第1回では、ECモール市場への参入障壁が低くなっている一方で、大手企業が苦戦している背景について紹介しました。いくら有名なブランドであっても、ただECモールに出品するだけでは、集客や売上、利益にはつながりません。

では、「これからECモールを活用して売上・利益を上げたい」と考えている企業は、どのような取り組みから始めればよいのでしょうか。今回は「ECモールのトレンドと活用ポイント」についてお伝えします。

広告代理店に運用を任せるデメリット

ECモールに商品を出品する際には、広告代理店をパートナーとして運用を依頼するケースが多いです。しかし広告代理店の収益モデルは、広告費や制作費に対して一定の割合でマージンが乗るモデルですので、広告費が増加すればするほど広告代理店の収益も増えるため、「さらに費用を投下しましょう」という提案につながります。

そのような背景から、当社にお問い合わせをしていただく企業の中には、「広告費を出せば売り上げにつながる」と考えているお客様が多いようなのですが、実はECモール市場では必ずしも広告費と売り上げは直結しません。

なぜならば、広告費を投下することによってセッション数を増やすよりも、CVR(コンバージョンレート)や購買単価を上げなければ、費用対効果が見込めないからです。何より重要なのは、コスト構造や売上総利益(粗利)率を把握して、利益を最大化するための戦略を策定し実行することです。

ECモールへの出品形態と落とし穴

ECモールへの出品形態は、卸取引(ベンダー)と出店(セラー)の2種類があります。

卸取引の場合は販促運用や在庫管理、配送の手間などが省けるというメリットがありますが、価格統制や顧客データの取得が難しいというデメリットもあります。また、ECモールとの契約時に卸の掛け率(下代取引率)が決定するため、利益率の改善が難しいです。

一方、出店の場合は基本的に自社で運用可能なため、他の販路を考慮したブランド戦略に基づく、価格のコントロールや販促運用、利益率の改善などが可能です。また、多くの顧客データを取得できるので、詳細な分析を元にした運用で売上や利益を伸ばしやすい場合が多いです。

Amazonの発表によると、グローバル流通総額に占める出店の流通総額が6割に達したようです(集計期間:2020年1月1日から2020年12月31日まで)。(参照:Amazon ECサミット

  • ECモールへの出品形態によるメリットとデメリット

    ECモールへの出品形態によるメリットとデメリット

ECモールへの出品形態と落とし穴

前述の通り、ECモールの出品形態の昨今のトレンドは出店での自社運用です。自社運用する場合は、ECモールのデザインやルールに則って、商品ページの細かい設計や販促の実施が可能です。

しかし、B to B to Cモデルのメーカーは、基本的には実際の運用を広告代理店に依頼しています。そのような企業は、ECモールへの出品形態が卸取引(B to B)である場合が多く、営業部門の中にEC部署が所属していることが多いです。すると、B to C取引であるECの運用ノウハウが社内に蓄積されていない場合がほとんどです。

出店での自社運用のメリットを生かした例として、ある有名日用品メーカーでは、「ECビジネス推進部」を立ち上げて、EC事業に関わっている機能を一部署に集約して運営しているそうです。同社では以前、本社と販売会社のそれぞれにECに関連する組織が分散していたのですが、1カ所に機能が集まっている方が他の事業部とのコミュニケーションも取りやすくなり、一貫した戦略を実行しやすくなったといいます。

そうはいっても、「これから自社でECモール出店を始めたい」という企業がすぐに上記のような組織づくりに取り組むのは難しいのが現状です。そこで、ECモールを活用する重要なポイントを紹介します。

まずは、ECモールの専任担当者をアサインするところから

一番重要なのは「ECモールの専任担当者を社内に置くこと」です。ECモールの代表であるAmazonや楽天は頻繁に仕様やルールが変更されるため、常に最新情報をキャッチアップしなければいけません。また、クリエイティブ制作や販促、物流など、さまざまな部署と連携する必要があるため、窓口になる専任の担当者が必要です。私たちのクライアントにも、専任担当者を置くことを強く推奨しています。

上記のポイントを生かした例として、「シャンプー・コンディショナーのセット販売」をご紹介します。従来この商品は、単品販売の際は商品価格1400円に送料400円が上乗せされ、他販路と比較して低い粗利率が課題になっていました。

そこで、私たちは適切なセット販売により送料割合を抑える提案をしました。通常、単品で扱っていた商品をセットで販売する際には商品の出荷が複雑になるため、出荷作業や在庫管理を外部ではなく自社内で巻き取る必要があります。そこで専任の担当者を置き、加えてプロモーションも行った結果、送料割合を抑えることに成功し、ECにおける粗利率を大幅に向上できました。

  • セット販売割引増加によって送料を抑えながら粗利率が向上した

    セット販売割引増加によって送料を抑えながら粗利率が向上した

これはあくまで一例であり、例えばカラーコンタクトのような左右で度が異なる商品はセット販売することはおすすめできません。各ブランド、各商品に合った自社EC戦略を、ECモールの専属担当者がコンサルや関連部署と連携しながら進めることが、自社ECにおける収益成長の近道なのです。