NASAおよびESA、CSA、宇宙望遠鏡研究所は、この2021年12月22日に、「ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)」を打ち上げます。これまでの宇宙望遠鏡のスペックを大きく上回る超!宇宙望遠鏡。138億年前の宇宙誕生からわずか50万年の様子まで迫り、宇宙で最初に輝いた恒星を見つけるとしています。今回はそのスゴさをご紹介いたしますねー。

えー、前回も、宇宙望遠鏡について長々と紹介いたしました。あの長さは書いていた当人も想定していなかったのでございまして、いかに宇宙望遠鏡が当たり前になっているのかがわかった次第です。

さて、前回は前置き、今回こそいよいよ12月22日に打ち上げが迫る、ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡のご紹介でございます。いままでの宇宙望遠鏡に対して、いろいろ桁違いなところがあるスゲー、超!宇宙望遠鏡なのでございます。その超! なポイントを見て参りましょー。

  • ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡

    ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡外観 (c)NASA,ESA

ともかくデカい! 天体の光を集める反射鏡の直径は6.5m

望遠鏡は鏡(レンズ)が命。それがデカいほどよいのでございます。ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡は、光や赤外線を集める直径6.5mもの鏡を持ちます。これは、図のように宇宙望遠鏡としではずば抜けた最大級なのでございます。なお、この中で現役なのはNEOWISEとハッブルだけです。

  • 宇宙望遠鏡の鏡の直系比較

    宇宙望遠鏡の鏡の直系比較

で、直径6.5mは、33平米くらいですから十坪ですな。20畳分ですな。20畳のリビングダイニングなんて庶民にはもてないわけで、いや、デカさがわかりますわ。鏡の上でホームパーティが開けそうです。ちなみに現在までエース宇宙望遠鏡のハッブルは2.4mですから4.5平米。一坪半で3畳分でございます。これ書いてる本置き場なみでございます。

ところで、なーんで鏡のデカさにこだわるかというと、天体観測では鏡が大きいのは正義だからです。

鏡がデカければ、たくさん天体の光が集められます。そうすると暗い天体が観測できるようになります。天体が暗いのは、(1)もともと暗い、(2)遠くにある、(3)また途中で光を吸収してしまう物質があるといった理由が渾然一体としてます。どれもこれも天体を調べるのに不自由なので、これを突破するにはともかくデカい鏡が必要なのでございます。

また天体の光をプリズムや回折格子で虹のように分けるのを、分光観測。まあスペクトル観測といいます。で、このスペクトル観測も、より暗い天体でできたり、より分解をあげることで細かなことがわかったりするのです。

ちな、スペクトル観測からは特定の物質(たとえば金とかプラチナとか)の有無や分量、速度、温度、磁場の強さなど様々な情報が得られます。天体の光はスペクトル観測するために、分けることで弱まりますから、暗い天体のスペクトル観測をするにはともかく元の光の物量が必要なのでございます。

ということでデカいのが正義なのでございます。それを素直ーに実践しているのが、この20畳のリビングダイニング、じゃない超巨大な反射鏡なのですな。

なお、宇宙空間に持ち上げようとするからデカい鏡がしんどいのであって、地上ならもうちょっとなんとかなるべえという話はございます。世界最大の望遠鏡は、考え方によりますが、南米にあるVLT(Very Large Telescope:とてもでかい望遠鏡……語彙力……)で8.2mの鏡望遠鏡4台を組み合わせ16.4m相当にしたものでございます。220平米ですので67坪。130畳分ですな。本格的なパーティが開けますな。1台あたり最大のものは11.2mのGCT(Gran Telescopio CANARIAS:カナリア諸島のスゲえ望遠鏡)でございます。100平米、30坪で、パーティ規模(もうええ)。ほかにも10mとか8mという望遠鏡が10台くらいはあるのです。日本もハワイに8mクラスのすばる望遠鏡を持っていますし、東大が南米に6.5mの望遠鏡を建設中です。

なんだ、6.5mってたいしたことないなと思えてきたでしょ。いや、もう1つ特徴があるのですよ。

宇宙の誕生50万年まで迫る! 赤外線観測をする望遠鏡

さて、ジェイムズ・ウエッブ宇宙望遠鏡は、ハッブル宇宙望遠鏡と違い、赤外線での観測に特化しています。監視カメラかよという感じですが、これは宇宙のはるか果てを狙うためでございます。

さて、ここで「宇宙は膨張して(ふくらんで)いる」というお話が登場します。宇宙は138億年前に「無」から誕生し、以来、どんどん膨らんでいるのでございます。そのため、遠くのものほど光が引き延ばされる「ドップラー効果」で赤っぽく見えるのでございます。まあ、青く見えるはずの星が赤っぽく、さらには赤外線に変色して見えると思ってください。

そのため、遠く=光が到着するのに時間がかかるので、昔を観測するなら、赤外線で観測するのが吉ということになるんですな。

実際、この特性を利用することによって、ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡は、宇宙が生まれてから50万年後まで観測できるとされています。そしてその力を使って、宇宙誕生から数億年以内に誕生と考えられる最初の恒星(ファースト・スター)を調べようとしています。

これはいままでの望遠鏡ではなかなかできなかったことなのです。ファースト・スターは宇宙の始原物質である水素とヘリウム「だけ」でできている恒星です。恒星が輝くには実は少し不純物があったほうがよいのですがそうではないと予想されるのがファースト・スターなんですな。じゃあ、どんなものなのか、まだ誰も観測に成功していないので謎なのです。それを成し遂げようというが大きな狙いなのでございます。巨大&赤外線望遠鏡でないとなかなかできないことです。

ちな、普通の望遠鏡では赤外線が十分に反射しません。そのためジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡は赤外線の反射性能にすぐれる金めっきを備えています。

と、ここまで書いて、だったら地上の望遠鏡を金めっきすりゃいいじゃんという話になりますな。実際そういう望遠鏡もあるのです。ところが地上の望遠鏡だと赤外線のなかでも、可視光線からちょっと離れた中間赤外線などは大気中の水蒸気や酸素分子などに吸収されてしまい、観測ができません。空気がいかに宇宙からの光を邪魔するかというのでは、オゾン層が紫外線を吸収することが知られていますが、実はかなり大気が吸収するのです。吸収されないのは、私たちが見るフツーの光と電波(電磁波ということで光の仲間)に限られます。これらは「大気の窓」なんていういいかたをします。詳しくは日本天文学会の解説を見てくだされ

また、赤外線で観測することでおもしろいものがあります。それは惑星の大気です。もちろん、太陽系ではなく、何光年もはなれた太陽系の外の惑星でございますな。大気の酸素分子で赤外線が吸収されるといいましたが、逆に酸素分子の有無を調べるには赤外線で観測すればよいのでございます。ここで巨大&赤外線を活かし、スペクトル観測をして酸素分子などを直接見つけようということなのでございます。

なお、酸素分子は原始的な惑星にはなく、生物活動の結果できると考えられています。つまり宇宙の生命をさぐるというこれまた、究極の目的のために赤外線が活かされるのでございますな。

距離100万マイル=150万km、月の4倍遠くに置かれる

ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡は、重さ6トンあまりあります。気象衛星ひまわりは初期型が300kg、最新の9号が1.3トンですから、かなり重いことがわかります。ただそれだけではなく、ひまわりは地上3.6万kmの静止軌道にありますが、ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡は地上150万kmと、月の38万kmよりも4倍も遠い場所に打ち上げられます。この場所は、太陽と真反対のラグランジュ点(L2)で、地球と太陽の引力がバランスした重力の尾根のような場所で、宇宙機を安定して配置しておけます。

打ち上げを受け持つのはヨーロッパのアリアン5型(タイプECA)ロケットです。これは静止遷移軌道に10トンの衛星を運ぶ能力がある世界トップクラスの大型ロケットで100回以上も打ち上げ成功しています。また、日本のH2Aロケットの倍の軌道投入パワーを持っています。

さて、L2点からみると、いつも地球と太陽は同じ方向にあります。地球の影になると太陽電池パネルが使えなくなっちゃいますが、これを巧みに避ける8の字の軌道をとることで、いつも同じ方向に太陽電池パネルを展開すると安定した電力が得られる利点があります。

さらにジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡のデザインをみてもらうと、遮蔽が片側だけなのがわかります。太陽の方向はいつも一緒なのでこういう芸当ができるのですな。さらに通信すべき地球の方向も同じですからアンテナをぐるぐる振り回すような必要もありません。その分機体を軽く設計できるわけで、実際、ハッブル宇宙望遠鏡よりも馬鹿でかいのに、重さは半分しかないのでございます。工夫の力ですなー。ふむ。

世界最大の折り紙

そこで、鏡すらも分割され、折りたたまれて搭載され、宇宙空間で展開されるようになっています。「折り紙望遠鏡」のニックネームがついているくらいでございます。折り紙具合は、ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡のホームページに、それだけの特設ページがあるので、見てね。

しかし、分割された鏡は展開したあと、きちんとピントがでないといけないわけです。これセンサーで制御されつつやるっていうのですが、なんやその離れ業って感じですな。

というわけで無事の打ち上げを祈りましょう。

まあ、こうした意欲的「すぎる」開発のため、もう10年前には打ち上がっている予定が、のびに伸びに伸びまくって、なんどか「やめちまえ」になりそうになりつつ、米大統領も3代も変わっちゃいつつ(欧州はもっとかも)。よーーーーやく、今回の打ち上げでございます。

12月22日、無事打ち上がり、折り紙の展開がうまくいき、性能が発揮され、なによりもファースト・スターが見つかることを祈りましょー!