DXMO構築時に優先して検討すべきテーマ

こうした環境を整えるためにも、DXMO構築時に優先して検討すべきテーマが3つあります。

費用負担オプション

1つ目の優先テーマは「費用負担オプション」です。事業部門・機能部門の積極的なDX活動への参画を促すためにも、インパクトの大きいDX施策や全社に展開できるようなDX施策は、DXMOの費用(コーポレート予算)で実施できるようにすることが重要です。こうすることで、事業部・機能部側が積極的にDX施策を共有したり、人材の工数を確保したりするための動機付けが可能となります。

DXMOの費用負担と述べましたが、一概に全てをDXMO負担とするのか、あるいは一部を事業部/機能部側に負担させるべきなのかは検討の余地があります。全てをDXMO負担としてしまうと、DXMOがオーナーシップを持ってしまい、事業部/機能部側の意欲が高まらない恐れがあるからです。

例えば、企画段階での費用は原則DXMOの負担とし、導入・運用段階での費用は基本的に事業部/機能部側の負担とするものの、共通基盤や横展開に関わる費用などはDXMO負担とする、といったフェーズごとに切り分けられたハイブリッド負担が最も効果的なのではないかと考えます。

  • 費用負担オプション

DXMOおよびDX施策への人材アサインメント方法

2つ目の優先テーマは「DXMOおよびDX施策への人材アサインメント方法」です。DXプロジェクト推進にはさまざまな人材が求められますが、DXMOであっても、個別のDX施策であっても、DX活動の着火剤となることができるリーダー層の早期アサインメントが特に重要となります。このリーダー層に求められる5つの資質を以下に示します。

  1. 改革志向:しがらみにとらわれず、あるべき論で物事を捉えることができる
  2. 高い熱量:DXを理解し、かつその必要性について強く共感しており、改革に対する熱量が他者を上回っている
  3. 聴く力:円滑なコミュニケーションによって周囲の協力を得ながら、プロジェクトを前進させることができる
  4. 広い人脈:必要な関連部門・人材、社外プレイヤーに人脈があり、必要な協力を仰ぎ、巻き込むことができ来る
  5. 過去の実績:これまでの業務が評価され、周囲から認められている

こうしたリーダー層を含めた人材アサインメントは、原則としてトップダウンで進めるべきです。というのも、こうした人材の多くは事業部門・機能部門から輩出されることになるわけですが、自部門の予算やKPI達成を優先する動機が強く、優秀な社員は既存事業に囲い込まれる恐れがあるからです。多くの人材を擁する大企業においては募集方式でのアサインも一案ですが、その際にも、個人の意思を尊重し、輩出する部門がアサインを忌避しないような文化の醸成と仕組みづくりが必要となります。

ただし、比較的小規模であったり、例えば一部の事業部に閉じていたりするようなDX施策については、各部が自らの志や利益のために率先して人材を輩出する動機が有るので、トップダウンでの人材アサインメントではなく、DXMOと各部で調整の上で決定しても良い場合もあると考えます。

また、実働部隊としてのメンバーをアサインする際にも、アサインメントルールを決めておくことが肝要となります。上述の費用負担オプションでも言及した通り、現業のあるメンバーをアサインする際には、事業部/機能部側がメンバーアサインによって自組織にデメリットがあると感じてしまう恐れがあります。

また、アサインメンバーが評価やキャリアに不安を抱えてしまうことがないようなルール作りが重要です。アサインメントルールを制定する際の基本的な論点を以下に示します。

  1. アサインメント方法:人材要件・評価観点やアサイン期間の設定、(募集方式であれば)募集管理の主体や頻度・スケジュール・募集伝達方法の設定など
  2. 工数確保の仕組み:所属部門との調整やコミュニケーション方法の確立、DX活動に充てる時間の確保方法(自己投資制度)の確率 など
  3. 評価体系:個人目標の設定方法や比重、評価者の設定など
  4. 冷遇されないための仕組み:DX活動およびそれに携わるメンバーと仕事をする際のDos、Don'tsの設定、(必要に応じて)違反に対するペナルティ設定など

DXMOのKPI

3つ目となる優先テーマは「DXMOのKPI(Key Performance Indicator/重要業績達成指標)」です。組織的にはコーポレート部門に位置するDXMOが、積極的に事業部門・機能部門へ関与していくためにも、DXMOには組織的なKPIを設定することが重要となります。

一般的に、KPIを設定するにはステップを踏む必要があります。ミッション・ビジョンにも相当する最終的な活動目標をGOALとして明文化し、そのGOALを定量的な経営目標数値に落とし込んだ目標値がKGI(Key Goal Indicator/重要目標達成指標)となります。

このKGIを達成するための重要な取り組みをKSF(Key Success Factor/重要成功要因)として設定し、さらに、KSFに対する数値目標としてKPIを設定します。

DX活動のすべてが必ずしも財務的な経営目標数値にひもづくわけではありませんが、ここではシンプルに「売上高」というKGIを例に挙げてDXMOにおけるKSFとKPIを説明します。

売上高の向上を達成するために、「DX施策の展開を通じて、成果を創出する」というKSFがDXMOに設定されたとしましょう。このKSFを定量的に計測可能とする要素がKPIということになります。この場合、例えば「企画したDX施策の数」であったり、「進捗が良好なDX施策の数」であったり、あるいは「売上増に繋がったDX施策の数」といった指標がKPIとして設定されることが想定されます。

なお、最後のKPIを「売上増につながったDX施策の数」と例示したのは、DXMOが事業部/機能部でないがゆえに、財務目標まではコミットしないことを意味しています。また、これらのKPIは、現場メンバーが容易に理解できること、かつ容易に指標データを取得できること、を念頭に置いて設定することが重要です。

今回は、デジタル成熟度に応じたDXMOのタイプを紹介したうえで、特に「③中央による統制」タイプのDXMOに求められる機能と役割を紹介してきました。第3回以降では、DX人材の獲得・育成やデータドリブン経営の実践といった、DXMOが主体となって行うべき全社横断的な取り組みを紹介します。

著者プロフィール


本連載は、製造・自動車・電機・通信・金融・小売・人材派遣など業界横断のサービスラインで、各インダストリーの"Strategy through Execution"を実践するPwCのプロフェッショナルチーム「Transformation Strategy」が執筆を担当。戦略や変革のDesignだけでなく、“Execution” まで、クライアントのSherpaとして、困難な登山(=Transformation)を成功に導くことを目指している。 CxOをはじめとした企業の変革リーダーと共に、既存の産業・企業の枠組みを超えて、新しい成長アジェンダの創造とSustainability追求を両立、及びDigitalによる“Disruption”の危機を共に乗り越えるためのコンサルティングを実践している。

鈴木 一真 PwCコンサルティング合同会社 Transformation Strategy Senior Manager

日系コンサルティングファーム、総合系コンサルティングファームを経て、当チームに参画。製造業を中心に、15年にわたるコンサルティング経験を有する。DXを中心とした戦略立案やDX組織の立ち上げに多数従事。また、中期経営計画の策定や長期ビジョニング、シナリオプランニングを活用した未来予測等に関するプロジェクトのリードを経験。

石浦 大毅 PwCコンサルティング合同会社 Transformation Strategy Senior Manager

大手総合電機メーカー、シンクタンク系コンサルティングファーム、外資系コンサルティングファームの戦略部門を経て、当チームに参画。DXに限らず、全社・事業戦略、事業創造、M&A(Valuation~DD~PMI)、SCM、CX/EX、シェアードサービス、ブランディング等、多業界で、多岐にわたる領域のプロジェクトに従事。