今回は、「アルキメデス」という人物の紹介でございます。

先日公開された映画「アルキメデスの大戦」のアルキメデスでございますな。割とよく見かけますよねー。2000年以上前の古代ギリシアの科学者で、天才中の天才です。

生まれ育ちはイタリアのシチリア島。テコで地球を動かせて、エウレカ(わかったぞー)と言いながら裸で町を走り回り、スクリューで水を組み上げ、大石を発射して要塞を粉砕し、鏡で太陽光を集めて船を焼き払い、「うるせー計算の邪魔をするな」と言って、殺された人です。

え? なんのことかわからん? はい、そこは説明いたしますってー。

この間紹介したマンガ「アルキメデスの大戦」が映画化され、ドンパチがほとんどない戦争映画として話題でございます。22歳の天才数学者の櫂直(かいただし)が、黒板に数式を書き連ねながら戦争を阻止! 戦艦大和×天才数学者、と宣伝されています。

ところで、ここで登場する「アルキメデス」ってナニモノなんでしょうか? アルキメデスといえば、古代ギリシアの技術者・科学者なのですが、今のところ「アルキメデスの大戦」には、アルキメデスはあらわには登場しません。象徴的なタイトルワードとして、アルキメデスが使われているわけですな。

では、アルキメデスが何を象徴しているかというと軍事における「技術」面であろうと思われます(原作では外交も含む戦略も大いに登場するのですが)。確かに、アルキメデスは、いくつかの軍事技術を発明・指導し、それによって故郷のシチリア島シラクサの防衛に貢献したと言われています。腕力でも戦闘技術でもなく、頭脳で戦争に関係したわけです。アルキメデスの大戦の主人公の、櫂直(かいただし)は、数理計算で戦争に関わるわけで、そのあたりがアルキメデスと重なるということなのでしょうね。数学に夢中になり、突拍子もないことをする描写も出ていますが、その辺もアルキメデスのいくつかのエピソードとイメージは重なります(内容は違いますけど)。

ということで、一人でフムフムと喜んでいないで、また、作品を読んでいなくとも、アルキメデスという人物&ワードが楽しめるように、少しばかりご紹介をしておこうというわけでございます。

さて、前置きが長くなりました。アルキメデスでございます。

古代ギリシアの技術者・科学者です。2000年以上前の紀元前3世紀に活躍しました。現在でも「アルキメデスの原理」「アルキメデス・スクリュー」などに名前を残す、大天才です。また、後で登場しますが米カリフォルニア州のユーレカという都市は、アルキメデスが裸で喚いたと言われる「エウレカ(またはユリイカ、ユーレカ、見つけたぞーの意味)」にちなんでいます。

アルキメデスが生まれ育ったのは、イタリア・シチリア島のシラクサです。古代ギリシアの都市国家は周辺に勢力圏を広げており、コリントスが作った町です。のちにアテネ・スパルタの戦争ではスパルタ側についたりしておりますな。その後ローマの勢力下に入ります。古代ギリシアの遺跡が世界遺産として残っている町でございますな。

アルキメデスが活躍したのは紀元前3世紀。生年はBC287年ごろ、没年はBC212年とされています。結構長生きですなー、というか75歳で死んだという記載からの生年は推定です。没年は、ローマとカルタゴの第二次ポエニ戦争の記録からです。カルタゴ側についたシラクサにいたアルキメデスが、ローマ兵に殺されたという記述からでございますな。

アルキメデスは、殺され方で有名です。計算している最中に「シラクサの占領民は絶対殺すな」と命じられていたローマ兵に殺されたのでございます。

ローマはシラクサと戦いますが、アルキメデスは数々の兵器を開発し、ほぼ孤立していたシラクサの2年間に渡る防衛に貢献していました。海から押し寄せるローマ軍艦に対し、城壁の効率の良い補修や、80kgの石を投げられる投石機の発明、大型の弩の発明、船を転覆させる鉤爪の発明(アルキメデスの鉤爪と呼ばれる)など桁外れの破壊力がある新兵器で防衛したのですな。さらに、鏡を使って、太陽光を集め、ローマ軍艦を焼き払ったとする説もあり(ソーラーレイですな)「晴れた日は攻撃できなかった」というのちに語られた話もありますが、様々な実験で無理なんじゃねいやできる、と意見が分かれています。

さて、アルキメデスのせいもあり、2年間もシラクサを占領できなかったローマは、お祭りで浮かれているすきにシラクサ要塞の外郭への兵士の侵入に成功します。そして、城門を開けられてシラクサの外郭は陥落してしまいます(内郭はその後8ヶ月持ちこたえますが、最後は兵糧攻めで敗退)。その際、ローマ軍を率いていた名将マルクス・クラウディウス・マルケルスは、シラクサの住民の殺害を禁止しました。

一方、アルキメデスは戦争に負けていても、道端で地面に何かを書いていました。恐らくは計算をしていたものと考えられています。計算に熱中しているアルキメデスにローマ兵は声をかけますが、全く無視された(または「うるせー黙ってろ」と言われた)ために、いきりたったローマ兵は、この老人を殺してしまいます。「代えられない天才になんてことを!」と将軍は嘆きましたが後の祭り。最後まで研究しながら死んだというので有名なのでございますな。別の説では、測量機を取り上げられそうになって、争って殺されたとかありますが、アルキメデスが頑固だったのは間違いなさそうですな。

さて、アルキメデスはなぜ、シラクサ防衛で辣腕をふるえたのかというと、それまでの数々の発明で名声を得ていたからです。

直接的に有名なのが「地球を動かしてみせる」という話です。

アルキメデスは、テコの原理を敷衍し「私に支点を与えよ、さすれば地球すら動かしてみせる」と豪語していました。流石に地球ではテストできないので、大型の船を動かす実験をします。彼はテコではなく、組み合わせ滑車を使って、たった一人の力で巨大な船を動かすことに成功します。これにたまげた人々が、彼をシラクサの軍事技術責任者にしたというお話です。

「エウレカ!(見つけたぞ!)」と、言いながら裸で町を駆け抜けた逸話も有名です。

彼は、金の冠に混ぜ物がされ、冠の職人が金をネコババしているらしいという話を王から聞かされます。ただ見かけは変わらず、ネコババされているかどうか、調べて欲しいと言われるのです。

悩んだアルキメデスは、共同浴場に入っていた時に、お湯が溢れるのを見て、ひらめきます「同じ重さでも、混ぜ物があったら体積が違うはずだ!」「それは水槽に沈めて、溢れる水の量でわかる」というものでございました。複雑な形状の物体の体積の測り方を考えついたのですね。これに関連した浮力についての法則がアルキメデスの原理です。

なお、彼は、お風呂から飛び出し、すっぽんぽんの裸のままで「エウレカ!(見つけたぞ!)」と叫びながら、アイデアを書き留めるために自宅に町を駆け抜けたという話です。

実際は、天秤を使って浮力を利用して調べたのでは? と考えられていますが、ともあれ、職人のインチキはすっぽんぽんで町を駆け抜けたアルキメデスによって暴かれることになります。

エウレカ(見つけたぞ!)あるいは、ユリイカ、へウレーカなどは、都市の名前のほか雑誌やテレビ番組のタイトルなどにも使われていますね。

実用で有名なのは「アルキメデスのスクリュー」の発明ですね。これは、工夫したネジを斜めにおいて回転させることで、水を汲み上げる道具となるというものです。また、船の推進などにも応用されていますし、現在でも粉や石を運び上げるのに利用されています。なんというか、実物を見ないとピンとこないと思います。日本ガイシさんのこちらなんか、わかりやすいかな。

さらに、アルキメデスは「宇宙に入る砂つぶの数」の推計をしています。考え方は前にご紹介したフェルミ推定と似ていて、様々な条件をロジックで結んで、巨大な数量の推定をしていくというものですな。

アルキメデスは、これで、宇宙をうめつくす砂つぶであろうが「数字で表現できる」ことを主張していまして、本当はそっちが主題です。現在の宇宙論では、宇宙の果てがないということになっておりますので、砂ではうめつくすことができませんけれど、ただ宇宙にある物質とそうでない暗黒物質やエネルギーとの比率はわかっています。

それから、アルキメデスは、数学の世界でも大きな数の扱い方や、円周率の推定や円錐の体積や断面積の計算方法など、幾何学の様々な法則を導くなど、科学の歴史に残る様々な研究をしています。

随分長くなっちゃいましたが、アルキメデスの足跡はそれだけすごいということですね。没年の直前のシラクサ防衛線が印象的で、ヘウレーカという漫画にもなっています(かなり誇張と創作が入っていますが、ま、そこはエンタメですから)。もし見つけられたら読むと良いかと。

ということで、アルキメデス、コンパクトにまとめるのが困難なほど、面白いおっちゃんでございます。

著者プロフィール

東明六郎(しののめろくろう)
科学系キュレーター。
あっちの話題と、こっちの情報をくっつけて、おもしろくする業界の人。天文、宇宙系を主なフィールドとする。天文ニュースがあると、突然忙しくなり、生き生きする。年齢不詳で、アイドルのコンサートにも行くミーハーだが、まさかのあんな科学者とも知り合い。安く買える新書を愛し、一度本や資料を読むと、どこに何が書いてあったか覚えるのが特技。だが、細かい内容はその場で忘れる。