第1回・第2回では、DX(デジタルトランスフォーメーション)を推進する組織であるDXMO(Digital Transformation Management Office)の概要と構築方法を、第3回ではDXケイパビリティ強化に必要な取り組みを紹介しました。

4回目の今回は、DXMOが主体となって行うべき全社横断的な取り組みの一つ、「データドリブン経営実践」について、データアナリティクス、エマージングテクノロジー領域のエキスパートである奥野和弘と服部徹が対談形式でお伝えします。モデレーターは、Transformation Strategy/Senior Managerの石浦大毅が務めます。

日本企業のよくある失敗~DX疲れ~

石浦: DXの実現に向けては、データ活用がキーアジェンダの一つと言われています。一方で、それができていない日本企業が非常に多い印象です。日本企業の悩みが何なのか、どういうところで頓挫してしまうのか、これまでのコンサルティング経験の中で感じられていることはありますか?

奥野: 「DX疲れ」という言葉で説明できると思います。ただ、何も日本に限った話ではなく、欧米のDX先進企業でも同じ様な傾向が見られます。そして、その対象は担当者にあると見ています

石浦: 「DX疲れ」の背景・原因、なぜ担当者が対象なのか、詳しく教えて頂けますか?

奥野: DXと言うと、いくらでもやるべきことが出てきます。次から次へとデジタル化ニーズが社内から上がり、底なし沼のように永遠とやり続けることを求められます。加えて、DX担当者が評価されなかった、あるいは評価されない構造になっています

奥野: DXの本来の目的は、コストや人員、時間を抑制し、浮いたリソースを攻めるべき領域に集中投資し、トップラインを伸ばしていくことです。デジタル化、デジタライゼーションというのはあくまでも手段であり、どれだけコストが下がったか、どれだけ売上が上がったかを追いかけることが重要です。今の話に基づいてDX担当者が評価されるべきなのですが、評価されないまま現在に至り、「DX疲れ」を引き起こすわけです

奥野: 他に、DX施策の着手後、ブレーキを踏む、つまりExit Criteria(判定基準)がないことも問題です。失敗しても、成功してもひたすらやり続ける。結果、DX担当者のやることは雪だるま式に増えていきます

服部: 今の話に、もう一つ付け加えるとすれば、日本企業に欠けているのは顧客体験の改革です。欧米企業は、顧客接点がどうあるべきか、という点を突き詰めて考え、DXを実践しています。

例えば、紙や人を介したコミュニケーションだったこれまでを、メタバースに変えていく、C2Cで上前をはねるというビジネスモデルに変える、という発想から始まります。そうなると、既存の仕組みでは実現できないので、仕組みを抜本的に変えるというアプローチを取ることになります。改善ではなく改革に近い対応が、まだまだ日本企業は弱いように感じます

最優先で取り組むべきデータドリブン経営・AI経営

石浦: 今までの話は、デジタルを活用した全社変革という観点でした。一方、「データ活用」は、DXの一要素と認識しているものの、極めて大事な要素だと思っています。DXを実現するためのデータ活用という観点で、グローバル企業と比較した時の日本企業の弱さ、あるいはできていないポイントなど幅広く聞かせて下さい

奥野: 先日、私が参加したセミナーで「AI経営」を取り上げました(図1)。デジタイゼーションは単純で、現場をIT化することです。一方、デジタライゼーションは、現場から上がってくるデータから、現場で起きていることを分析・シミュレーションすることです。今風に言うとデジタルツインです。データをもってしても簡単に変えることができない現場で、「もしこれを変えたらどうなるのか?」といったことが試せる様になります。

このような姿が理想ではありますが、残念ながら多くの日本企業はそこに至っていません。なお、DXとデジタライゼーションは同じと見られがちですが、私は全く別物だと思っています。理由は、DXは経営管理、デジタライゼーションは現場管理、という違いがあるからです。経営者は、外的・内的環境の両方を見ながら、会社の舵取りを行っています。したがって、データというものは、コミュニケーションとモニタリングのための1つの重要なプロトコルなのです。

  • 図1:現場を経営層が把握し、DXビジョンに沿って変革を推進するための構造(AI経営)

石浦: 今の話を聞く限り、現場の反発も一定予想されるのではないでしょうか?現場が、現場だけにとどめておきたい情報も一部ではあると思うからです

奥野: そのような反発は少ないと思います。私は長くマーケターをやってきたのですが、データドリブンを実践して最も得をしたのはマーケティング部門です。マーケティングは昔からコストセンターだと思われていました。それが、上がってきたデータを分析してみると、実はマーケティング部門が売上に貢献していることが分かります。

例えば、「このタレントを使います」という案に対して、「なぜそのタレントなのか?違うタレントではだめなのか?」という反論を受けます。その時、ロジカルに説明ができない歯がゆさがありました。しかし、データドリブンなマーケティングを実現することで投資対効果が明確に見え、マーケティング部門がプロフィットセンターとして認識され始めました。結果、与えられる予算が増え、競合と差をつけられるという良いサイクルが回り始めました。よって、データを出さないと損するといった感情が生まれます

服部: この図は、社内意思決定までを表していますが、データが下から上がるのに対し、「DX推進」のさらに上に位置する「未来」を予測することも大事になってきます。どの未来が自分達の売上・利益に関わってくるのか、その確度はどうなっているのか、社内外の情報と自社の売上・利益を繋げて理解・把握していくことが、いわゆるAI経営につながっていくと思います

石浦: その通りですね。過去だけ、未来だけで意思決定を下すのではなく、過去~現在~未来を一気通貫で見ないといけないということですね

服部: 繰り返しになりますが、私が挙げた未来については、奥野さんが言った世界観ができた上での話です。未来のことだけを見ていると、とんでもない方向に向かうことがあります。