天体観察の道具といえば、思い浮かぶのは望遠鏡ですねー。全くその通りですが、天文ガチ勢は双眼鏡もよく使っています。そう、ドーム球場で推しをチェックする、あの双眼鏡です。最近は、倍率がたったの2倍といった「大きく見たいんじゃないのかーい!」な、双眼鏡も流行っていたりします。そして、双眼鏡こそ夏休みの自由研究の道具として、かなりイイかもなのです。今回は、天体観察のグッズとしての双眼鏡の良さを力説いたします。ビシっ!

  • 双眼鏡

天体望遠鏡には、特別な響きがありますな。アレを使えば、図鑑で見た、アレやコレやが見えると期待が高まるわけでございます。実際、天体望遠鏡で月のクレーターを見ると、だれもが「おっ」となり、土星の環など見ようものなら「わ―――」となる(…すみませんすみません)ことまちがいないのでございます。過去1万人以上に(本当)、望遠鏡で土星の環を見せてきた人(本当に本当)が言うのだから、まちがいございません。ま、天文ガチ勢は「そうそう」と思っていただけることと思います。

そうなると、中には望遠鏡を買っちゃう人が出てまいります。実際、月のクレーターや土星の環、木星の衛星に、金星の満ち欠けを見るなら、コルキット・スピカという40年前から発売されている3000円ほどの組み立てキットの望遠鏡でバッチリ見えるのでございます。別途カメラ用三脚は必要ですが、入門体験用には間違いがないものです。アマゾンのレビューなど見ると、納得されるかと思います。

さて、しかし、天体望遠鏡は、使うのが難しい道具なんでございます。

  1. 部品が多く、組み立てるのが面倒、物を失くしやすい、収納も面倒
  2. 精密機械なのに野外で使うので、壊れやすい
  3. 専用の機械なので、天体観察以外に使えない、飽きたら確実に邪魔
  4. 頑丈な架台がないと使い物にならないが、重い。持ち運ぶのがイヤになる。
  5. ピントや照準の調整をしないと、まともに使えない
  6. 30倍をこえないと迫力が出ないが、倍率高いほど目標に向けるのが難しい
  7. 地球が自転しているのが実感できる。望遠鏡見ているうちに、目標が動いちゃう
  8. 片目でのぞき。しかもレンズや鏡のせいで上下左右が狂うので、感覚的に使えない

最近では、1と4~8はIT技術やら高級部品でなんとかしちゃう望遠鏡がかなり増えてきておりますが、専用機器であることは、如何ともしがたいですな。それに、天体望遠鏡はだいぶ割安になっているんですけど、まあ諭吉さん数枚~数十枚は必要でございます。もっといえば、しっかりした望遠鏡を買おうとしたら、専門店がやはり強いのですが、まあ、数は限られますし、どうしても敷居は高いですな。参考までに、札幌と、東京(123)、と名古屋と、三重と、大阪福岡の専門店のリンクを貼っておきます。

そこで、オススメなのが双眼鏡です。天体観察にぜひ、双眼鏡を使って欲しいのでございます。

双眼鏡は、ひょいと取り出して、持ち運び、手持ちで使う道具です。両目で見ることと相まって、直感的に使えます。何より、スポーツやコンサートの観戦、風景をながめるなど、色々使えますし、小さい道具なので邪魔になりません。

ただですね。双眼鏡は10倍程度までの低倍率で使うため、基本、30倍は欲しい土星の環はかなり厳しいです。金星の満ち欠けもかなりしんどいですな。じゃあ、何に使えるかって? それなりの双眼鏡であればですが(どれなりかは、後で書きますよー)。

  1. 月が迫力を持って見えてきます。の欠け側がギザギザしていることや、月の大きめのクレーターがわかります
  2. 月が欠けているところがうっすらと見える「地球照」がわかります
  3. 見える星の数がぐっと増えます。
  4. その結果、都会でも星座がある程度わかります。
  5. 明るい星の色がはっきりわかり、宇宙のカラフルさが実感できます。
  6. 田舎なら天の川が無数の星でできていることがわかります。
  7. 都会でも天の川の存在が確認できます。夏なら夜9時の南から頭の上を見ると星の数が多いことがわかります。
  8. うまくすると、木星を見ると、その衛星の存在がわかります。
  9. 適当に空を眺めていると、時々星がわらっと多く、黒い紙に砂糖をまいたような、星団が見えることがあります。

この使えることのポイントは「知識がなくとも、ほとんどわかる」ことでございます。もちろん8の木星や9の星団は、どれが木星なのか(2019年夏は、夜半の空で圧倒的に明るい南にある星でございます)、どこに星団があるのかを知っていれば楽しいのですが、まあお気軽に見るのでもいいんじゃないかなということでございますね。ともかく、望遠鏡と違って楽しみが多いのですね。ちょっとやる気が出てきたら、色々調べて楽しめば良いのでございます。

さて、タイトルは自由研究でした。どう自由研究にすればいいのか?

それは見たものを絵に描くのですよ。スケッチです。

暗い屋外で描くので、手元を照らすライトや、画板(小学生なら持っていますね、大人はまあクリップボードに紙を洗濯バサミではさめばよろしい)、鉛筆などを持っていきます。

双眼鏡で色々な天体や空を見て、スケッチして、あと気がついたことをメモしたものを10も集めれば。立派な自由研究です。星の名前などがわからなくても、南の空に見えるすごい明るい星のあたりとか、何月何日の月の上の星とか、そんな感じでも実は調べられるのでございます。

もちろん、国立天文台の星図などを利用して、何の星か検討をつけるのもいいですな。っていうか、図にあるものが双眼鏡ありとなしで、どれが見えたかというのをチェックするのでも、自由研究のネタには十分です。

最後に、星空観察用の双眼鏡で何が良いか、それなりか、というお話をいたします。

上の目的に使うなら、倍率は6~8倍、レンズの直径が25ミリ~42ミリくらいのものが使いやすいかと思います。これはコンサート用とかで売っているレンジも含まれますねー。そう、あれを使えばいいのです。持っていたらとりあえず使ってみましょう。

ただ、いわゆるオペラグラスはダメです。星がよく見えた試しがないです。たいてい折りたたみ出来て800円とか1000円とかで売っているやつですね。

また、一方でスペックが良ければいいってもんでもないです。倍率は高すぎると、手持ちでお気軽という感じではなくなります。レンズは大きいほどよく見えますが、重くなり取り回しがしんどくなります。三脚に固定する器具も2000円程度で売っていますし、三脚に固定した方がよく見えるのですが(ついでにいうと他人に見せるときもいいのですが)、やはり使いにくいですね。

そのほか、購入するなら、カメラ店などで、おおむね10000円以上で売っているものをお勧めします。ぶっちゃけ、名が通っているメーカーのものが良いですね。その際、実際にのぞいてみて、いくつか比べてください。まず、何だか像が色づいてにじむやつとか、画面が狭く見えるもの、白っぽく見えるのはあまりよくありません。残念ながら双眼鏡はかなり程度が悪いものも、昼間の景色を見るぶんにはわからないので、売られています。

あと、双眼鏡を対物レンズがわから逆に覗き込んで、中の構造がやたらとゴツゴツ見えるやつはよくありません。コントラストが悪かったり、作りが悪かったりする証拠です。かといって見えないようにコーティングしていればいいってもんじゃないんですが、ともかく見え味はお店でわかるので、比べてみることです。ちなみに、レファレンスとして使えればですが、ニコンの5万円以上の高級な双眼鏡と比べるのが良いですね。

また、持ってみて、重すぎないものがいいですね。これは体力次第です。持つのが嫌になってしまっては使わなくなります。通販しか仕方ない! という人は、300グラムとか500グラムとかは、ペットボトルでテストできます。ペットボトルを持ち続けてどれくらいまでいけるのか? テストするのがいいですね。あとはカタログスペックでは、ひとみ系とか明るさがあります。両方とも大きいに越したことはないですが、ひとみ系は3ミリ以上、明るさは7…まあ9くらい以上なら十分だと思います。

ただ、例外があり、防振双眼鏡は倍率高め、ひとみ系や明るさが小さめでもOKです。手が少しぶれても、双眼鏡が機械的に揺れをピシッと止めて、よく見えます。メーカーは、この分野で老舗のキヤノンのほか、ニコン、ケンコー、ビクセン、フジノンなどの光学メーカーから出ています。最近はジャニオタがライブで使っているのをよく見かけますね。ただ、値段は下手すれば二桁諭吉です。レンタルサービスもあるようですので、最初はそれも良いかも。検索したら、ブレないとか銘打った「防振でない」双眼鏡も売っていますね。まあ、防振双眼鏡は今の所、数万円以上するので値段で見分けがつきます。あと、メーカーですね。

そのほか、ガチ天文勢は、2倍の双眼鏡なんてのを使ったりします。これは、大きく見るのが目的ではなく、双眼鏡のレンズで光を集め、暗くて見えにく星を見えるようにするものです。実際、視力が良くなった! と錯覚するような気分が味わえます。笠井トレーディングという会社のワイドビノという製品が最初に広まりました、今ではビクセンやサイトロン、スコープテックからも出ています。

ということで、今回は双眼鏡についてあれこれご紹介しました。かなり経験則に基づく部分が大きいので、尽くしきれていないところはご容赦くださいませ。

なお、天文ガチ勢は、機材の何が良いとか、何が悪いとか、割とハッキリとブログやらに書いている人が多いので、気になる機材があったらググってみると良いかと思います。

まー、ともかく、悪いことは言わないので、双眼鏡を夜空に向けてみてくださいませ。

楽しいよー。

著者プロフィール

東明六郎(しののめろくろう)
科学系キュレーター。
あっちの話題と、こっちの情報をくっつけて、おもしろくする業界の人。天文、宇宙系を主なフィールドとする。天文ニュースがあると、突然忙しくなり、生き生きする。年齢不詳で、アイドルのコンサートにも行くミーハーだが、まさかのあんな科学者とも知り合い。安く買える新書を愛し、一度本や資料を読むと、どこに何が書いてあったか覚えるのが特技。だが、細かい内容はその場で忘れる。