月から採取された岩石「月の石」を見たことありますか? 海外旅行もそろそろ復活の今。「月の石」を見るチャンスは意外に近くにころがっています。今回は「月の石」を見てみませんか? という話です。

「月の石」は、月そのものの歴史の証人であるとともに、地球では生物や水や空気など活発な表面活動で見えにくくなっている、太陽系の初期、30〜40億年前の歴史の証人でもあります。月は空気も水もなければ、生物もいないので表面が変化しにくく、古い地質がそのまま残っていたりするのです。「月の石」を月から採取して持ってくる、そして調べるのは、そんな科学的な意義があります。

で、その「月の石」ですが、今までに3つの国が地球への持ち帰り(サンプル・リターン)に成功しています。

最初の持ち帰り成功は1969年7月です。同時に人類が初めて月に行って帰ってきたアメリカ合衆国で、アポロ11号でございます。21.55kgが2人の宇宙飛行士アームストロングとオルドリンによって採取され、持ち帰られました。50年以上前の話なんですな。その後12号、14号、15号、16号、17号と合計6機のアポロ宇宙船が(13号は事故のため月着陸を断念)毎度持ち帰り、合計2200個、382kgの「月の石」が地球にもたらされました。この公式の数字は「月の石」の収蔵・研究施設である、NASAのLunar Sample Laboratory Facility(テキサス州ヒューストン)から引っ張ってきています。

次に成功したのは旧ソビエト連邦(現ロシア)でございますな。1970年9月にLuna(月)16号が無人でのサンプル・リターンに成功。101gを持ち帰りました。その後 Luna20号、24号が成功。合計301gがもたらされています。最後の採取は1976年で、地球外物質の着陸しての持ち帰りの次は、日本のはやぶさ探査機(2010年、小惑星イトカワの岩石)までありませんでした。

最後に成功しているのが中国です。2020年12月に無人探査機の嫦娥五号で月から石を持ち帰っています(鳥嶋真也さんの記事に詳しいです)。1731gが持ち帰られました

ということで、都合3カ国が月の石を地球に持ち帰っているわけです。ただ、そこに日本はありません。日本はこれまで、2007年に大型の月探査機かぐやを成功させていますが、これは月周回機で着陸はしていませんし、もちろんサンプル採取はしていません。小惑星探査機はやぶさとはやぶさ2でのサンプル採取の実績はありますし、月よりはるかに遠い小惑星からの採取でしたが、これは小惑星の低重力を利用してのことで、同じ手は月では使えません(火星の衛星では試みられようとしています)。

2022年度は月着陸機SLIMが予定されていますが、これは着陸の実験を行うもので、サンプル採取や地球への持ち帰りはできません。アメリカでは50年ぶりに有人月探査のアルテミス計画が進んでいて、ここに日本も参画しますが、月に着陸するのは早くて2024年でございます。まだちょい先の話です。

ということで「月の石」は、アメリカ、旧ソ連、中国が持っているわけです。このうち、圧倒的に多くのサンプルはアメリカが持っています。そして分析のために友好国の科学者には貸出もしています。日本の研究者にも貸し出されて分析がなされました。

一方で「月の石」は、多くの日本人の衆目に触れる機会がありました。1970年3月〜9月に大阪で開催された日本万国博覧会の会場です。この時、2つのパビリオンで「月の石」を見ることができています。1つはもちろんアメリカのパビリオンで、アポロ12号が1969年11月に持ち帰ったもので1kgほどの大型のサンプルでした。そのほか、アポロ8号の司令船やアポロの前の有人宇宙計画で使われたジェミニやマーキュリー宇宙船なども展示され、毎日何時間も並ばないと入れないほどの人気を博しています。

また、この人気で熱中症で倒れる人も出たため、日本館でもアメリカから提供された小さな「月の石」を展示しています。なお「ソ連館でLuna16のサンプルを万博閉幕間際に展示していた!?」という情報を聞いたことがあるのですが、確認できませんでした。誰か教えてー。

さて、この日本万博の前に日本でも「月の石」の常時公開が始まっていました。日本館に展示されたサンプルで、これは現在でも東京上野の国立科学博物館で見ることができます。国立科学博物館では他にアポロ17号のサンプルもあります。moonstationにきちんと取材した記事がありました。

また、実はもう1つ、日本に常時展示されている「月の石」があります。2022年4月にオープンしたばかりの、スペースLABO/北九州市科学館の展示で、元々は宇宙のテーマパーク「スペースワールド」にあったものだそうです。174gある大きなサンプルで、無料で見られるスペースにアポロ司令船の模型とともに展示されているそうです。「そうです」って、そうなんです、まだ見てないんですよ。見てみたいなあ。

また、常設でないと日本宇宙フォーラムが「月の石」を手配して展示の実施支援をしているようです。イベント的に展示会が行われるので、近くで見るチャンスがあるかもわかりませんね。

ところで、本家ではどうなのでしょうか。ソ連の月の石は、一部がサザビーズのオークションで出されて個人が持っていたりして、それが貸し出されて展示されることもあるようです。中国のものは、展示会が開かれたようですが、今まさに研究されているところです。

で、アメリカのものは? というと、上に書いたように日本でも展示されているわけですが、世界の主要な科学博物館でも展示されています。例えば、中国でも北京天文館に展示されましたし(現在は不明、収蔵品データベースにはあり)、イギリスなどでは、ロンドンの自然史博物館で展示されているほか、レスターの国立宇宙センターでもみられます。

そしてアメリカですが、ワシントンの航空宇宙ファンの聖地、スミソニアン航空宇宙博物館(触れる!)や、スミソニアン自然史博物館、世界最大の科学博物館であるニューヨークのアメリカ自然史博物館はもとより、全ての州の科学博物館で「月の石」を見ることができます。こちらにほかの国も含め一覧がありますな。

さらにはアメリカイギリスでは学校向けのレンタルも行われています。さすがに「月の石」が身近ですな。うー羨ましい。

ところで、時々「月の隕石」が「販売」されていることがあります。これは宇宙船が採取してきたものではないのですが、偽物ではなく、月から飛んできた隕石なのです。つまり、月に隕石が衝突、衝撃で吹っ飛んで弾き飛ばされた月の岩石が巡り巡って地球に隕石となって落ちたものと言うことですな。日本は南極で隕石を大量に採取しており、月の隕石もその中に混じっていました。東京立川の展示館で見ることができます。

ということで、案外身近な「月の石」。ぜひみてください。まあ、なんというか、石ですけど。