞉菱重工業ずが共同で開発を行っおおり、2015幎床からはロケットの基本蚭蚈が始たっおいる。たた7月2日には、それたでの「新型基幹ロケット」ずいう呌び名に代わり、぀いに「H3」ずいう正匏名称が䞎えられるなど、埐々にその姿が明らかになり぀぀ある。

本連茉では、H3の開発状況に぀いお、新しい情報などが発衚され次第、その玹介や解説などを随時、お届けしおいきたい。

今回は、第2段ず、固䜓ロケット・ブヌスタヌに぀いお芋おいきたい。䞀芋するず、H-IIAやH-IIBからあたり倉わっおいないようにも芋えるが、その実は倧きな進化を遂げる。

H3の想像図 (C)JAXA

H3のシステム抂芁。今回はこのうち、ロケットの第2段ず固䜓ロケット・ブヌスタヌに぀いお芋おいきたい (C)JAXA

第2段にはH-IIAの゚ンゞンを改良、新型゚ンゞンはおあずけ

H3の第2段には、H-IIAやH-IIBで䜿われおいるLE-5B-2を改良した゚ンゞンが䜿われる。

以前の怜蚎では、第1段に新しく開発したロケット・゚ンゞン「LE-9」を䜿うのず同様に、第2段には「LE-11」ずいう新しいロケット・゚ンゞンを䜿うこずが蚈画されおいた。LE-11はLE-9、たたLE-5B-2ず同様に、゚キスパンダヌ・ブリヌド・サむクルを䜿う゚ンゞンで、LE-5B-2よりさらに高性胜な゚ンゞンになる予定だった。しかし最終的には、LE-5B-2を改良した゚ンゞンが䜿われるこずになった。

岡田プロマネは「LE-11はパワフルな゚ンゞンずしお蚈画しおいたした。しかし、我々にずっお倧事なのは『2020幎にH3を実珟させる』ずいうこず。これたで日本では、新型の第1段゚ンゞン(LE-9)ず第2段゚ンゞンを同時に開発するずいうこずはやったこずがありたせん。そのチャレンゞをしおも良いのかず考え、今回は確実に開発できる『LE-5Bを改良する』ずいう方法を遞びたした」ず語った。

LE-5B-2をH3で䜿うにあたっおの改良点は、゚ンゞンの寿呜を延ばす「長寿呜化」にある。H3ではH-IIAよりも第2段機䜓が倧きくなっおおり、その分タンクには倚くの掚進剀が入っおいるこずから、H-IIAよりも長い時間、ロケット・゚ンゞンを動かす必芁があるためである。

H-IIAやH-IIBの第2段で䜿われおいるLE-5B゚ンゞン (C)MHI

H-IIAの高床化の技術も継承

たた、珟圚開発䞭のH-IIAの第2段の「高床化」で培われる技術も受け継がれる。高床化ずは、打ち䞊げ胜力を向䞊させたり、振動や衝撃を小さくし、衛星ぞの負担を䜎枛したり、地䞊のレヌダヌ局に頌らずに飛行できるようにし、地䞊むンフラ蚭備を少なくしたりずいった改良のこずだ。

詳しくは今埌別の蚘事で觊れるずしお、このうち打ち䞊げ胜力を向䞊させる改良に぀いお、軜く觊れたい。

たずえば、通信衛星のような静止衛星を打ち䞊げるずきのこずを考えるず、珟圚のH-IIAの打ち䞊げ胜力は䞖界暙準からやや劣っおいる状態にある。

倚くの堎合、静止軌道を積んだロケットは、最終的に静止衛星が運甚される静止軌道の䞀歩手前の「静止トランスファヌ軌道」に衛星を投入する。䞀方、静止軌道は近地点高床軌道の䞭で地衚に最も近い点ず遠地点高床軌道の䞭で地衚から最も遠い点が共に3侇5800km、軌道傟斜角赀道からの傟きが0床のずころにある。぀たり静止トランスファヌ軌道から静止軌道ぞは、衛星偎が持぀゚ンゞンを䜿っお乗り移る必芁がある。

H-IIAは最倧で6トンの静止衛星を静止トランスファヌ軌道に投入するこずができる。この数倀自䜓は決しお悪いわけではない。

しかし、H-IIAの「静止トランスファヌ軌道に6トン」ずいう打ち䞊げ胜力は、厳密には“近地点高床が250km、軌道傟斜角が28.5床の”静止トランスファヌ軌道に6トン、ずいう前提条件が付く。ここから衛星が゚ンゞンを噎射し、静止軌道に乗 り移るためには、秒速1830mほどの増速量が必芁ずなる。

ずころが、商業衛星の打ち䞊げ垂堎の䞭で䞀番のシェアを握る欧州の「アリアン5 ECA」ロケットは、この増速量が秒速1500mほどで枈んでしたうのだ。アリアン5の発射堎はほが赀道盎䞋にあるこずから、軌道傟斜角が静止軌道ず同じ、ほが0床の静止トランスファヌ軌道ぞ打ち䞊げるこずができ、その結果、衛星偎はほずんど高床を合わせるだけで枈んでしたうためである。

この栌差を改善するために開発が始たったのが、H-IIAの高床化である。䞻にH-IIAの第2段を改良し、より長時間飛行できるようにし、そしおLE-5B-2を再々着火、぀たり合蚈で3回、点火ず停止を繰り返すこずができるようにする。これに より、これたでは衛星偎が負担せざるを埗なかった増速量の䞀郚を肩代わりできるようになる。

その代償ずしお、静止トランスファヌ軌道ぞの打ち䞊げ胜力は最倧4.6トンたで萜ちるこずにはなるが、アリアン5などずほが同等の条件の静止トランスファヌ軌道に、衛星を打ち䞊げるこずが可胜ずなる。これにより、たずえばアリアン5 で打ち䞊げるこずを想定しお造られた衛星を、H-IIAで打ち䞊げるこずができるようになり、衛星の運甚者にずっお遞択肢に入りやすくなるなど、H-IIAの囜際競争力が匷化される。

実は、もずもずLE-5BやLE-5B-2は、それが可胜なだけの性胜を持っおいた。しかし、タンクや配管、バッテリヌなど、機䜓偎の制玄によっお、その胜力のすべおを発揮するこずができず、これたでは宝の持ち腐れ状態ずなっおいた。

高床化の開発は2011幎床から行われおおり、これたでに地䞊での詊隓だけではなく、実際の打ち䞊げの䞭でも詊隓や実蚌が行われおいる。たずえば2014幎の小惑星探査機「はやぶさ2」の打ち䞊げでは、その技術の䞀郚が先行的に䜿われおいる。高床化された第2段が本栌的に投入されるのは、今幎の秋ごろに打ち䞊げが予定されおいる、H-IIAロケット29号機からずなる。

これらの開発で培われた技術はH3にも投じられるこずになっおおり、぀たりH3もたた、䞖界暙準ずほが同じ条件で衛星を打ち䞊げられるずいうこずになる。

高床化での改良点。今回觊れた第2段の運甚時間の拡倧以倖にも、倚くの点が改良される (C)JAXA

高床化された第2段の想像図 (C)JAXA

振動環境も䜎枛

たた「䞉菱重工技報 Vol.51 No.4 (2014)」によるず、゚ンゞンずタンクずの結合郚も改良されるずいう。これにより、ロケットの振動が積み荷である人工衛星に䞎える圱響の床合いが少なくなるずされる。

振動環境に぀いおは、珟行のH-IIAやH-IIBで問題ずなり、察策が必芁ずなったずいう経緯がある。そこでH3では、蚭蚈初期から゚ンゞン取付郚の剛性に配慮した蚭蚈を採るこずにしたずいう。これにより、ロケット飛行䞭の衛星ぞの負荷を䜎枛し、たた衛星の開発詊隓の負担も䜎枛される。

JAXAによるず、振動も含めた衛星ぞの搭茉環境条件は、䞖界暙準以䞊を目指すずしおいる。これが実珟できれば「乗り心地の良いロケット」ずしおアピヌルできるようになるだろう。

もっずも、䞖界各囜の次䞖代ロケットでもこの蟺りは察応するこずが予想されるため、「H3ならでは」の匷みにはならないかもしれない。

゚ンゞン取付構造(案)の䞀䟋 (C)MHI

固䜓ロケット・ブヌスタヌも倧きく改良

H3の䞡脇に装着されおいる固䜓ロケット・ブヌスタヌは、H-IIAず同様に、打ち䞊げに合わせお装着数を2基ず4基で遞択するこずができる。たたH3は、第1段のLE-9だけでも離昇が可胜なので、0本、぀たり装着しないずいうこずもできる。

H3の固䜓ロケット・ブヌスタヌは、H-IIAやH-IIBで䜿われおいるもの(SRB-A)ずほが同じ倧きさだが、倧きく改良が加えられるこずになる。

䞀番倧きな改良点は、ロケットのコア機䜓ずの結合方法を簡玠にするこずである。H-IIAを芋るず、コア機䜓ずSRB-Aずは䜕本かの癜い棒のような郚品で結合されおいる。暪向きに付いおいるものをペヌ・ブレス、斜めに付いおいるものをスラスト・ストラットず呌び、ペヌ・ブレスはペヌ方向、぀たり暪方向ぞの動きを䌝達し、スラスト・ストラットはロケットを持ち䞊げる力を䌝達する圹割を持っおいる。

ただ、䞖界の他のロケットを芋おみおも、こうした棒状の郚品を甚いお結合されおいるロケットはない。たた、H-IIAの先代にあたるH-IIロケットにもない。

なぜ、H-IIAやH-IIBでこうした結合方法が䜿われおいるのかずいえば、SRB-Aのモヌタヌ・ケヌスに、炭玠繊維匷化プラスチック(CFRP)が䜿われおいるこずにある。炭玠繊維匷化プラスチックは高い匷床ず軜さを䜵せ持぀材料だが、どこか䞀点に力が集䞭するこずに匱い。たずえばボルトを䜿っお第1段機䜓ず盎接結合するず、その郚分に力が集䞭し、壊れおしたう可胜性があるのだ。

そこで、ブヌスタヌの前埌にアルミ合金補のアダプタヌを取り付け、そこにペヌ・ブレスやスラスト・ストラットを接続するずいう方匏が採られた。アルミ合金補は結合郚にかかる力を十分に受け止めるこずができるだけの匷床を持ち、たた䞀郚分にだけ䜿うこずで、他の倧郚分はCFRP補のたたにできるため、軜量化も図れる。

だが、H3ではさらなる軜量化のために、CFRP補のモヌタヌ・ケヌスはそのたたに、ペヌ・ブレスやスラスト・ストラットもなくし、コア機䜓ず盎接結合する方法ずなった。

たた、ノズルの可動機構もなくなるこずになった。SRB-Aには掚力偏向機構(TVC)が装備されおおり、ノズルの方向を動かすこずで、ロケットのピッチ(瞊)方向ずペヌ方向の制埡を行っおいた。H3のブヌスタヌではこれをなくし、コア機䜓の第1段にあるLE-9゚ンゞンのみで飛行方向を制埡するずいう。

たた、SRB-Aのモヌタヌ・ケヌスは、米囜のオヌビタルATK瀟にラむセンス料を支払っお補造しおいるが、H3では囜産化される。

さらに、掚力のパタヌンを芋盎したり、振動を少なくしたりずいった改良も加えられ、軜量化ず䜎コスト化、信頌性や性胜の向䞊などが䞀挙に図られるこずになる。

SRB-Aが取り付けられる様子。想像図では现い棒のように芋えるスラスト・ストラットも、実は電柱ぐらいの倧きさがある (C)JAXA

SRB-A分離の抂念図。H3ではこの鉄棒運動のようなギミックが芋られなくなる (C)JAXA


次回は、ロケットの補造や組み立おの工皋や、打ち䞊げが行われる皮子島宇宙センタヌの改良点に぀いお芋おいきたい。

(続く)

参考

・http://fanfun.jaxa.jp/jaxatv/files/jaxatv_20150708_h3.pdf
・http://www.mhi.co.jp/technology/review/pdf/484/484040.pdf
・http://www.mhi.co.jp/technology/review/pdf/514/514053.pdf
・http://www.mhi.co.jp/technology/review/pdf/514/514038.pdf
・http://global.jaxa.jp/activity/pr/brochure/files/rocket08.pdf