国立天文台は10月10日、NAOJの市民天文学プロジェクト「GALAXY CRUISE(ギャラクシークルーズ)」初の研究成果として、すばる望遠鏡の高感度・高解像度の画像と、市民天文学者による高い分類精度を組み合わせ、銀河が衝突・合体する際に、その銀河の中でさまざまな活動性が高くなることを明らかにしたと発表した。

同成果は、NAOJ ハワイ観測所の田中賢幸准教授(GALAXY CRUISE「船長」)と、同プロジェクトに参加した市民天文学者の共同研究チームによるもの。詳細は、日本天文学会が刊行する欧文学術誌「Publications of the Astronomical Society of Japan」に掲載された。日本天文学会が刊行する欧文学術誌「Publications of the Astronomical Society of Japan」に掲載された。

  • ALAXY CRUISEは、宇宙に満ちあふれるさまざまな色・形の銀河の謎を解くことが目的だ

    GALAXY CRUISEは、宇宙に満ちあふれるさまざまな色・形の銀河の謎を解くことが目的だ。今回は、2年半続けられた第1シーズンの分類結果(約200万件)をまとめたカタログが公開され、科学解析の結果が論文として出版された(c) 国立天文台(出所:すばる望遠鏡Webサイト)

宇宙には、渦巻銀河や楕円銀河、不規則銀河など、形状や色味もさまざまな銀河が満ちており、そうした多様性の原因として銀河同士の衝突や合体が大きく関係していると考えられている。しかし、銀河同士が合体する時に何が起きるのか、天文学者の観測的な理解は限定的なままだったという。それはそのような銀河が稀で見つけるのが困難だからだ。

そこで、立ち上げられたのが一般の市民天文学者の力を借りて、すばる望遠鏡の超広視野主焦点カメラ「Hyper Suprime-Cam)」(HSC)が撮影した銀河の観測データの中から衝突・合体注の銀河を探し出すというGALAXY CRUISEである。同プロジェクトは、2019年11月から第1シーズンがスタートし、今回の研究成果は同シーズンによるものだ(現在は第2シーズンを実施中)。

市民天文学者というと、研究者並みの知識を有し所有する望遠鏡で定期的に夜空を観測しているようなイメージを持つかも知れないが、GALAXY CRUISEに参加するにはインターネットに接続できるPCやタブレット、スマートフォンなどがあれば特に条件はない。銀河を分類するための知識は、トレーニングコースをこなすことで得られる仕組みで、銀河の形態を理解すると参加可能となる(乗船許可証が手に入りGALAXY CRUISEに乗船できる)。およそ2年半続けられた第1シーズンでは約1万人が参加し、200万件を超える分類が行われた。これは研究者だけではなし得なかった件数とする。

そして、その分類結果を田中准教授が丁寧に解析したところ、市民天文学者の分類精度はとても高いことが判明。たとえば、研究者による先行研究では楕円銀河と分類されていた銀河の周囲に、はっきりと渦巻き構造が見えるケースも数多く発見されたという。つまり、研究者の分類間違いを正すことができた銀河も多くあり、GALAXY CRUISEの分類精度は先行研究を大きく超えているとした。

  • 研究者による分類では楕円銀河とされていたが、今回市民天文学者によって渦巻銀河と分類し直された銀河の数々

    研究者による分類では楕円銀河とされていたが、今回市民天文学者によって渦巻銀河と分類し直された銀河の数々。すばる望遠鏡のHSCの画質の高さもあって、どれも立派な渦を巻いていることがわかり、分類し直された。c) 国立天文台(出所:すばる望遠鏡Webサイト)

GALAXY CRUISEの主対象である、衝突・合体の過程にある銀河にもそれが当てはまるとする。銀河が衝突・合体する際に銀河の形がゆがめられたり、銀河の周りに特徴的な形が見えたりすることがあるがこれらの特徴はしばしばとても淡く広がっていて、見逃されてしまうことが多いという。しかし、すばる望遠鏡の感度と解像度を活かした画像は、今まで見つかっていなかった衝突・合体の淡い痕跡を多くの銀河で発見したとする。

さらに、市民天文学者たちの分類をうまく使うことで、衝突・合体銀河の中でもとりわけ激しい合体の現場にある銀河を見つけることにも成功したという。形が大きく崩れ複雑な形をしている銀河は珍しく見つけるのが困難なため、およそ1万人という市民天文学者によるまさに人海戦術で分類した成果とした。

今回の科学解析から衝突・合体をしている銀河は、そうでない銀河と比べて星形成活動が活発になっていることが明らかにされた。さらに、どの銀河の中心にもあると考えられている超大質量ブラックホールも、衝突・合体している銀河では活動性が高まっていることが示されたとする。その傾向は、とりわけ衝突・合体の激しい銀河で顕著であることが確かめられた。銀河同士が最終的に合体する際に、銀河の中でさまざまな活動が引き起こされることが推測されるとした。

  • 今回新たに市民天文学者によって発見された、激しい合体の瞬間にある銀河の数々

    今回新たに市民天文学者によって発見された、激しい合体の瞬間にある銀河の数々。大きく形が崩れた銀河ばかりで、合体の激しさがうかがえる(c) 国立天文台(出所:すばる望遠鏡Webサイト)

また、今回の論文の発表と同時に、GALAXY CRUISEの分類結果は世界中の研究者に向けて公開された。科学的価値を認められた市民天文学者の分類がさらに広く活用され、新たな発見へとつながることが期待されるという。

日本の天文学は、以前より研究者だけでなく市民天文学者の活躍によっても支えられてきており、GALAXY CRUISEはその21世紀版といえるだろう。第2シーズンは現在も実施中なので、インターネットに接続できPCやタブレット、スマートフォン(衝突銀河の画像をチェックするので、画面の大きなPCやタブレットが推奨されている)などを所有している人なら、誰でも今日から市民天文学者になることが可能だ。