デジタルハリウッド専任講師の小倉イサクです。今回のお題は「CGクリエイターの今後と海外への挑戦」です。人生というものを俯瞰して、目の前だけではなく"その先"についても考えてみましょう。
CGクリエイターに定年はあるのか?
まだまだ若手中心のCG業界は、一体何歳までが現役なのか。CGクリエイターはどんな職業にステップアップできるのか。CG業界を目指す方やすでに働いている方は、こんなことを考えることがあるのではないでしょうか。実はその答えは、まだ模索されている途中なのです。サラリーマンなどは一般的に60歳で定年となり、余生を迎えるという人生の黄金パターンがあります。しかし、CG制作が"仕事"としてこの世界に生まれてから、まだ十数年(学問としては、30~40年の歴史がありますが)。そのため、この業界が生まれてすぐに働きだした人が、ようやく30代半ば~40代になろうというところなので、その先へはまだ誰も踏み込んでいません。
"最年長"となる彼らが今どうしているかというと、相変わらず現場でCGを作っている人や、ディレクター職に就いて制作指揮をしている人、プロデューサーとなった人、自身で会社を設立した人など、実にさまざまです。CG業界は今まさに、彼らや後に続くクリエイターたちが"時代をつくっている"最中なのです。逆に言えば「CGクリエイターは○○歳ぐらいまで」という定説やステップアップの典型例などが存在しない分、一人ひとりが自分のワークスタイルを選択しやすく、その自由さがCG業界の魅力のひとつだと思います。
ちなみに私は7~8年ほどCG制作現場を経験した後、現在は"講師"という仕事をしています。何故なら、毎年受講生がつくる作品を見るのが面白いからです。自分が教えている受講生たちが成長し、クリエイターとしてどんな作品を作るのか。その期待と、実際に作品を見る楽しさにハマったのでしょうね。
日本人の技術は、海外でも通用する?
さて、CGクリエイターを目指している人の中には、海外の制作現場で働くことに憧れを抱いている人も多くいるのではないでしょうか。海外へ想いをはせた時、必ず頭をよぎるのが"日本人の技術は、海外で通用するのか? "という疑問です。結論から言って、日本人の技術レベルは海外でも通用します。
現に映画『シュレック』シリーズなどでおなじみの映画制作会社・DreamWorksで働いているデジタルハリウッドの卒業生も存在します。彼の場合はデジタルハリウッドで一通りの技術を身につけた後、アメリカの大学に入学。4年間でCG技術を向上させつつ英語をマスターし、インターンシップ制度で有名CGプロダクションへ。そして、卒業後に現地でDreamWorksに就職したのです。現在、アメリカでは経済状況やテロなどの影響もあり、就労ビザの取得は困難になっています。しかし、内定先の企業がビザ取得の労をいとわなければ、手に入るものなのです。つまり、彼が努力した結果、内定先から"ビザ取得の労をかけても必要な人材である"と見込まれたわけです。
もちろん誰もが彼と同じことを実践できるわけではありません。しかし、もし皆さんの中で「日本人の技術は通用しないのでは? 」と考えている方がいるのなら、それは間違いです。映画『マイケル・ジャクソン THIS IS IT』(2009)や『2012』(2009)など、たくさんの海外作品に日本人クリエイターが携わっていることからも、そのことが分かると思います。
日本では世界同時不況から、「海外でモノが売れない」⇒「外需中心の日本の経済が破綻」⇒「不況のスパイラル」になっています。今後、日本は現在の産業に頼るだけでなく、新しい産業を生み出さねば、雇用や格差の問題から抜け出せないのは自明の理です。では何を生み出すべきか? その答えはコンテンツ産業にあると、私は考えています。みなさんもご存知の通り、日本の漫画やゲーム、アニメーション作品などは世界中で高い人気を誇っており、これらコンテンツは、今後この国を支える大きな産業になると期待されています。CGクリエイターももちろん、コンテンツ産業を支える一員です。これからの日本を支え、業界を担う人財(ここではあえて"人材"でなく"人財"と書かせてもらいます)を、あなたも目指してみませんか?