えー、前回の「土星がでてこない天文学の入門書」の話の続きでございます。

じゃあ、何が天文学の入門なのよというあたりを見て参りたいと思います。

さて、本題に入る前に、みなさん、万博行きましたか? 私も大阪に行く機会があり行ってまいりましたよ。超絶人気のイタリア館(ファルネーゼの天球儀)やアメリカパビリオン(月の石ほか宇宙ネタ満載らしい)、日本館(火星の石)は行けておりませんが(正直行ける気がしない)、予約なしで見られるUAE中国インド、そしてひっそりJAXAなど結構宇宙ネタがチラホラしていて楽しめました(GUNDAM? 最初から入るの諦めてます)。

なんだかんだいって、リアルで見るのはいいなと思いました。混んでそうとかいろいろありますが、まあぜひ、と思います。あ、自販機は街中と同額、コンビニもしかりです。海外館のレストラン、カフェは高めですが、日本の衛生基準であの国の料理が食べられるのは価値があると思いますよ(マレーシアのカレー辛ウマでした)。

「大学4年間の天文学が10時間でざっと学べる」はどういった本なのか

さてさて、本題です。土星がでてこない天文学の入門書、東京大学の天文学者である戸谷先生の「大学4年間の天文学が10時間でざっと学べる」の読書感想文でございます。

まず、タイトルの通り「大学4年間で」ということなので、いわゆる文系の人も学ぶ教養ではなく、理学系の人が専門の準備として学ぶ内容も含まれているわけです。

また、形式としては、1テーマを見開き2ページで納めるようにしているので、どこからでも読めるのはすばらしいです。チョイ読みができますからねえ。あと、数式こそほとんど出てきませんが、グラフはふんだんにあり、それを眺めながら理解してね、という形式です。文章の量こそ少なめですが、グラフを見ながら、あれこれ考えることで理解が深まる仕組みになっています。英語だけのグラフもあるのですが、それはまあ、大学だからでしょうか(まあ読めるけど、日本語も併記してほしかったなあ)。

本の構成

では、土星なし、太陽系はチョイ触れるくらいで、何が語られているのでしょうか? 

全体は大きく3部構成になっていて

  • 第1部:宇宙の概観
  • 第2部:さまざまな恒星と惑星
  • 第3部:銀河の形成と宇宙の進化

となっています。

惑星は「太陽系外」惑星のこと。新しいジャンルで現代天文学の大テーマ

あれ? 惑星あるじゃないと思ったら、これは「恒星と惑星系の誕生」と「太陽系外惑星の世界」となっています。「太陽系外」とわざわざ断っているように、数千個も発見されている太陽系外惑星について概観し、太陽系の8つの惑星よりも、はるかに多様な(まあぶっとんだ)惑星があることと、でも、地球のような生命がいそうな惑星(ハビタブル惑星)の話題が述べられているのでございます。

ちなみに、最初の一般的な恒星を回る太陽系外惑星の発見は1995年で、発見者のマイヨールとケローは2019年にノーベル物理学賞を受賞しています。そしてその発見されたのが、恒星に異常に近いところを回る木星(ジュピター)型の大型惑星だった(ホット・ジュピター)のも話題になりました。

私たちが知っている太陽系の常識といきなり違うよってなものでした。まあ、そんなぶっとんだものだから見つけやすかったのですが。

そして、ひとたび見つけられるとなれば、二匹目のドジョウ、三匹目のドジョウとどんどん発見がされていき、ついには太陽系外惑星発見専用の望遠鏡や宇宙機が作られ、大量の惑星が発見され現在に至るわけです。

そして、この30年しか歴史がない天文学のジャンルは、ピラミッドの時代から知られてきた土星に対し、東大で4年間に習うべきものとしてピックアップされているわけでございます。

天文学の歴史も序論として触れられる

なお、ピラミッドのみならぬ、天文学何千年の話も、第1部でフォローされています。4ページほどですが、人類最古の学問であることと、ガリレオなど400年前くらいから近代天文学にスイッチしたことなどが述べられています。

ちょっとユニークなのは、曆作成などの実用天文学などを中心に、日本の天文学についても触れられていることです。この辺はスタンダードな高校の教科書にはあまり登場しないので、大学生ならそういう教養も知っといてねー。という感じでしょうか。

そのあとは、特に肉眼や望遠鏡で見られる、恒星や銀河について詳しく述べられています。特に銀河については、第3部の前提となる知識だからか、かなりしっかりと解説されている印象があります。

恒星をしっかり知るため、核融合反応や恒星の一生についてわかりやすくしっかり目に記述

夜空を見上げる天文学の主役は、星座を作る星、光り輝く恒星です。

この恒星がなぜ輝き、どう生まれ、どう死んでいく(輝かなくなる)のか、そのあとどうなるのかといったことがしっかり目に記述されています。特に、恒星が輝く原理である核融合反応については「pp-chain」といった理系ならではの専門用語も入りつつの紹介ですな。これくらいの入門書ではあまりお目にかからないです。

また、星団、星雲やブラックホール、恒星になる前の原始星の話など、恒星とその周辺について語られています。このあたりは、読み応えもありますし、本来は数百ページになる内容の骨組みを、わずかなページ数で分かりやすく書いているのは特筆ものです。

星についてとりあえず勉強するなら、この節の20ページくらいを読めばよいと思います。しかも、ここの記述を読めば、恒星の寿命のことなど応用することもできるのです。

もちろんちゃんとした理解には上級の教科書でしっかり勉強ですが、概要を抑えるならいいなという感じです。私も雑文を書きますが、このあたりの書き方は「すごいなあ」とずっと感心しながら読んでしまいました。

さらに、恒星の最期のあとには、白色矮星、中性子星、ブラックホール、パルサー、マグネタ-など、目ではかすかな光で、肉眼では見えない、つまりクラシックな天文学では登場しないけれれど、強烈な紫外線や電波、γ線などを発していることで存在が分かる天体がかなりのページを割いて紹介されています。こうした天体については、現代の天文学のメインストリームなのでニュースになることも多く、宇宙関係の記事を理解するのはバッチリな中身となっているなあと思いました。

宇宙がどうできてきたかが大テーマ

大きなページを割かれているのは、第3部の銀河の形成と宇宙の進化です。著者の戸谷先生は、このあたりが専門でらっしゃるだけに、力が入っています。ただ、他のジャンルとのバランスはとれていて、突出という感じではありません。

銀河というと、まあ天の川とか、渦巻きのアンドロメダ銀河というイメージですが、それぞれについては、この節には詳しくはありません。銀河はやっぱり主役なのですが、それは第1部で述べられていました。

銀河がタイトルにあるこの節では、銀河は前提として、銀河あるにはどう宇宙ができてきたのか、これからどうなるのかが述べられています。

そのために、宇宙の誕生や膨張などが述べられていますが、宇宙というのは星や銀河があるーというよりは、元素がなぜあるのかとか、重力がなぜあるのかといった「あ、そこからですか」というところがしっかり述べられています。

そして「今わかっていないこと」もページを割いて述べられているのは、学問への招待としてとても素敵なことだと思いました。

第2部では、太陽系外惑星に関連して宇宙の生命について未解決とされていますし、この第3部では、存在は分かっているがなにものか分からない「ダークマター」、あるはずだがさらにわからない「ダークエネルギー」そして、発見したいなと多くの天文学者がチャレンジしている、宇宙最初の恒星「ファーストスター」など、どこがロマンなのか? が述べられています。

読み終わって

宇宙好き、星好き、天文好きは、目で見える恒星や銀河でに目をひかれがちですし、それらは観察しても楽しいものです。月のクレーターや土星のリングは、その際たるものでございます。

でも、大学は「小学生でもみんなが既に知っている」ことを学び直すというよりは、それらは前提として「じゃあ、それはどんな意味があるのか」「そこから何がわかるのか」さらには「実は大学の先生が取り組んでいるのはどんな問題なのか」といったことを学ぶ場ではあると思います。

そう思ったら、なるほど、この本はとてもよいものだなあと思った次第です。

宇宙とか、天文とか、まあ興味はあるけど、という人が、取り組むのに、うってつけの本だなあと思った次第です。私もそういう本を書きたい。

ではでは