Intelがファウンドリ顧客向けイベントを米国にて開催
Intelは4月29日(米国時間)、米国カリフォルニア州サンノゼにて、同社のファウンドリビジネスを活用する既存顧客や将来利用する可能性のある潜在顧客、ならびに生産受託事業のエコシステムパートナー向けのイベントとなる「Intel Foundry Direct Connect」を開催した。
世界中から1000人を超える人々が参加した同イベントでは、同社の最先端ロジックプロセス技術である「Intel 18A(いわゆる1.8nmプロセス)」や「Intel 14A(いわゆる1.4nmプロセス)」、UMCと共同開発を進める成熟プロセスとなる「12nmプロセス」などの前工程技術とともに先進的なパッケージング(後工程)技術の進展状況とライバルに差異化するための技術ロードマップが紹介されたほか、新たなエコシステム・プログラムの発表も行われた。
登壇した同社の経営陣は、Intelの伝統的な企業文化を改め、顧客の声に耳を傾け、顧客の事業が成功するソリューションを創造していくことで信頼を得る顧客第一(Customer First)主義に徹して事業展開することを強調していた。
CEO自らがファウンドリ事業への注力を宣言
同イベントでは、2025年3月に同社CEO(最高経営責任者)に就任したばかりのリップブー・タン(Lip-Bu Tan)氏が基調講演に登壇。ファウンドリ戦略を次の段階へと進める上での優先事項を説明した。
同氏は冒頭、「私がIntelのCEOに就任してから5週間が経過した。この間、多くの人々に会うたびに、『今後もIntelはファウンドリを継続するのか?』との質問を受けてきた。この質問に対する私の答えは『Yes』だ。ファウンドリ事業を成功に導くことに私はコミットする」と述べるとともに、「私はIntel Foundryが何を改善すべきかわかっている。これからIntelの戦略に関して説明していきたい」と述べた。
同氏の説明としては、「IntelはR&D、最先端プロセス技術、先進的なパッケージング、そして半導体製造の4部門を米国内に有する唯一の企業であり、トランプ政権の『米国における半導体製造のシェアをあげる方針』に賛同し、米国内に世界レベルのファウンドリを構築することに尽力する」とし、顧客の声に耳を傾け、顧客の成功につながるソリューションを創造することで、顧客の信頼を獲得することがきわめて重要な優先事項であることを強調。また、Intel全体でエンジニアの技術力や独創性を大切にする「エンジニアリングを第一に考える文化(Engineering-First Culture)」を浸透させ、ファウンドリ・エコシステム全体にわたるパートナーシップの強化を図っていくことで、戦略の推進、遂行力の向上、そして長期的な市場における勝利を実現できるとの考えを示した。
エコシステムパートナーと協力して先端プロセス開発を推進
また同氏は、EDAベンダ大手のCadence Design Systemsの出身者らしく、顧客がIntelでの製造を成功させるためには設計が重要だとして、設計する上で重要なポイントとして以下の4つを挙げ、ファウンドリの顧客にサービスを提供していく上でのエコシステムパートナーとの協業の重要性について協調した。
- 知的所有権(IP)
- デジタル技術を活用したデザインフロー
- 製造を容易にするためのデザイン(DFM:Design for Manufacturing)
- 高い歩留まりを実現するためのデザイン
これら4つの取り組みについては、それぞれの分野ごとのエコシステム・パートナー4社のCEOがゲストとして登壇し、Tan氏との対話形式で、Intelとの協力体制を説明した。
1人目は、EDAベンダであるSynopsysの社長 兼 CEOを務めるサッシン・ガジー氏で、同氏は「Intelとは長い間パートナーとして、IP設計フローやDFMなどで協力してきた。Intel 18AやIntel 14Aのチップ設計においても一緒にPDK(プロセス開発キット)やIP開発に取り組んでいる。このようなコラボレーションによって設計上の難しさとプロセスとのギャップが縮まる」と、協業の成果をアピールしていた。
2人目は、同じくEDAベンダであるCadenceの社長 兼 CEOを務めるアニルドゥ・デヴァン氏。同氏は「チップ設計やシステム設計にAIを活用することでPPA(Performance、Power、Area)が10~20%改善している。Intel Foundryのエコシステムの一員として先端パッケージングや裏面電力供給技術などの設計で一緒に取り組みたい」と、先端設計手法を活用することで、Intel Foundryが提供するプロセスが性能面で競争力のあるものとなることをアピールしていた。
3人目は、同じくEDAベンダあるSimens EDAのCEOを務めるマイク・エルロー氏。同氏は「Siemens(旧Mentor Graphics)は、物理検証やシミュレーションによってプロセス予知を手掛けてきたほか、SiemensとIntelは先端パッケージングで15年以上一緒に開発してきた協力関係があり、先端プロセスに対してもIntelと一緒にやっていけることにワクワクする」と述べ、長年の協業によるノウハウの蓄積をアピールしていた。
そして4人目はPDF SolutionsのCEOを務めるジョン・キバリアン氏。同氏は「Intelと協力して設計と製造がデータを共有することで歩留まりを上げるツールを完成させてきた。こうした長年にわたる歩留まり向上で協力関係を構築してきており、まったく新しい概念であるIntelの裏面電力供給技術に対しても、解析やタイミングクロージャ、評価(キャラクタリゼーション)を繰り返していくことで、PDKの完成に向けて協力していきたい」と、すでに協業がある程度進んでいることをアピールしていた。
顧客のビジネス支援に向けたエコシステムの構築を推進
また、Intel上級副社長 兼 ファウンドリサービス事業本部長のケビン・オバックレー氏は、「当社は信頼できる実績あるエコシステムパートナーが提供する包括的なIP、EDA、設計サービスソリューションのポートフォリオによって支えられ、これまでのノード・スケーリング(微細化)を超えた進歩を可能にしている。私たちは、顧客の事業が成功するのためのエコシステム構築に注力している」と述べ、エコシステムが機能していることを強調した。
また、Intel Foundryの「Accelerator Alliance」に、新たに「バリューチェーン」と「チップレット」の新プログラムが追加されたことも明らかにされた。
この「Intel Foundry Chiplet Alliance」は、IPベンダやEDAベンダなどがメンバーとして参画しており、参画企業が提供するEDAツールやIPデザインなどを、Intel Foundryのチップレット技術と組み合わせた形で製品開発を、より簡単に行なえるようにしていくことが掲げられている。
まずは政府向けアプリケーションと主要な法人市場を対象に、先進技術インフラストラクチャの確立と運用に注力する予定だとする。また、特定アプリケーション/市場向けに相互運用可能でセキュアなチップレット・ソリューションを活用した設計を目指す顧客に、信頼性が高くスケーラブルな手段を提供していくとしている。ちなみに、Intel Foundry Accelerator Allianceは、これらのアライアンスのほか、「IP Alliance」、「EDA Alliance」、「Design Services Alliance」、「Cloud Alliance」、「USMAG(United States Military, Aerospace, and Government) Alliance」によって構成されている。
このほか、イベントでは成熟プロセスである12nmプロセスにおけるUMCとの協業や、後工程技術を提供するAmkor Technologyとの提携についての紹介も行われており、Intelは、ファウンドリ事業を取り巻く広範なエコシステムの構築に注力する姿勢を見せることで、ファウンドリの顧客に充実したエコシステムによるサポートの提供が可能であることを見せていた。
顧客第一へと企業文化の変革を目指すIntel
今回のイベントでは、顧客の声に真摯に耳を傾け、顧客の成功に向けたソリューションを提供して顧客のビジネスを成功させることがファウンドリ事業の成功の秘訣であることを経営陣が繰り返し強調していた。
近年のIntelは、プロセス開発に躓き、製品の出荷遅れを繰り返していたが、その反省から顧客との約束を守り、品質を高め、スピード感を持って顧客にソリューションを提供し、生産効率を上げて信頼を勝ち取る顧客第一主義(Customer-First Mindset)の重要性が繰り返し指摘することで、Intelそのものが変わったことをアピールしていたともいえる。
こうしたアピールは、長年にわたってCPUで世界を席巻してきた王者Intelに対して、そうした商習慣で慣れてしまった殿様商売的な体質から脱却し、顧客の成功のためのソリューションを提供する企業へと変革していくために企業文化そのものを変えようといういう新経営陣の意気込みを感じるものであったともいえる。
Intel EVP兼Intel Foundry CTO/COO/GMのナガ・チャンドラシーカラン氏は、Intelの伝統的なCopy Exactlyという仕組みをやめて、顧客第一主義に徹して常に技術改善に努めることを説明していた。
ちなみに、チャンドラシーカラン氏は、2024年8月にIntelに入社したが、前職はMicron TechnologyのSVPであった。また、オバックレー氏は2024年5月にIntelに入社したが、前職はMarvell TechnologyのSVPを務めていた。Tan CEOもCadence出身であろ、こうした他社を経験してきた経営陣から見れば、Intelが長年にわたって培ってきた伝統的な企業文化がファウンドリビジネスとはなじみにくい特異なものに映ったのではないかという気がする。
こうした経営陣の1人は、メディアとのインタビューにて「Intel Foundryは、新人経営陣によるいわば巨大なスタートアップ」と冗談めかして語ってくれたが、この「新興企業」が、今後どのような発展を遂げるか注目していくべきだろう。
(次回に続く)