英国の調査会社であるOpensignalが定期的に公表している、日本のモバイル・ネットワーク・ユーザー体感レポート。その内容と変化を見ると、5Gを中心に各社のネットワークの品質変化が大きく表れている様子が見えてきます。2022年10月と2023年10月のレポート比較から、どのような変化が起きているのかを確認してみましょう。→過去の「次世代移動通信システム『5G』とは」の回はこちらを参照。
さまざまな角度で調査した通信品質の変化を比較
世界各国のモバイルネットワークの通信品質を定量的に評価している、英国のOpensignal。同社は日本市場においても品質調査を実施しており、そのレポートを定期的に公開しています。
もちろん、これはあくまで指標の1つではあるのですが、継続的に調査がなされていることから、継続的に確認すると国内の携帯4社のネットワーク品質がどのように変化しているのかを見ることができます。
そこで、直近のレポートとなる2023年10月の「モバイル・ネットワーク・ユーザー体感レポート」と、その1年前となる2022年の調査を比べながら、5Gを中心とした携帯4社のモバイルネットワークがどのように変化しているのかを確認してみたいと思います。
モバイル・ネットワーク・ユーザー体感レポートには大きく分けて2つの項目があり、1つは動画再生時やゲームプレイ時の通信品質、ダウンロード速度などアプリ・サービスの体感による品質の違いを比較するもの。ネットワーク全体で調査する「全体のエクスペリエンス」と、5Gに限定して調査する「5Gエクスペリエンス」の2つの調査が実施されています。
もう1つはネットワークのカバレッジや通信品質の一貫性などの調査になります。こちらは評価項目や方法が2022年から2023年にかけて変化しているようで、評価項目に関しても「カバレッジ」が3つから4つに増える一方、「一貫性」が2つから1に減少しています。
それら各項目で調査を実施し、4社の中でどこが最も優れた品質を実現した“勝者”であるかを評価する訳ですが、差が僅差だった場合は統計的同点と判断され、複数の事業者が共同で“勝者”となる場合もあります。
その前提を踏まえた上で各項目を確認しますと、2022年10月時点では「全体のエクスペリエンス」において、NTTドコモとソフトバンクが最も多い3つの項目で勝者を獲得しており、「5Gエクスペリエンス」ではソフトバンクが3つの項目で勝者を獲得。
楽天モバイルも双方ともに2つの項目で勝者を獲得する一方、au(KDDI)が勝者を獲得したのは「全体のエクスペリエンス」の「音声アプリ・エクスペリエンス」のみで、しかも他の3社と共同での勝者に過ぎませんでした。
一方で、2023年10月の結果を確認しますと「全体のエクスペリエンス」ではソフトバンクが引き続き3項目で勝者を獲得したものの、NTTドコモは2項目に減少。その一方でauが、すべて共同受賞ではありますが3項目で勝者を獲得しています。
また「5Gエクスペリエンス」においても、ソフトバンクが4項目で勝者を獲得、auが「5Gライブ・ビデオ・エクスペリエンス」の1項目でソフトバンクと共同勝者を獲得し評価を上げている一方、NTTドコモは前年に単独で勝者を獲得していた「5Gダウンロード・スピード」で楽天モバイルとの共同勝者となり、ある意味追いつかれたと見ることができるでしょう。
では、カバレッジと一貫性の評価はどうでしょうか。2022年10月の結果を確認しますと、「カバレッジ」では「利用率」でNTTドコモが単独勝者、「5G利用率」ではauとソフトバンク、「5G到達率」ではNTTドコモとソフトバンクが共同勝者となっています。また「整合性」では、NTTドコモとソフトバンクが1項目ずつで単独勝者を獲得しています。
そして2023年10月の結果を確認しますと、「利用率」「5G利用率」の結果は前年と変わらないものの、到達率の代わりに設けられた「カバレッジ・エクスペリエンス」「5Gカバレッジ・エクスペリエンス」ではともにNTTドコモが単独勝者を獲得。「一貫性」ではソフトバンクが単独勝者となっています。
見えてくるNTTドコモの品質低下とauの改善
これらの結果を踏まえ、注目すべきはNTTドコモのネットワークに対する評価の変化でしょう。「全体のエクスペリエンス」「5Gエクスペリエンス」といったユーザー体感の部分でNTTドコモの評価が落ちているのは、やはり2023年に大きな注目を集めた、都市部での著しい通信品質低下が影響していると考えられます。
その一方で、NTTドコモはカバレッジ・エクスペリエンスの2項目で最も高い評価を受けるなど、エリアカバーの部分では高い評価を獲得しています。そうしたことを考えると、同社のネットワークがエリア面での充実度が高いものの、人が多い場所で5Gなどの大容量通信を実現する対策が手薄だった、ということが見えてくるかと思います。
対照的なのがソフトバンクのネットワーク品質に対する評価です。2023年はNTTドコモのネットワークが評価を落とした一方、ソフトバンクが安定した通信を維持し評価を大きく高めていましたが、この調査でも安定的に勝者を獲得できている様子からは、やはり同社がネットワーク品質をうまく維持できている様子を見て取ることができます。
そしてもう1つ、注目すべきはauです。実はauは2022年10月より以前の調査において、共同勝者も含め勝者を1つも獲得できていないなど、Opensignalの調査では長らく評価を得ることができていませんでした。
しかし、年々獲得する勝者の数が増えており、2023年10月の調査では合計5つの共同勝者を獲得するに至っています。同社は半導体不足の影響などで5Gネットワークの整備に苦戦していた時期がありましたが、それをクリアし5Gのエリア整備が順調に進められたことで、品質改善が進みネットワークの評価が上がってきたといえそうです。
ただネットワーク品質は、環境の変化や携帯各社の対応などによって変化する部分が少なからずあります。実際NTTドコモも、300億円の追加投資で将来も見据えたネットワークの改善を急速に進めているだけに、今後の継続的な調査で各社の通信品質がどう変化してくるのか注目しておきたい所です。