ChatGPTの登場を機に、日本の企業や自治体において、AIの活用が加速している。中でも、広島県は今年9月に「AIで未来を切り開く」ひろしま宣言を行い、県を挙げてAIの活用に取り組んでいる。

広島県はAI活用をリードする取り組みとして、「ひろしまAIサンドボックス」「広島AIラボ」「ひろしまAI部」をスタートした。本連載では、これら3つの取り組みのご担当者に話を聞き、広島県が取り組むAI活用をひも解いていく。今回は「広島AIラボ」を取り上げる。

  • 左から、広島AIラボ 主事 江盛翔太氏、同 主任 森永雄一朗氏、DX推進担当部長 安藤良将氏

  • 広島県のAI活用をリードする3つの取り組み

「広島なら・広島だからできる」AI活用を進める

広島県の湯﨑英彦知事は、9月の記者会見で、「生成AIを含めた技術のスピードはすさまじく、現在、行政も民間も十分に対応できているところはあまりない状況にあるからこそ、イノベーション先進県である広島県が、AIで未来を切り開く」と宣言した。

具体的には、AIとデータを活用できる環境整備、人材集積とのイノベーションエコシステムの完成に向けて、挑戦するという。

一方で、NVIDIAの半導体「H200GPU」には、広島で開発・製造されているマイクロンのメモリが搭載されており、広島から世界中のAIを支える技術が生まれている。

湯崎知事は、広島では『新しいことに挑戦しやすい環境』や『挑戦することが当たり前の土壌』が醸成されていることから、AIについても「広島なら・広島だからできる」と語っていた。

県職員がAIの可能性を探る組織を立ち上げ

今回は「広島AIラボ」を紹介しよう。「広島AIラボ」は、AIのポテンシャルを十二分に引き出し、地域課題の解決と付加価値を創出することを目指し、県庁内に設置された。

「広島AIラボ」では、県職員と外部人材が専属的に自らテーマを設定し、新しい価値を生み出すようなAIの活用に向けて自由に探索・研究を行っていく。チームとして、庁内の若手の県職員2名が参加しており、これから外部人材の採用が行われる。外部人材は現在、3名程度として募集が行われている。こうした試みは広島県では初とのこと。

「広島AIラボ」を統括しているDX推進担当部長の安藤良将氏、「広島AIラボ」に所属している森永雄一朗氏が取材に応じてくれた。

安藤氏は、「広島AIラボ」の狙いについて、「生成AIが普及してきましたが、まだAIのポテンシャルが引き出されていないと推定されます。AIは社会課題に貢献できる余地がまだまだあるので、広島AIラボでは何ができるかを追求します」と説明した。

AIが役立つ課題や組織の構築を模索中

もとは土木建築局に所属していた森永氏だが、大学ではAIを学んでおらず、就職後に独学で取り組んでいたそうだ。広島県では試行を踏まえ、今年から全職員が生成AIを活用できる環境となっており、主な用途は文書の要約、壁打ち、翻訳などとのこと。

森永氏は、「ハルシネーションも体験しましたが、生成AIはアイデアの気づきや発想の支援に効果的だと感じています」と話す。東京都が生成AIのガイドラインを公表しているが、そうした他の自治体のガイドラインも参考に、広島県もガイドラインを策定し、それに従った運用を進めている。

森永氏は今、どのような活動をしているのだろうか。

森永氏によると、AIを活用するうえでの課題や技術動向を探っているそうだ。「AI人材が不足しているので、その活用の限界を感じています。今の組織にどうやってAIを入れるか、AIがミスしたらどうするか。AI人材がいない中で、AIが使える組織をどうやって作っていくか。こうしたことを考えています」と同氏はいう。

また、医療分野はデータが集まっていることから、森永氏は「AIとデータを活用して診断結果が出る前に予測できれば、医療費の削減にもつながります」と、医療分野におけるAI活用の効果について期待をのぞかせた。

AIの力でさまざまな社会課題の解決を

今年9月に発足し、外部人材を募集中と、まだ走り出したばかりの「広島AIラボ」。安藤氏と森永氏に、今後の展望について聞いてみた。

安藤氏は、「現在、従来の手法では社会課題を解決するのが難しい状況です。私が把握している限り、AIで社会課題を解決するための組織を立ち上げた自治体は広島県が初めてです。AIによって、さまざまな社会課題の解決を目指します」と話す。

広島県には「失敗上等」というチャレンジを尊重するカルチャーがあるので、新しいことに取り組むことに対するハードルが低いという。

また、森永氏は「広島AIラボはやりたいことが調べられるなど、何でも自由にやれる恵まれた環境です。ただ、現在はAIの探求・研究を広げていますが、最終的には取り組むべきテーマを絞り込む必要があることから、大変だと感じています」と語っていた。