20:60:20の働きアリの法則は人間にも当てはまる?

過去の荷重労働の教訓から、日本国内でもワーク・ライフ・バランスが重要視されるようになりました。そういえば、日本が高度成長しているときは働きすぎだと海外から批判を受けました。2007年まで筆者がマイクロソフトで14年間働いていた時は、辞めるときの休暇以外は合計で通算3日の有給休暇しか取っていませんでした。14年間で3日です。

その理由は、土日にかなり休日出勤をしていて、代休が消化できなかったからです。それくらい当時のマイクロソフトは忙しかったのですが、完全にアウトですね。お恥ずかしい。

このワーク・ライフ・バランスが悪いという、仕事のし過ぎの例に働きアリが出されることがありますが、これにはちょっと違和感があります。なぜなら、アリとキリギリスの童話のように、冬に備えて働きアリはせっせと仕事をするのです。生きるために必死なのです。そして、働く期間でも、5時間くらいの睡眠は取っているようです。

この働きアリには、有名で面白いある法則があります。それは、20:60:20の法則です。20%のアリはものすごく働き、60%は普通に働き、20%はサボりがちだという法則です。そして、20%のサボりがちな働きアリを排除しても、残りの集団で新たに20:60:20を形成するそうです。面白いですね。なぜそのようなことが起きるのでしょうか。その理由はどうやら生まれもったものではないということのようです。

グローバル企業で働いていると、同じような話があります。高いパフォーマンスを出すハイパフォーマーと低いパフォーマンスしか出せないロウパフォーマーに分類し、下位5%のロウパフォーマーを入れ替える、というものです。

もちろん、国ごとに労働に関する法律があり、それを遵守しながらです。これが、グローバル企業が厳しいと言われる理由の一つでもあります。最近はそのようなことはなくなってきていると思いますが、まだその考えは根強いと思います。

しかし、働きアリの法則と同じように、ロウパフォーマーを交換しても、結局は次のロウパフォーマーが出てきます。まさにアリ地獄(?)です。採用して教育するにも多大なコストとエネルギーがかかりますから。

なので、全体的に生産性を上げて、結果を底上げするしかないのです。もちろん、上位5%や10%のハイパフォーマーに重要な仕事をアサインして、リードしてもらうこともとっても大事です。20:80のパレートの法則どおり、全体の80%の成果を上位20%が出している可能性があります。

聞くことは最高の知性

人間のパフォーマンスにはスキルとモチベーションが影響します。これは、「シチュエーショナル・リーダーシップ」というトレーニングから学んだことです。シチュエーショナル・リーダーシップの理論は、ケン・ブランチャード氏が提唱したリーダーシップ理論で、部下一人一人の能力やモチベーションに合わせて上司の対応を変えるというものです。状況対応型リーダーシップとも言われています。

スキルには、自分の専門職のプロフェッションなスキルと、基本的な話す・聞く、リーダーシップやコミュニケーションなどのソフトスキルがあります。筆者の長年の経験から、ロウパフォーマーになる人の多くがコミュニケーションスキルに課題を持っています。なぜなら、社外や社内を含め、最大80%以上の時間は他の人と働いていると言われており、そして1人でできることは限られるので、チームワークやコラボレーションが求められているからです。ロウパフォーマーの多くは、コミュニケーション能力が問題で協調作業ができないのです。

このコミュニケーションスキルを上げるためには、「LISTEN」、つまり聞くことが大事です。これは、書籍『LISTEN――知性豊かで創造力がある人になれる』(日経BP 著者:ケイト・マーフィ)の受け売りです。同書には「話してばかりの人はもったいない『聞くこと』は最高の知性」とのキャッチコピーが付いています。

同書によると、興味を持って最後まで聞くことが大事だそうです。聞く能力は理解する能力よりも遅いので、ついつい聞いている途中で結論付けてしまいます。そして、人間は自分の能力を誇示したがる傾向がありますので、よく話します。"聞くことは最高の知性"というのはすばらしいコピーです。やられました。

興味をもって聞かないと、NHKのチコちゃんのように「ボーっと聞いているんじゃないわよ」と叱られそうです。同書で述べられていたのは、即興芝居がこのLISTENには有効だということです。実際に大手企業ではそのようなトレーニングを導入しているそうです。即興芝居は、即興で話している人の言葉を注意深く聞かないとシーンを理解できず、話がつながらないから。なるほど。

日本語の素晴らしいところは、きくにも「聞く」と「聴く」があるところです。ただ単に話を「きく」場合は一般に「聞く」を使い、注意深く(身を入れて)、あるいは進んで耳を傾ける場合には「聴く」を使います。つまり、ここでのLISTENには「聴く」という漢字を当てるのが正しそうです。

  • エンタープライズIT新潮流15-1

相手のタイプによって変えるコミュニケーションの方法

COVID-19によってWork at HomeやWork from Homeが一気に広がり、Web会議が当たり前になりました。このツールの利用でやっかいなところは、ビデオなしの会話です。「目は口ほどにモノを言う」とのことわざがあるように、会話は話すだけでなくボディーランゲージからも感じ取れるものがあります。ですから、聴くという行為は、耳だけなく目も使う必要があります。Microsoft Teamsでは、会議中に誰が何分話したかを集計することができます。今後はAIが感情まで数値化してくれるかもしれませんね。

上述の「シチュエーショナル・リーダーシップ」では、技能(コンピテンス)、意欲(コミットメント)がそれぞれ高いか低いかによって、四象限で人をマッピングして、それぞれに対して異なるコミュニケーションをしなさいと学びます。この理論は部下に対して使うものですが、とても参考になります。

例えば、技能と意欲の両方が高い社員の場合は、ある意味あまり手をかける必要がなく、的確なコーチングやアドバイスができます。新入社員のように、技能がまだ低く意欲が高い社員には、指示を出し経験を積ませて技能をどう上げるかに注力します。技能はスキルと知識の積み上げです。

意欲が高いと聞く意欲も高く、正確に物事を理解できるようです。意欲が高ければ新しいことを積極的に取り込み、それに伴って技能も上がります。まずは意欲をどう上げるかがポイントですね。