ADASや自動運転にセンサは欠かせないが、それはCMOSイメージセンサだけに限った話ではない。レーダーやLidar、超音波センサ、なども必要とされる。そして、これらをすべて統合するためのセンサフュージョン技術も欠かせなくなる。車載イメージセンサで、業界トップを行くON Semiconductorは、市場調査会社の調査によると、2017年の64.8%より2.8%ポイント上げて67.6%の市場シェアが見込まれている。
このほど来日した同社Intelligent Sensing Group、Automotive Sensing Division担当VP兼ゼネラルマネージャーRoss Jatou氏は、「ON Semiのイメージセンサは、車載だけではなく、映画製作や衛星写真、木星探査などの宇宙応用などミッションクリティカルなイメージング分野で実績を積んできた。映画のアカデミー賞のテクノロジー分野でも数々の賞を受賞してきた。だから、車載用でも68%の市場シェアをとることができる」、と語っている。
車載用イメージセンサは性能だけでは受け入れられない、ことを熟知していることが同社の強みとなっている。例えば、暗いトンネル内から明るい外へ出る時の映像で、人間が明るさに眼がくらむように、センサも測定レンジを越え、映像が真っ白に飛んでしまっては、非常に危険な状況に陥る可能性がでてくる。このためダイナミックレンジは広くなければならない。しかし、性能指標の一部でしかないダイナミックレンジがどれほど広く優れていても、このような性能だけではクルマ用には使われない。性能ではおそらく、ソニーのCMOSセンサの方が同社のセンサよりも優れているだろうが、ソニーの市場シェアは残念ながら、13%程度に留まっている。
Jatou氏はなぜON Semiのイメージセンサのシェアが高いのか、その理由を解説してくれた。デジタルカメラやスマートフォンなどで普通に写真を撮る場合には、画素は大きければ大きいほど良かった。しかし、クルマは何メートルも離れた人間やクルマを検出することが最大の機能である。夜間に150m先の人間などの対象物を検出する場合には画素が多くても無駄になる。人間の大きさがとても小さくなるためだ。それよりもS/N比が大きい方が望ましい。検出距離が長くなればなるほど、S/N比が劣化しにくい方が望ましい(図3)。150m先のS/N比が高い方がよいからだ。
クルマ用途ではイメージセンサの信頼性も重要だ。例えば、イメージセンサにはカラーフィルタで日光をスペクトルに分解するが、強い太陽光を浴び続けていると、カラーフィルタが紫外線によってダメージを受ける恐れがある。自動運転をはじめとするクルマ用途では、カメラは常にオン状態で走行するため、日光のダメージの影響を受けやすい。
また、クルマ用途ではセンサの信頼性は、1FIT(Failure in Time)が要求される。これは10の9乗、すなわち10億時間当たりの製品1個の平均故障回数を表す。例えば100万個の製品を出荷すると稼働1000時間当たり平均1個が故障する。カメラシステムは10FIT、自動運転システムとなると部品搭載量が増えるため、100FIT程度になる。だからこそ部品レベルでは、部品が多数搭載されたシステムの1/100のFIT数まで低減しなければならない。
ON Semiは、イメージセンサと信号処理ASICを一体化した、新型車載用イメージセンサ「AR0820」(図4)を開発、現在サンプル出荷中である。特定顧客の評価を受けているロードテスト中で、量産時期は2019年末から2020年はじめごろになるという。この製品の性能は図5に示すように、解像度は8.3Mピクセルでダイナミックレンジは140dBと広く、暗い場所と明るい場所を同時に写真に収めることができる。ダイナミックレンジを広げるため、4回露光して明るいところと暗いところの画像を重ねている。また、暗電流もさらに下げ、2.3e-と低くなっている。
サイバーセキュリティによる問題もある。例えば、ディスプレイに映し出されている画面の一部がハッキングされ、別の画像が表示されているとする(図6)。本来なら赤信号機の画像が映っているはずの映像に別の景色の映像が重なっていると赤信号が見えない。このまま交差点を通過すると横からのクルマと衝突するという危険が大いにありうる。ON Semiは、ハッキングを防ぐため、プロセッサメーカーなどとのパートナーを組み、ソリューションを提供できるように用意しているという。サイバーセキュリティの業界標準ISO21434は2019年末に決まる予定だが、半導体会社としては、その時点まで待っている訳には行かない。
もちろんイメージセンサだけでは車載センサとしては使えない。200m以上の長距離まで測れるLidarの開発も求められている。Lidarは、レーザー光を発射してその反射を検出する測距技術。反射光を効率よく受信するためには、従来のAPD(Avalanche Photo Diode)よりももっと感度の高いSiPM(Silicon Photo Multiplier)が求められており、その開発も進んでいる。SiPMはPETやMRIのような医療機器における真空管のフォトマルチプライヤ(光電子倍増管)に代わり、SiのAPDを2次元にアレイ上の組み込んだもので、半導体検出器ゆえの小型にできるというメリットがある。これを医療機器からクルマ市場で使おうという訳だ。
ON Semiは今後ますます、信頼性がクルマ用途では重要になると見ている。Uberに代表されるように、クルマのシェアリングがもっと普及するにつれ、クルマの走行距離や時間はさらに長くなる。今は、1日当たり平均稼働時間は2時間程度だが、カーシェアリングだと22時間にも及ぶ、とJatou氏は言う。車載用イメージセンサに要求される項目は極めて多い。