Facebookの登録者数が5億人を超えた。Twitterも2億人を超えた。とんでもない数字である。が、この先これらの登録者数がどこまで広がるのか、現在の伸び方を見ていると、10年後には世界人口よりも利用者の方が多い……なんてことにもなりかねない(本当にそんなことが起きるとも思えないが)。一方では、すでに拡大にブレーキもかかり出したようだ。今回は、前回に続きSNSに関する話題をお届けする。

SNS自身の変質

SNSとはソーシャル・ネットワーキング・サービスの略である。いわゆる「出会い系」のサイトでも何でもない。だから、実名での利用が本来の姿である。しかし、ここまで巨大になると絶滅した恐竜と同じである。

日本のTwitterの利用者を見ていると、最近は実名がわからないユーザーも増えた。「つぶやき」も「~なう」といったものが多くなり、本来のSNSとは無縁になりつつある。フォロワーを増やすために誰彼かまわずフォローする。単に「数」を競い合っているようなものだ。これでは他のユーザーが何をつぶやいているのか、まったくわからない。

これは数を競い合うためではないだろうが、極端な例が鳩山前首相である。鳩山前首相は、筆者も含めて15万人近くをフォローしている。いくら何でも、本人が15万人の意見(つぶやき)を見るなんてことは不可能だ。

mixiは最初から実名ではなくニックネームを推奨している。実名でないということは「何でも書いてよい」という誤った考えも出てくる。一部の利用者に限った話であろうが、他人の意見が気に食わないと仲間を誘ってmixi上で攻撃する。「炎上」騒ぎである。すでに筆者の仲間もこれが嫌でmixiを退会した人が多い。退会しなくても、mixiにほとんどアクセスしなくなった人が1/3以上いる。以前の「2ちゃんねる」と同じ道を歩んでいる。「悪貨は良貨を駆逐する」、そのままである。

筆者の周りに限ったことかもしれないが、Facebookはまだ健全に見える。筆者のFacebook上の「友人」の1/4はインド人である。それもIT企業の幹部ばかり。英語と日本語が混在して、何も違和感がない。なかなかよくできたシステムである。

英語と日本語が混在した筆者のFacebookの画面

しかし、Facebookの総登録者数は5億人である。問題が起きないわけがない。米国ではすでに社会問題になっているようだ。ニュースを見ていると、「フェースブックがあなたの人生をぶち壊す」という記事があった。債権者に監視される、保険会社に支払いを拒まれる、離婚の際に不利になる等々……そこにはいくつもの悲喜劇が並ぶ。

Facebookを世界で最もうまく利用している国

現状でFacebookを最もうまく利用しているのはインドかもしれない。

レンタルオフィス企業のリージャスグループは今年の7月に「SNSのビジネス利用実態調査」の結果を発表した(調査時期は今春。調査対象は世界1万5千社)。それによると、SNSは新たなビジネス戦略として広く使われており、世界中の企業の4割がSNSを通じて新たな顧客を獲得しているという。

中でも特筆すべきはインドの52%という数字である。残念ながら、日本でマーケティング予算をSNS活用に配分している企業はわずか19%(世界平均27%)しかないとのこと。インドでは、消費者もSNSを活用している。出自は失念してしまったが別の調査では、インドではネットショッピングで耐久消費財や家電製品を購入する場合、55%の消費者がSNS上での製品評価を参考にしているという結果も出ている。筆者はそんなインドで、このままFacebookが拡大するとは思えない。

「国産SNS」への流れ

主要国でFacebookがSNSの登録者数で首位を占めていない国は日本、中国、ロシア、ブラジルだけらしい。面白いことに、BRICs4ヵ国中の3ヵ国がそうである。その中では、中国が最もはっきりしている。

中国ではFacebookもTwitterも遮断されたし、Googleも事実上締め出された。中国では、国内のサービスプロバイダが市場をほぼ独占している。これは完全なガラパゴス化である。

それだけではない。少なくともITの世界では、中国は様々な領域で独自規格を目指している。6000億元の投資でデータベースやネットワークセキュリティソフト、次世代移動通信における中国独自規格のTD-SCDMA、デジタルテレビ、文書作成ソフトとか表計算ソフトまで……これらのすべてにおいて中国の独自規格が存在する。巨大な市場があるからガラパゴス化も問題にならない。

インドでは、FacebookとOrkutが大きな位置を占めている。どちらも米国製だ。しかしBlackBerry問題がある。携帯情報端末 BlackBerryの高度な暗号機能のために、インド政府がメッセージを監視できない。そのためインド政府は、「テロリストに悪用される恐れ」を理由に、サービス提供事業者のResearch In Motion社(RIM)に対して情報を見えるようにするか、インドからの撤退を要求している。8月末の期限では一時的にRIM側が譲歩したようだが、最終決着はついていない。SkypeとGoogleもインド政府から同じ要求を突き付けられている。

実は、これは「テロ対策」だけが理由なのではない。根本には「欧米による情報独占に叛旗を掲げる」ということがあるのだろう。つまり、「米国政府が監視できてインド政府が監視できないのはおかしい」と言っているだけである。もっと大きな問題はインドの動きに新興国各国が追随する可能性が高いことだ。

この延長で、「SNSも政府の管理下に置く」といった流れが出た時には、Facebookの拡大も終わりである。インドも「国産」の道を歩む。

「専門特化」への流れ

SNSに関するもう1つの流れは「専門特化」である。恐竜のような巨大なSNSの時代ではない。

米アップルは今月3日、9月1日の「iTunes10」リリース後48時間で、SNS機能「Ping」に100万人のユーザーが参加したと発表した。iTunes 10をダウンロードしたユーザーの、実に1/3がPingに参加したとのことである。

PingはiTunes10に追加された音楽に特化したSNS機能である。任意のアーティストや友達をフォローすることで、「何を聴いたのか」「どのミュージシャンが好きか」などを知ることができるらしい。

巨大なFacebookには飽き足りない新たなユーザーの動きである。今後は専門特化したSNSがさらに増えるであろう。

日本にもそろそろmixiとかTwitterとは違ったSNSが生まれてもいいのではないかと思うのだが。

著者紹介

竹田孝治 (Koji Takeda)

エターナル・テクノロジーズ(ET)社社長。日本システムウエア(NSW)にてソフトウェア開発業務に従事。1996年にインドオフショア開発と日本で初となる自社社員に対するインド研修を立ち上げる。2004年、ET社設立。グローバル人材育成のためのインド研修をメイン事業とする。2006年、インドに子会社を設立。日本、インド、中国の技術者を結び付けることを目指す。独自コラム「[(続)インド・中国IT見聞録]」も掲載中。