「昴(すばる)」、最も明るく見える散開星団です。そのトータルの明るさは1等級で、人口30万人くらいの町なら肉眼で見つけられ、大都会でも双眼鏡でしっかりと観察できます。亡くなった谷村新司さんが「砕け散る」と歌ったあの名曲のモチーフでもある「昴」。サイエンスの方向から少しご紹介いたします。

昴とはいくつかの星が群れて見える天体の名前、今年は木星が近くにある

昴(すばる)は、晩秋から冬にかけて夜空に見える天体です。ボヤっとした感じに見えます。

今年は、図のように、夜9時ごろによく見える、木星の近くにあります。大都会の中心では木星だけしか見えませんが、人口30万くらいの中核都市なら、その存在がわかり、もっと田舎にいけば昴は写真のようにゴチャっとした「かたまり」で見え、それは、空を見渡して、あれはなんだろと気になるようなものです。

  • 10月18日夜9時ごろの東京あたりの東の空の昴の位置

    2023年10月18日夜9時ごろの東京あたりの東の空の昴の位置

昴は空の中でも存在感があるため、世界中でいろいろな名前で呼ばれています。

和名は「昴」で、集まったもの、むすばったものといった意味。平安時代に書かれた、清少納言の「枕草子」にも「星はすばる」と書かれているように古い言葉です。

欧米ではプレアデスといわれ、巨人アトラスの7人の娘たちに由来し、セブン・シスターズといわれます。また、ハワイではマカリイ、小さな目という意味です。

さらに日本ではローカルな言い方で、群れ星、むりかぶし、むつらぼし(六連星)といった言い方で呼ばれています。

昴はおそらく、世界最古の星図に記録されています。ドイツで発見された3600年前のネブラディスクに描かれているのは昴だと考えられています。また、ガリレオが最初に望遠鏡で観察したのも昴です。

  • 「昴」。多数の星が集まっていることがわかります

    「昴」。多数の星が集まっていることがわかります

写真を撮影すると、昴が多数の星が集まっている「星団」だとわかります。肉眼だと数個にわかれてみえるかどうかという感じで、7つとか6つとかいった言い方がうなずけるところです。

ちなみに自動車メーカーのSUBARUは、もちろんこの昴からブランド名、後に社名をとったわけですが、もともとは5つの会社の資本出資で1つの富士重工(SUBARUの前社名)が作られたことから六連星の名前がつけられたとのことです。SUBARUは飛行機やラリーカーを通じて欧米にも有名なブランドなので、昴という和名も広く知られているということになりますね。なお、いま気がついたのですが、SUBARUはカー用品の一環として、なんと望遠鏡を販売しています。キャンプなどに持ち出すのにちょうどいい小型のもので2009年からロングセラーだそうな。名前はプレアデス姉妹の一人メローペの名前になっていますね。

昴は1億年前に生まれた、1万個もの天体が群れている散開星団

昴は、双眼鏡で見ると、都心でも多くの星が輝いているのがわかり、なかなか見応えがあります。さらにeVscopeのような望遠鏡で写真を撮影すると、写真視野におさまりきれないほどに、多数の星が写ります。

  • 星の集団「昴」

このように星が群れているのは、たまたま同じ方向に星があるからではなく、空間的に星が密集している「星団」だからです。こうした星団は、同時に同じ場所で誕生した星のファミリーで、星団は天の川銀河内だけでも数千個が発見されていますが、昴は星団の中で、最も明るく、目立つ天体であり、歴史・文化的に親しまれているだけでなく、多くの研究がなされてきました。

この連載の第263回でご紹介したSIMBADで引くと3387本もの論文が書かれています。

まず、昴の距離ですが410光年です。最も近い星団のヒアデス160光年、かみのけ座(1つの星団がそのまま星座になっている)の280光年に次ぐ3番目です。

ひろがりは満月の直径の3~4倍にあたる109分角で、こちらは見かけ上4番目の広がりになります。ちなみに3位に入っているのはペルセウス座α星付近の星団Mel(メロッテ)20です。なお、最も明るい星は3等級でMel20とともにトップ、全体の明るさでは1.4等級くらいで、これもトップです。なお、Mel20とすばるはそれほど離れていませんので、同時に観察することができますが(最初の図にも場所を載せましたよ)、すばるの方がずっとよく目立ちます。参考までに昴はM45あるいはMel22でもあります。

昴は、写真で見ても青っぽい星が目立ちます。これは、昴星団のあたりに、うっすらしたガスがあり、そのガスが青空のように星の光の青色成分を散らしているからです。が、星そのものも、やや青っぽい色をしています。

こうした青くて明るい星は寿命が短い星です。そしてそうした星が「ある」ことから星団全体が誕生してからそんなに時間がたっていないことがわかります。

それから星団の年齢が推定できるのですが、おおむね1~1.2億年とされています。太陽は誕生から46億たっていますから、相対的に若いということがわかります。あと、1.2億年ということは恐竜が闊歩していた時代です。白亜紀の最中に誕生したんですな。その前のジュラ紀の恐竜は昴を見ていなかったということになります。まあ、恐竜の目がどこまで良かったのかという問題はありますが。

また、昴は、星団内に太陽の800倍の質量があると考えられており、ハッキリとわかっている恒星の数が1000あまり。写真を見てもわかるとおり、星の明るさには非常にバラエティがあり、実際にはより軽い恒星もふくめ1万個以上もの恒星の集団だと考えられています。

昴は砕け散るのか?

先日亡くなった歌手、谷村新司さんの代表曲「昴」の歌詞には「砕け散るさだめの星たちよ」と歌われています。谷村さんは天文ファンだったことでも知られており、これは「昴」の歌詞を考える中でも関わっていると考えると、こんなことではないかなという考えがでてきます。

1つは、超新星爆発のように星団の昴のメンバーの星が砕け散るということです。ただ、これはちょっと考えにくいです。

恒星が超新星爆発を起こすには、2つのケースがあります。

1つ目は太陽の8倍以上の質量がある恒星が、鉄を作る核融合反応まで起こし超巨星になって、それが核融合反応停止によってつぶれて反動で爆発するものです(重力崩壊型)。太陽の8倍の恒星の寿命は、5000万年くらいであり、もし超新星爆発を起こす星があればすでに爆発しているはずであり、また、昴で最も明るいアルキオーネという恒星は太陽の6倍程度とわかっているので、重力崩壊型の超新星爆発はしません。

2つ目は、太陽の8倍未満の質量の星が反応をとめたあとにできる白色矮星に、近隣の恒星からガスが流れ込んでそのガスの圧力が爆発を誘発するというものです。これは可能性があります。ただ白色矮星は暗い天体なので、見えている昴の星について歌うにはちょっと違うという気がします。

では、超新星爆発ではなく「昴が砕け散る」というのはなにが考えられるのでしょうか。もう1つ考えられるのは、昴を作る兄弟の絆がなくなり、バラバラになっていくということです。これは、実際にそうなっていきます。

昴はかれこれ1億年間、一緒にいる星の兄弟たちですが、これは永久に一緒にいられるわけではありません。星団全体が天の川銀河の中を移動する過程で、他の天体の引力の影響で、次第にバラバラになっていくのです。

実際に恒星は基本的に一気に数千個もまとめて誕生し、星団を構成します。太陽も、かつてはなんらかの星団の一員だったはずですが、46億年もたつとばらけてしまって、パートナーがどこにいるのかほとんどわからなくなっています。そうした仲間を探すという研究もあるのですけどね。

で、昴も今後、ばらけて、星団としては砕け散っていきます。また、特に明るい恒星については数千万年から1億年で寿命がきて消えていきます。華々しく吹っ飛ぶというわけではないですが、静かに昴の姿は崩れ、砕けていきます。天文ファンだった谷村さんはそうした運命を知っていたのかもしれません。

ただ、そうしたことを語っているインタビューなどがちょっと見当たらないので、私、しののめの、あくまで想像だということは強調しておきますね。サイエンス的には星団の崩壊のほうがもっともらしいなあというだけです。では。