2025年12月6〜10日にかけて米国サンフランシスコで開催される半導体の国際会議「IEDM 2025」では、基調講演や招待講演のほか、採択された295件の一般講演が行われる。主催者は、その中から16件をもっとも注目される講演として選出し、その内容をメディア向けに事前公開しているので、今回はその中からイメージング・センシング分野の注目講演として選出されたソニー、Samsung Electronics、韓KAIST、米ミシガン大学/フロリダ大学の4件の内容を紹介したい。

イメージング・センシング分野の注目講演

ソニーによるSWIR検出波長を備えたGe-on-Si SPADセンサ

Paper #8.1, “10μm Pitch Ge-on-Si SPAD Pixel Array with PDE of 33.8% at 1300nm and 23.3% at 1550nm under Room Temperature Environment(室温環境下における10μmピッチGe-on-Si SPADピクセルアレイ、1300nmで33.8%、1550nmで23.3%の光検出効率を実現)” S. Yoshida, Sony

単光子アバランシェダイオード(SPAD)センサは、AR/VRデバイス、光検出測距(LiDAR)システム、スマートフォン(スマホ)への搭載によって市場拡大が続いているセンサ。従来のSPAD技術は、シリコンの物理的特性により、近赤外線(NIR)領域での検出波長が制限されていたが、短波長赤外線(SWIR)を検出できるSPADは、強い日光などの厳しい環境条件下での動作に適しており、魅力的なアプリケーションとなる。

ソニーの研究者は今回、300mm Siウェハプロセスを用いて製造した10μmピッチのGe-on-Si SPADピクセルアレイを発表するほか、このSPADを組み込んだLiDARシステムについての紹介も行う予定だという。同システムは、直射日光下でも最大18mの距離で動作するもので、低バイアス時でも、光検出効率(PDE)は1300nmで33.8%、1550nmで23.3%を達成しているとする。

  • 隆起オンチップレンズ(OCL)の効果

    隆起オンチップレンズ(OCL)の効果 (提供:IEDM/IEEE、以下すべて同様)

  • 短波長赤外線(SWIR)波長と光検出効率の関係

    短波長赤外線(SWIR)波長と光検出効率の関係

Samsungによる0.7μmピッチのデュアルフォトダイオードピクセルCMOSイメージセンサ

Paper #42.8, “A 2-layer, 0.7μm-pitch Dual Photodiode Pixel CMOS Image Sensor with Metaphotonic Color Router(メタフォトニックカラールーターを備えた2層0.7μmピッチのデュアルフォトダイオードピクセルCMOSイメージセンサ)” J. Go et al, Samsung Electronics

Samsung Electronicsの研究チームは、2層ピクセル設計と高密度ハイブリッドCu-Cu接合を用いて実現した、世界最小級となる0.7μmピッチデュアルフォトダイオードピクセルを発表する。

0.35μmピッチのフォトダイオードと垂直転送ゲートは第1層に配置され、ピクセルトランジスタは第2層に配置されている。このような狭いピッチでのオートフォーカスの課題に対処するため、従来のオンチップレンズの回折限界を超えて焦点を合わせるマルチフォーカルメタフォトニックカラールーター(MPCR)を集積したとする。このデバイスは、60℃において10ke-のフルウェル電荷量、1.5e-のランダムノイズ、1.2e-/sの暗電流という性能を実現しており、これによりサブミクロンスケールCMOSイメージセンサにおける位相差オートフォーカス(PDAF)性能が向上すると研究チームでは主張している。

  • 2層ピクセルの図

    2層ピクセルの図と対応するピクセルのアーキテクチャ。Pixel-1ウェハの4つのピクセル(2×2)はそれぞれ、Cu-Cuボンディングを介してPixel-2ウェハの共有ピクセルトランジスタとつながる

  • Cu-Cuボンディングとトランジスタの断面TEM

    Cu-Cuボンディングとトランジスタの断面TEM

  • 従来のオンチップレンズ(OCL)とメタフォトニックカラールーター(MPCR)によって形成されるビーム焦点の図

    従来のオンチップレンズ(OCL)とメタフォトニックカラールーター(MPCR)によって形成されるビーム焦点の図

  • 従来のOCLとMPCRを用いた場合のピクセルの角度応答

    従来のOCLとMPCRを用いた場合のピクセルの角度応答

KAISTによるCMOS互換スパイク埋め込み型ニューロモルフィックセンサ

Paper #34.1, “Monolithically Integrated Photodiode–Spiking Circuit for Neuromorphic Vision with In-Sensor Feature Extraction(センサ内特徴抽出機能を備えたニューロモルフィックビジョンのためのモノリシック集積フォトダイオード・スパイキング回路)” S. Kim et al, KAIST, Korea)

韓国の国策大学である韓KAIST(韓国科学技術院)の研究者らは、フォトダイオードとTFTベースのスパイク回路を集積し、センサ内で光信号からスパイク信号への変換を行うバイオミメティック(生物を模倣した)ビジョンセンサについて発表する。

このアーキテクチャは、CMOSイメージセンサ(CIS)からA/Dコンバータ(ADC)への変換(つまり、イメージセンサ信号をデジタルデータに変換)とDRAMキャッシュ転送という従来のデジタル処理のボトルネックを解消したもので、光強度を周波数変調されたスパイク列に直接変換し、光感度乗算・累積(MAC)メカニズムを実行し、最小限の消費電力でアナログ領域における畳み込みニューラルネットワーク型の特徴抽出を可能にするほか、300nmから800nmまでの広いスペクトル応答と高速な光応答時間(1μs未満)により、ニューロモルフィックセンサのエッジへの実用的な実装を可能にする道をひらくとしている。

  • CMOS互換スパイク埋め込み型ニューロモルフィックセンサ(C-SENS)

    CMOS互換スパイク埋め込み型ニューロモルフィックセンサ(C-SENS)。a-Si CNN MACアレイ、Poly-Siスパイクジェネレータ、CMOSベースのスパイキングニューラルネットワークを積層し、光からスパイクへの変換、機能分離、エッジ対応動作を可能にしている

  • 時間変化する照度に対するスパイク周波数の動的応答

    時間変化する照度に対するスパイク周波数の動的応答。光強度の上昇と下降に伴うリアルタイムの周波数変調動作を確認している

  • C-SENSを用いたノイズ耐性の高い画像エンコード

    C-SENSを用いたノイズ耐性の高い画像エンコード。従来の手法では生画像からスパイクエンコードのみを行うが、C-SENSはまずピクセル内畳み込みによってスパイクエンコードされた特徴画像を抽出する

ミシガン大とフロリダ大によるマルチシアモードシリコンバルク音響クロック

(Paper #13.1, “A Multi-Shear-Mode Silicon Bulk Acoustic Clock Achieving 102ns Time Deviation at 8 Hours(8時間で102nsの時刻偏差を実現するマルチシアモードシリコンバルク音響クロック)” B. Jabbari et al, University of Michigan)

米ミシガン大学とフロリダ大学の研究者らは、角砂糖の4分の1よりも小さなチップ体積で、原子標準の安定性に迫る8時間で102nsの時間偏差を実現するシリコンMEMSクロックを発表する。

このデバイスは、0.25cm3、130mWのパッケージに、ダフィングベースの熱ドリフト補償機能を備えた単一のバルク音響波共振器に、2つのデュアルシアモードラメ共振(バルク音響波振動の一種)を搭載したもので、24時間で-110dBc/Hzの位相雑音と±135pptのドリフトを達成し、小型ルビジウム原子標準と比較してMEMSクロックの新たなベンチマークを確立したとする。同システムは、サイズと消費電力を従来ソリューションと比べて2~3桁削減し、これまでMEMSベースのクロックでは実現できなかった長期的な周波数安定性を実現しているという。

  • マルチシアモードシリコンバルク音響クロック

    8時間で102nsという極小の時間偏差(TDEV)を実現するマルチシアモードシリコンバルク音響クロック。このクロックは、in-situ温度センシングとクロック生成のための2つのモードを備えた単結晶AlScN-on-Si X-Lamé共振器、トランスインピーダンスアンプ(TIA)と絶対温度相補型(CTAT)温度センサを備えたPMOSヒーターを集積したシリコンインターポーザーで構成されている。インターポーザーは、体積0.25cm3のLCCケースに接合されており、クロックの消費電力は、外部マイクロコントローラを除いて約130mW

  • 単結晶AlScN-on-Siマルチシアモードバルク音響共振器のSEM画像

    単結晶AlScN-on-Siマルチシアモードバルク音響共振器のSEM画像。共振器の形状は、高Q値で基本波および倍音ラメモードを局在させるように設計されている。この共振器は、ドープされたSi基板上に分子線エピタキシー(MBE)法で成長させたエピタキシャルAlScNトランスデューサを採用しており、9.7×1011Hzというf x Q値を実現しながら、DCバイアスなしで低挿入損失を実現している。挿入図は、COMSOLでシミュレーションされたFラメモードとOラメモードの断面モード形状を示している

(次回に続く)