最近、たくさんでてくる天文学の入門書。それぞれ著者や出版社、対象年齢などにより個性があるのですが、ちとびっくりする本に出会いました。
土星がでていこない。
のでございます。天界きっての人気者。そして探査機による話題も多い土星をスルー……。いや、良い本なんですよ。正確だし、読みやすいし、わかりやすいし。
今回はそういうことで東大教授の戸谷友則さん著「大学4年間の天文学が10時間でざっと学べる」についての読書感想文です。読みながら、そうか天文学を概観すると、固有名詞は少なくなるのもアリかあ。とそんな話でございます。で、書いていたら、思いがあふれて、なかなか本の感想まで(いや感想ではあるんだけど)いきつかないので、とりあえず前編です。このあと後編も書きますよん。
天文学ってどんな学問?
えー、みなさんは天文学というと、どんな学問だと思いますか?
一般的には、さだまさしさんの「天文学者になればよかった(古いな)」ではないですが、まあ、星を見て(まあ、最新のなんかスゴイ装置で測定して)宇宙はこんなもんじゃいとやる学問だということでございますな。
はい、それであっているんです。天文学は観測した天体や天文現象から、宇宙の姿や成り立ちを研究する学問でございます。そこに理論がでてきたり、スパコンをゴリゴリに使ったコンピュータシミュレーションが出てきたり、それはまあ色々ですが、天体や天文現象を観測して、それが説明できなければいけないわけです。で、なかでも目で見える天体はその観測解像度が特に高いわけで、かなり精緻な研究がされるわけなのですな。
天文学でも重要な星たち
たとえば、「太陽」は天文学の中でも特別重要です。何しろ、地上の天文台や、太陽専用の探査機がいくつもあり、それらが超高解像度かつ高い時間分解能で調べ上げる(たとえばSDOや、細かな現象までその謎を一つ一つやっつけ、さらには太陽内部の様子をニュートリノをモニターして調べる)、なんてこともやられてきているのです。
まあ、実用的にも、太陽表面の一角でちょっとした爆発がおこると、地球の電離層が乱れて、通信障害や、パワーが強いと人工衛星が壊れたり落ちたりとかいうことがあるわけで、国の機関としてもほぼ太陽についての宇宙天気予報というのが行われているわけでございます。
なんで、そんなことができるかというと、もう、太陽が近くにあり「とっても明るい」、つまり地球の私たちが強烈なエネルギーを受け取れるからでございます。そう、明るければなんでもできるわけです。
で、太陽についで明るいのは、月。こちらはもっとも近いということもあり、人間がそこを歩いた元祖ムーンウォークな場所でございますな。「月の石」を持って帰って、万博で展示しちゃうレベルでございます(いや、アメリカの科学館に行くと、たいていの州には展示があって、買い物ついでに見られたりするんだけど)。
その次となると、金星、木星、火星、そして恒星のシリウスほか20個の1等星と続きます。このあたりは東京や大阪のド真ん中でも見え、当然ながら昔から盛んに天文学の研究対象だった天体です。
火星は19世紀には集中的に研究され、火星人がいるのでは? なんて騒ぎになったくらいですし、恒星の中で最も明るいシリウスは、この連載の第263回で紹介した天文データベース「SIMBAD」では論文が1580件も書かれたってことになっています。それだけ様々な研究が可能というわけなのですな。
さまざまな研究者が注目する「土星」
そんな中で、1等星でもあり古くから知られる惑星、土星についても散々注目されてきています。望遠鏡の観測の最初期400年前のガリレオの研究で、特異な姿(環があるとはわからなかったが)が明らかになり、その後、振り子時計の発明者であるホイヘンスにより、環、つまりリングがあることがわかったのですな。点か丸しかない天体の形状に、極めてユニークなバリエーションがあることがわかったわけです。そして衛星タイタンも発見。後に、太陽系で唯一、大気がある衛星として知られるようになります。
そして、最近は探査機を接近させての観測、特にカッシーニという探査機が2004年~2017年まで13年間も土星を周回しながら、土星系について多大なデータを取得。土星の衛星の中には、地面の下に地熱で暖められた海があるものが発見され、生命が発生しているかもといった話題もあるのでございます。日本の研究者も、こちらのリリースのように、実験でその状況を再現して検証しながら考察する研究を行っています。で、これリリース出しているのが「国立天文台」とか「JAXA」ではなく、JAMSTECつまり海洋研究開発機構なのがおもしろいところです。
宇宙の海はオレの海といいつつ、それは本当に地球外のところにある海の研究なんですな。土星の研究が天文学、天体をながめる世界から飛び出して、他ジャンル学問の研究対象になっているのがよく分かります。
天文学にとっての太陽系の天体
ん? なかなか本の感想に行き着かないぞ。
えーと、いや、そのそんな人気の天体たち。図鑑ではお馴染みの土星、火星、太陽や月といった、天文観測がしやすい、現在進行形でずんずん成果がでている太陽系天体。スゲー魅力的なのです。そして、その個別の話に関わっている天文学者は大勢いるのです。
日本に限っても、現在進行形で日本は「ひので」という太陽観測衛星の運用をかれこれ20年間続けていますし、機動戦士ガンダム 水星の魔女とコラボPRしたのでもプチ話題になった、水星探査機「みお」を運用していますし、そんなこといったら「はやぶさ2」や金星探査機「あかつき」、海外との共同プロジェクトである木星探査機「JUICE」など盛りだくさんということは、JAXA宇宙科学研究所の「運用宇宙機一覧」でも分かるわけでございます。海外をいれたら、特にアメリカや欧州のほか、中国、インドなども入れたら、百花繚乱なのです。
しかるに、この「大学4年間の天文学が10時間でざっと学べる」では、これら太陽系の言及は……えーっと「周辺分野との関係」のページに、
「太陽系内の惑星は天文学ではなく地球惑星科学として扱われることが多いですが、太陽系内の惑星や衛星を天文観測で研究することもあります。」
とたった2行で片付けられているのでございます。
しかも「天文観測で研究する“ことも”あります」という扱いです。言っておきますが、著者の戸谷先生は、私のようなテキトーな宇宙・天文キュレーターだって名前をよく聞く大物の研究者で、天文学者でも中心的な人物の一人です。つまりは、天文学にとって太陽系の天体、土星もふくむ話は、研究する“ことも”あることになっているのですな。
じゃあ、大学4年間で学ぶ天文学ってどんなのか? というのは、うむ長くなったので。次回に続きます。