マカフィーでは、事態が発生している現場に身を置いて事態の把握に努める「現場主義」を徹底しているそうです。同社の加藤社長は、運用・保守担当者もこの現場主義を持つことが重要だと言います。さらに、「運用・保守担当者が自身の価値を高めるには、どのようなことを行うべきか」について、加藤社長のお考えを聞きました。

自身の業務と会社の損益を結び付ける発想が重要

マカフィー代表取締役社長兼米国本社シニアバイスプレジデント 加藤孝博氏 (撮影:永山昌克)

「運用・保守の担当者でありながら、『うちの部門はビジネスとは直接関係ないので』などと主張するのはもってほかだ」という加藤氏の指摘は、システムの運用・保守に携わるすべての者にとって耳の痛い話だ。 ただでさえ忙しい日々の業務に加え、新たな取り組みのために具体的な行動を起こすことは難しい。さらに、事業運営に対するコミットメントが求められるとなると、何をどうすべきか想像しにくい面もある。そんな状況に対して加藤氏は、「1人1人が現状に流されないようにする心構えを持つべき」とアドバイスする。

「人は往々にして易きに流れるもの。システムの運用・保守は、PCやサーバの管理に追われるあまり『管理さえしっかりしていればいい』という発想に陥りがちだ。そんな状況で大切なのは、『業務に流されている』と感じたら、まさにその瞬間が周囲の環境を変えるためのチャンスだと捉える発想だ」

その次のステップとしては、自身が携わっている運用・保守業務が、事業運営にどのような影響を与えているかを具体的に試算することを提案する。例えば、「時速200kmの車が時速100kmになった場合、会社はどのくらい損をするのか、それを改善するとどの程度の利益が生まれるのかを把握すること。さらに、それを土台に『会社が損害を回避できたのは我々のおかげだ』『会社の業績が向上したのは我々が頑張ったからだ』とアピールしていくことが求められる」というわけだ。

逆に、このようなことを実行することが難しければ難しいほど、実行できた場合のチャンスは広がるとも言える。加藤氏は、「運用・保守には今後、経営の一翼を担っていくという役割がますます求められることになる。そして、それを実現できた企業こそが競争優位性を獲得し、市場で勝ち残っていくことになるはずだ」と語気を強める。

支配されるのではなく自ら環境を切り開け

加藤氏は、定期的な人事異動などによって組織の活性化を図れる日本企業は、運用・保守と事業運営とを結び付けやすい土壌があると指摘する。同社を含む外資系企業の多くは、職種ごとにファンクションが決まっているため、個々人が"その道のプロ"としてスキルやノウハウを発揮できる反面、それらを組織の横のつながりの中で長期的に生かすことは難しい。いわゆる「ストーブ・パイプ」の問題であり、それぞれの出口は交わらないのだ。

一方、日本企業の多くはプロとしての意識を醸成することは難しいかもしれないが、運用・保守の担当者が持ち得た知見は、人事異動や人事交流によって他部門で生かすことができる。運用・保守の担当者も、自ら行動を起こすチャンスがあるということだ。加藤氏は、「環境を切り開くのは自分。その発想でシステムの運用・保守にあたることが、事業運営に携わるための第1歩だ」と、現場への叱咤激励を続けている。

タイトル:社長が薦めるリーダーのための1冊

「中国古典 一日一話 世界が学んだ人生の参考書」守屋洋著、三笠書房刊 写真は文庫版)

このコーナーは、「社長が薦める本ならいい本に違いない!!」という勝手な前提条件の下、ご登場いただいた社長が現場のリーダーの方々に対して「読んでおくべき」だと考えている本を紹介するコーナーです。
休日はゴルフや愛犬とのランニングに精を出すという加藤氏に紹介いただいたのは「中国古典 一日一話」。この本は、中国の主要な古典12冊から、戦略や部下をコントロールするためのノウハウまで、「上」に立つ者にとって役立つ180の知恵と考えが紹介されているもの。加藤氏は「困った時には必ず読む」というほど重宝しているとのことです。ぜひご一読を。

プロフィール

加藤孝博氏
1950年大分県生まれ。58歳。日本のIT産業揺籃期に伊藤忠データシステムズ(現伊藤忠テクノソリューションズ)に入社。その後タンデムコンピュータ日本法人の立ち上げに参画し、レーカル・リダック社、日本DEC(現日本ヒューレット・パッカード)にて要職を歴任。1999年より現職。

『出典:システム開発ジャーナル Vol.8(2009年1月発刊)
本稿は原稿執筆時点での内容に基づいているため、現在の状況とは異なる場合があります。ご了承ください。

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