米国商務省と米国国立半導体技術センター(NSTC)の運営者であるNatcastは、「CHIPS for America」の旗艦研究開発(R&D)施設をニューヨーク州アルバニー(IBMの半導体研究施設などのあるAlbany Nanotech Complex)およびカルフォルニア州サニーベール(シリコンバレーの中心都市)に設置すると発表した。

  • Albany Nanotech Complex

    ニューヨーク州の外郭団体であるNYCREATESが管理するAlbany Nanotech Complexの全景 (出所:NYCREATES)

アルバ二―に8億ドルを投じてEUV技術研究施設も設置

さらに商務省/NIST(米国立標準技術研究所)は、米国における最先端のEUVリソグラフィ技術とそれに関連する研究開発を促進するため、NSTCの施設として「CHIPS for America Extreme Ultraviolet (EUV) Accelerator」を、アルバニーのAlbany Nanotech Complex内に新設することも決めた。CHIP and Science法(CHIPS法)に基づき、商務省はEUV施設に8億2500万ドルを投資し、NA=0.33のEUV露光装置を2025年までに、NA=0.55の高NA EUV露光装置を2026年にそれぞれ導入予定としている。

このEUV施設を設置する目的は、以下の3つの主要目標を達成することだとしている。

  1. 米国の技術リーダーシップの拡大
  2. 微細デバイス試作品作成の時間とコストの削減
  3. 半導体人材エコシステムの構築と維持

シリコンバレーにNSTCの設計拠点を設置

一方、サニーベールに設置されるNSTCの旗艦研究開発施設は「Chips for America Design and Collaboration Facility(DFC)」と呼ばれる。アルバニーに加えてサニーベールにもNSTCの施設を設置する理由として商務省は、シリコンバレーの活気に満ちた多様な半導体設計エコシステム内で、半導体バリューチェーン全体にわたって半導体設計研究、人材育成、投資、コラボレーションを推進する上で重要な役割を果たすためとしている。

Natcastは、DFCの具体的な業務内容として以下のような4項目を挙げている。

  1. 半導体チップ設計、電子設計自動化(EDA)、チップおよびシステムアーキテクチャ、ハードウェアセキュリティに関する高度な半導体研究の実行
  2. NSTCワークフォースセンターオブエクセレンス、デザインイネーブルメントゲートウェイ、将来の投資ファンドなどのプログラム活動を主催
  3. NSTCメンバーと半導体エコシステム全体の関係者の招集
  4. NSTCのさまざまな管理機能を収容

DFCは、CHIPS for America EUVアクセラレータ、および今後予定されているCHIPS for America NSTCプロトタイピング(先端微細デバイスの試作)およびNational Advanced Packaging Manufacturing Program(NAPMP)、Advanced Packaging Piloting Facilityとともに、CHIPS for Americaの主力研究開発施設の1つとなり、NSTCのコミュニティに利益をもたらし、全国の研究者に重要なテクノロジーを提供するように設計されているとNatcastは説明している。

10月に4社へのCHIPS補助金支給が決定

このほか米商務省は、2024年9月までにCHIP and Science法に基づいて半導体デバイス、装置、材料メーカー17社への補助金支給を決めていたが、10月にはさらに4社への補助金支給を決めている。

1社目はWolfspeedで、最大7億5000万ドルの直接資金提供を行うことを決めた。提供される資金は、ノースカロライナ州サイラーシティの新しいSiCウェハ製造施設の建設を支援し、将来のエネルギー経済と人工知能(AI)ブームを支える半導体の安定した国内供給の確保に役立てるという。また、このノースカロライナのプロジェクトに加えて、ニューヨーク州マーシーのデバイス製造施設の計画的な拡張も促進することも期待されている。これらのプロジェクトを合わせると、製造業で2000人以上、建設業で3000人以上の雇用が創出されると推定されており、同社が以前に発表した60億ドルを超える生産能力拡大計画の一環に位置づけられ、この提供される資金は、同社の拡張計画を支援するために少なくとも7億5000万ドルの民間資本投資を促進することにも役立つという。

ジーナ・レモンド米国商務長官は、「AI、電気自動車(EV)、クリーンエネルギーはすべて21世紀を定義する技術であり、Wolfspeedのような企業への投資提案のおかげで、バイデン・ハリス政権はこれらの重要な技術の基盤となる半導体の米国製造を再活性化させる重要な一歩を踏み出すことになる」と述べている。

2社目はHemlock Semiconductor(HSC)で、半導体グレードのポリシリコン生産における米国のリーダーシップを強化するために、最大3億2500万ドルの直接資金が提供される。ミシガン州ヘムロックにあるHSCの既存キャンパスに、超高純度半導体グレードのポリシリコンの生産と精製に特化した新しい製造施設の建設を支援する。提案されたプロジェクトは、約180の製造業の雇用と1000を超える建設業の雇用を生み出すと推定されている。

「1961年に設立されたHSCは、米国を拠点とする唯一の超高純度ポリシリコン製造業者であり、最先端の半導体市場に必要な純度レベルのポリシリコンを生産している世界の5社のうちの1社である。提供される資金により、HSCは超高純度半導体グレードのポリシリコンの生産能力を増強し、最先端のチップアプリケーションだけでなく、より広範な半導体エコシステムにも貢献し、米国の国家、経済、エネルギーの安全保障を強化することになる」と商務省は出資の意義を強調している。

3社目は英国に本拠を置く多国籍真空ポンプメーカーのEdwards Vacuumで、最大1800万ドルの補助金が提供される。この資金は、同社が2022年に初めて発表したニューヨーク州ジェネシー郡の最先端製造施設の建設を支援するもので、同施設では、半導体製造に必要なドライ真空ポンプを生産し、約600人の雇用を創出する見込みである。

ジーナ・レモンド商務長官は、「現在、半導体グレードのドライ真空ポンプは米国内で生産されていないため、今回の直接資金提供は米国の経済と国家安全保障の強化に向けた有意義な一歩となる」として、半導体サプライチェーンのあらゆる部分を米国内で構築するために商務省が取り組んでいることを強調している。

4社目は光集積回路メーカーのInfineraで、最大9300万ドルの直接資金が提供される。この資金により、Infineraは、カリフォルニア州サンノゼの新工場と、ペンシルベニア州ベツレヘムの新しい高度なテストおよびパッケージング施設の建設を加速させる計画で、このプロジェクトにより、Infineraの国内製造能力は推定10倍に増強され、最大約500件の製造職と1200件の建設職が創出されると予想されるという。この2拠点の詳細な投資内容は以下の通り。

  • サンノゼ:将来の生産能力と性能の需要を満たすことを目的としてInPベースの光集積回路(InP PIC)の製造能力を増強するために、4万平方フィートを超えるクリーンルームスペースを備えた新しい近代的な工場とファウンドリを建設する。この建設により、Infineraの生産能力は10倍に増強されると予測される。
  • ベツレヘム:InP PICの需要増加に対応することを目的とした、最先端の高度なテストおよびパッケージング施設を新たに建設する。米国でInP PICのパッケージングに特化した数少ない高度なテストおよびパッケージング施設の1つとして、このプロジェクトは、Infineraの防衛および諜報部門の顧客と商業およびAI部門向けの国内パッケージングベースを維持しながら、国内および世界のパッケージングサプライ チェーンを強化することにも役立つという。さらに、この施設には、2.5Dおよび3Dパッケージングや新しい光学パッケージング技術に重点を置いた専用の研究開発スペースも含まれているという。

Infineraは垂直統合型の半導体および通信機器メーカーで、米国で製造施設、高度なテストおよびパッケージング施設を20年以上運営している。米国では大量のデータへ処理ニーズが高まり、エネルギー使用量が増加する中、光を使用してエネルギー効率の高い情報転送を実現する同社のInP PICの重要性が高まっている。PICと光モジュールは、光ネットワーク通信の主要コンポーネントで、これらのコンポーネントにより、短距離から長距離のブロードバンドネットワーク、データセンター内のAIと機械学習のクラスタ間、およびデータセンター間で、大量のデータを高速かつ確実に転送できるようになる。

ジーナ・レモンド商務長官は、「AIからEV、通信インフラまで、21世紀の技術はすべてInfineraが製造するような光半導体に依存している。バイデン・ハリス政権は、今回のような投資提案により、CHIPS法の経済および国家安全保障の目標達成に向けて意義ある措置を講じており、半導体製造プロジェクトを確保し、全国でハイテク雇用を創出するのに役立つ」と述べている。

これらCHIPS法に基づいた補助金を受ける各社は、米商務省との間で暫定覚書を締結した段階であり、最終的に補助金を手にするするためには、提案されたプロジェクトに関する包括的なデューデリジェンス(適格性審査)プロセスを経なければならない。なお、いずれの企業も、適格資本支出の最大25%に相当すると予想される財務省の投資税額控除を申請する予定であることを表明している。