英国の調査会社であるOpenSignalは2025年11月5日、日本市場における最新の「モバイル・ネットワーク・ユーザー体感レポート」を発表。KDDI(au)が11部門で首位を獲得するなど高い評価を得ていますが、一方で競合からは調査に異論の声も出てきているようで、ネットワークをいかに多角的に評価していくかという点には課題があるようです。→「ネットワーク進化論 - モバイルとブロードバンドでビジネス変革」の過去回はこちらを参照。
最新レポートではKDDIが連続で国内トップに
2023年にNTTドコモが大都市部で通信品質を著しく低下させたことを機として、5G時代に入り関心が失われたモバイルネットワークの通信品質が、再び注目されるようになりました。そして現在、その通信品質を測る主要な指標として注目されているのが、OpenSignalの「モバイル・ネットワーク・ユーザー体感レポート」です。
これは同社が毎年4月と10月に発表しているもので、国内では携帯4社のネットワークにおいて、動画の再生やゲーム体験、アップロードやダウンロード、そしてエリアカバーや通信の信頼性など、複数の項目で各社のモバイルネットワークを評価。
そのうち1位を獲得した通信会社が「WINNER」(勝者)となりますが、差が僅差だった場合は複数の企業が「JOINT WINNER」(共同勝者)となります。
そしてOpenSignalは、2025年11月5日に最新となる2025年10月の日本版モバイル・ネットワーク・ユーザー体感レポートを公開しているのですが、その内容を確認しますと、au(KDDI)が最も多い11の勝者および共同勝者を獲得しており、携帯4社の中では最も高い評価を得ていることが分かります。
KDDIが勝者を獲得している項目は、4G/5Gのライブ・ビデオやゲーム体験など複数にわたりますが、重要なポイントは「コンシステント・クオリティ」(一貫した品質)や「信頼性エクスペリエンス」といった項目で、単独で勝者を獲得していることです。
これらの項目はどこでも安定した品質で通信できることを示し、携帯各社が最も重要視する指標となっているだけに、この2項目でKDDIが単独で勝者を獲得していることは非常に大きな意味を持つのです。
しかもKDDIは、2024年10月の調査から、今回に至るまで3回にわたって国内携帯4社の中で最も高い評価を獲得しているのに加え、調査方法の変更などから一貫した品質部門の評価がなかった2025年4月の調査を除けば、一貫した品質で2回、信頼性エクスペリエンスで3回勝者を獲得しています。
2025年9月30日にOpenSignalが公表した「5Gグローバル・モバイル・ネットワーク・エクスペリエンス・アワード2025」では、「5G信頼性」をはじめ3つの部門で勝者を獲得しており、世界的にも高いネットワーク品質を実現している様子がうかがえます。
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KDDIは「5Gグローバル・モバイル・ネットワーク・エクスペリエンス・アワード2025」でも3部門で勝者を獲得、2025年10月9日にはOpenSignalから記念トロフィーを授与されている(出所:KDDI)
評価基準には疑問を呈する声も
一方で競合の評価を確認しますと、2025年10月のモバイル・ネットワーク・ユーザー体感レポートではNTTドコモが4つ、ソフトバンクが3つ、楽天モバイルが2つの勝者を獲得しています(共同勝者を含む)。
ただ、一貫した品質などでも勝者を獲得できていないことから、OpenSignalの評価ではKDDIと差がついている印象です。
しかし、だからといって、各社のネットワーク品質が低いという訳ではないようです。実際、先の5Gグローバル・モバイル・ネットワーク・エクスペリエンス・アワード2025ではNTTドコモが「5G音声アプリ・エクスペリエンス」、ソフトバンクが5G音声アプリ・エクスペリエンスと5G信頼性、そして「5Gゲーム・エクスペリエンス」で、勝者に次ぐ「グローバルリーダー」を獲得するなど、部門によって世界的に高い評価を獲得していることが分かります。
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5Gグローバル・モバイル・ネットワーク・エクスペリエンス・アワード2025ではNTTドコモやソフトバンクも、いくつかの部門で、勝者に次ぐグローバルリーダーの評価を得ている(出所:OpenSignal)
ただ、OpenSignalの評価は、あくまで同社の基準による評価であり、それがネットワークの価値を決める絶対的な評価という訳ではないことも忘れてはならないポイントといえます。それだけに、OpenSignalの評価に対して疑問を呈する声も出てきているようです。
実際、2025年11月5日に実施したソフトバンクの決算会見において、代表取締役社長執行役員兼CEOである宮川潤一氏は、今回のOpenSignalの結果に対し「何ら見劣りしているとは思っていない。ネットワーク戦略はわれわれの方が上手だと思っている」と話していました。
宮川氏はさらに、ネットワークを整備している現場の技術者などからOpenSignalの評価に疑問を呈する声が出ているとも説明。具体的には「彼ら(OpenSignal)が点数が高いと思っている項目が、そもそも(顧客体験に)関係のない所」とのことで、顧客にとって体感をよくすることに寄与しないポイントを高く評価しているのではないかとの声が、現場サイドから挙がっているようです。
それでも、宮川氏は現場の声が「言い訳だ」とし、1位の評価を獲得するまで改善を続けるとしています。ただ確かに、現状ネットワークの品質を測る主要な評価が、OpenSignalの調査以外にないことは、各種ベンチマークなどと同様、OpenSignalでよい評価を取るようネットワークをチューニングするような事業者が出てくる可能性も生み出すだけに、より多様な評価軸が求められることは確かかもしれません。


