ChatGPTの登場を機に、日本の企業や自治体において、AIの活用が加速している。中でも、広島県は今年9月に「AIで未来を切り開く」ひろしま宣言を行い、県を挙げてAIの活用に取り組んでいる。
広島県はAI活用をリードする取り組みとして、「広島AIラボ」「ひろしまAIサンドボックス」「ひろしまAI部」をスタートした。本連載では、これら3つの取り組みのご担当者に話を聞き、広島県が取り組むAI活用をひも解いていく。今回は「ひろしまAIサンドボックス」を取り上げる。
2018年に始まったオープンな実証実験の場「ひろしまサンドボックス」
広島県は2018年から「ひろしまサンドボックス」という取り組みを行っている。これは、最新のテクノロジーを活用することにより、広島県内の企業が新たな付加価値の創出や生産効率化に取り組めるよう、技術やノウハウを保有する県内外の企業や人材を呼び込み、さまざまな産業・地域課題の解決をテーマとして共創で試行錯誤できるオープンな実証実験の場。
イノベーション推進チームの村上桂太氏は、「広島県は2018年にイノベーション立県を目指すことを掲げ、その一環として、ひろしまサンドボックスを立ち上げました。その背景には、第4次産業革命によりこれまで実現不可能と思われていた社会の実現が可能となったことに伴い、産業構造や就業構造が劇的に変化しつつあった一方、広島県内では企業現場におけるデジタル技術の導入が必ずしも順調に進んでいるとは言えない状況にあり、そのことに対する危機感がありました」と話す。
2018年以来、「ひろしまサンドボックス」ではさまざまなプロジェクトが行われた。村上氏はその例として、東京大学と江田島市などが実施したカキの養殖のプロジェクトを紹介してくれた。
このプロジェクトは、広島県の海洋の各種情報(温度、風速、海の栄養状態、上空からの画像情報など)やかき養殖に関する情報のセンシング・収集を行い,それら情報をAIにより自動的に処理・分析することで海洋の状態を予測するというもの。
村上氏は、「ひろしまサンドボックス」がうまくいった背景には、「失敗してもよい、とにかくやってみよう」という「ひろしまサンドボックス」のコンセプトがあると話す。広島県には新しいことに挑戦しやすい土壌があるという。DX(デジタルトランスフォーメーション)の成功の要因としても、失敗を恐れずに、新しいことにチャレンジできる環境が挙げられることが多い。
「失敗してもいい」をコンセプトに、斬新なアイデアを募集
そして2024年10月、AIを活用した試行錯誤の場として「ひろしまAIサンドボックス」が始動した。これは、アイデア段階も含め、AIを活用したソリューションの開発者を広島に集め、県内企業や地域の課題解決に向け、チャレンジできる環境を提供する取り組みだ。開発・実証にかかる経費の半分、最大1億円を県が支援する。
イノベーション推進チーム担当課長の崎本龍司氏は、「ひろしまAIサンドボックス」の特徴として、以下3点を挙げた。
- AI開発者はアイデア段階の実証ができる
- 県内企業は費用を負担することなく、AIの効果を検証できる
- 「失敗OK」という「ひろしまサンドボックス」のコンセプトを継承した、挑戦的な事業
「ひろしまサンドボックス」と同様に、「必ずしも、うまくいかなくてもいい。失敗してもいい」をコンセプトとして、これまでにないアイデアの実現を後押しする。
村上氏は、提案の審査について、「世の中に出回っていることを促進することが目的ではありません。新規性、創造性を重視しています。アッと驚くアイデアを期待しています」と話す。
「自由提案型」と「課題提案型」の2パターンで募集
「ひろしまAIサンドボックス」は「自由提案型」と「課題提案型」の2つのパターンがある。
自由提案型
自由提案型は、首都圏を中心としたAI開発者が取り組んでみたいアイデアを募集し、新規性・創造性などの観点で採択する。ソリューションを開発する際にデータが必要となることから、データを提供する県内企業とマッチングし、共同でソリューション開発に取り組む。
AI開発者にとっては、「アイデア段階の実証ができる」「マッチング支援により、ビジネスにつながる可能性がある」といったメリットがある。一方、県内企業には、費用を負担せずに、課題解決や新ビジネスに向けたAI導入検証を行えるというメリットがある。
崎本氏は、「アイデアは何でもありと考えています。他県にはない取り組みです」と語る。
課題提案型
課題提案型では、県内企業等の課題を掘り起こし、AI開発者向けに整理した課題リストを提示し、そのリストを見たAI開発者に手を挙げてもらい、共同でソリューション開発に取り組む。
AI開発者には、課題リストを見て、自社の技術を生かす提案ができるといったメリットがある。
県内の企業にアンケートをとったところ、「AIを活用したいが、何ができるのかわからない」という回答が多かったそうだ。これは広島県の企業に限ったものではなく、日本全国の企業が抱える課題といえよう。いかにスピーディーにAIを自社のビジネスに取り入れられるかで、市場における競争力が変わってくる。広島県としては、AI活用の底上げを図ることで、県内企業の競争力を上げていこうというわけだ。
崎本氏は、「他県の支援は観光や福祉などに限定されているケースが多いですが、広島県は自由な発想を求めています。ひろしまAIサンドボックスを使ってもらえば、AI開発者はドアノック営業が不要になります。技術を売りたいAI開発者とAIで課題を解決したい県内の企業をマッチングしたいと考えています」と語る。
村上氏は、今後の展望について、「ひろしまAIサンドボックスはチャレンジングな内容ですが、その分、これからのビジネスに役立つと考えています。AIはこれからの時代を生き抜いていくために必須の分野となっているので、ぜひとも、AI開発者の方々に広島に集まってもらって、成長する一助となればと思っています」と語っていた。