今日で最後です
いよいよ最後の時を迎えました。発売元であるマイクロソフトによる「Windows XP」のサポート及び、更新プログラムの提供が2014年4月8日をもって終了します。もともとマイクロソフトは発売から5年、または次世代製品の発売から2年間のどちらか長い方をサポート期間としており、2001年に発売されたWindows XPは、その利用者数の多さから特例としてサポートを延長していたのです。
大阪信金が調べたところによれば、Windows XPを使用しているのは46.0%に上り、そのうちサポート期間終了後も使用を続けると53.5%が回答しました。継続する理由の最多が「不自由しない」の64.4%。新しいパソコンやOSを利用したことがなければ、そのメリットは分かりません。また、スマホの普及により、パソコンの重要度が下がっているのも背景にあるでしょう。そして次点が「(XP)対応ソフトを使っている」の19.3%で、こちらのほうが深刻です。すでに開発を終了しているソフトは、OSの変更により使えなくなることもありますし、それどころかソフトを更新できても、いままでのデータが使えなくなる「0.2」なソフトが実在するのです。
上位互換という基本の欠落
OSも含めて「ソフトウエア」に完璧は存在しません。欠陥を意味する「バグ」だけでなく、技術進化、需要の変化により、求められる機能が変われば、そのソフトウエアは不完全なモノとなるからです。新製品による世代交代を「バージョンアップ」と呼びますが、このとき大切なことは「データ」を引き継ぐことです。
ワープロソフト「ワード」でつくった花見の案内や、表計算ソフトのエクセルで作った、草野球チームの収支報告書などが「データ」です。デジタルの最大の利点は、過去のデータを「資産」として再利用、活用ができることで、今年の花見の案内状は、日付を変えれば来年も使え、これにより生産性が飛躍的に向上します。マイクロソフトは本日「Office 2003」のサポートも終了しますが、こちらが大問題にならないのは、「Office 2003」で作成したデータの大半は、後継ソフトの「Office 2010」などに引き継げるからです。
ところが、広く普及している某経理ソフトはこの基本ができていません。
ノコギリと違うソフト
設備機器販売のK社長。自宅では「Windows 7」を利用していますが、業務用のパソコンは、メールの送受信と経理ソフトを利用するぐらいで最新機種は不用でした。しかしこの春、サポートが切れるWindows XPに見切りをつけて、新しいパソコンの購入を決め、経理ソフトも更新しようと、ソフト会社に問い合わせると、
「データを引き継げません」
と回答されます。K社長が利用していたソフトは、Windows XPが発売された同時期のモノで、すでにサポートを終了しており、12年も同じソフトを使い続けたK社長は残念ながら0.2。ノコギリやカンナは手入れを続ければ、半永久的に使用できますが、ソフトウェアは想像以上に寿命の短い道具なのです。
ソフトを搭載しているパソコンが壊れるまで使い続けるという荒技もありますが、適度なタイミングでのバージョンアップは避けて通れません。しかし、この経理ソフトはそのものが0.2。K社長が最新版のソフトを購入しても、それまでのデータが利用できないのです。
悪質な逆サポート
この経理ソフトは毎年バージョンアップし、引き継げる過去のデータには最新版から、数年までと限られ、一定年数を越えると「対応不可」としています。K社長はこれに該当しました。しかし、経理ソフトが扱うデータは、文字情報と数字ばかりで、複雑な計算式は不用です。仮にバージョンアップにより、データの並びが変わったとしても、それを自動的に置き換える処理は、プログラムの得意とするところです。さらに複式簿記は中世ヨーロッパから基本的な仕組みは変わっていません。つまり「対応不可」とは、数年おきにソフトの買い換えを迫るために、わざわざサポートできないようにしている「サポート0.2」の可能性が極めて高いのです。
さらに、この経理ソフトは「消費税率」を任意に変更できません。
"法律で決まった税率で計算できるように、お客様による税率変更はできません(意訳)"
とメーカーは説明しますが、「軽減税率の導入」など、税制が変わるたびにこのソフトの最新版を購入しなければならないということです。ちなみにコンビニのレジなどは、商品ごとに課税、非課税、外税、内税の区分と税率を設定できるようになっており、これは消費税が導入された平成元年以前からの基本設計です。つまり、四半世紀前のレジ以下の設計思想すらない0.2なソフトということ。
かつてマイクロソフトも、毎年のように最新版OSを発売していましたが、このビジネスモデルは既に破綻しています。グーグルはもとより、仇敵のアップルもネット経由で、OSを無料で提供(アップルは更新により対応)する時代になったからです。そして数字と文字しか扱わない経理や会計は「クラウド」に適した分野です。経理ソフトにもネット経由で、サービスを提供するものが登場し始めております。つぎの増税までに、普及することを期待しています。
エンタープライズ1.0への箴言
「ソフトウエアは永遠に使えない道具」
宮脇 睦(みやわき あつし)
プログラマーを振り出しにさまざまな社会経験を積んだ後、有限会社アズモードを設立。営業の現場を知る強みを生かし、Webとリアルビジネスの融合を目指した「営業戦略付きホームページ」を提供している。コラムニストとして精力的に活動し、「Web担当者Forum(インプレスビジネスメディア)」、「通販支援ブログ(スクロール360)」でも連載しているほか、漫画原作も手がける。著書に『Web2.0が殺すもの』『楽天市場がなくなる日』(ともに洋泉社)がある。最新刊は7月10日に発行された電子書籍「食べログ化する政治~ネット世論と幼児化と山本太郎~」