「そろそろネタ切れだろうか」と思っていると、そこに新しいネタが投下されるのだから、この分野は面白いというべきか、なんというべきか。ともあれ、英国防省が2026年1月24日に、”Project NYX” について発表した。→連載「航空機の技術とメカニズムの裏側」のこれまでの回はこちらを参照

AH-64Eとペアを組む無人機

英陸軍では、攻撃ヘリコプターとしてWAH-64アパッチを運用しており、これを米陸軍の最新モデル・AH-64Eアパッチ・ガーディアンと同等の仕様にアップグレードする作業を進めている。そのWAH-64とペアを組む無人機を導入しようというのが、Project NYXの趣旨。

攻撃ヘリと無人機を組ませる話は、これが初出ではない。そもそも米陸軍のAH-64Eこそが、いわゆるMUM-T(Manned and Unmanned Teaming)の嚆矢であり、ゼネラル・アトミックス・エアロノーティカル・システムズ(GA-ASI)製のMQ-1Cとペアを組む。

  • 米陸軍のAH-64Eアパッチ・ガーディアン。ローター・ヘッドの上に載っているのがロングボウ・レーダー Photo : US Army

    米陸軍のAH-64Eアパッチ・ガーディアン。ローター・ヘッドの上に載っているのがロングボウ・レーダー Photo : US Army

  • それとペアを組むのが、このMQ-1Cグレイ・イーグル Photo : US Army

    それとペアを組むのが、このMQ-1Cグレイ・イーグル Photo : US Army

また、レオナルドがイタリア陸軍向けに開発している新形攻撃ヘリAW249フェニーチェでも、無人機との連携がうたわれている。ただ、どんな無人機と組ませるかについては、まだよく分かっていない。

攻撃ヘリと無人機を組ませる理由

そもそもどうして、攻撃ヘリに無人機を組ませる話が出てきたのか。

攻撃ヘリというと、戦車をはじめとする地上軍の天敵というのが一般的な見方と思われる。それは確かにそうだが、どんな武器体系でも永遠に無敵でいられないのは業界の常。この分野でも、防空システムの能力向上によって攻撃ヘリの立場が脅かされてきている。

昔は、攻撃ヘリにとっての脅威といえば個人携行用のそれをはじめとする短射程の地対空ミサイルか、あるいは対空機関砲といったあたりが通り相場だった。だから、それらの射程より遠い場所から長射程の対戦車ミサイルを発射して交戦すれば、アウトレンジできる。

さらに、地形や植生の背後に隠れて飛行する、いわゆるNOE(Nap-of-the-earth)によって見つからないようにすることで生存性を高める。と、そんな考え方である。

ただ、飛んでいるときに地形や植生の背後に隠れるのはいいとしても、交戦するときには敵を目玉あるいはレーダーなどのセンサーで捕捉しなければならない。こちらから敵が見えるということは、敵からもこちらが見えるということである。

だからなるべく自身の姿をさらさずに済ませようとして、ローター・ヘッドの上にマストを立ててセンサーを載せるようなこともするわけだが、それとて何かを晒すことに変わりはない。かといって、高度を上げたり物陰から出たりすれば丸見えである。

そこで、自身は長射程のミサイルを搭載して遠方に引っ込んでおいて、身代わり兼目玉として無人機を前方に進出させよう。と、それが攻撃ヘリにおけるMUM-Tの基本的な考え方となる。

Project NYXではどんな機体を想定しているか

Project NYXでは、メーカー7社(アンドゥリル、BAEシステムズ、レオナルド、ロッキード・マーティンUK、Syos、Tekever、タレス)の7社にお呼びがかかり、初期段階の作業を進める。そして2026年3月に候補メーカー4社を選定して、実証機の製作に駒を進める。2030年に初度運用能力(IOC : Initial Operational Capability)を達成する計画だとしている。

用途は、偵察・監視、攻撃・目標捕捉、電子戦などを挙げており、攻撃任務を担当するとの報道も出ている。ただ、機体のイメージ映像はリリースされていないようで、どんな機体になるのかはよく分からない。

米陸軍でAH-64Eとペアを組むMQ-1Cグレイ・イーグルは、米空軍向けのMQ-1プレデターから派生した機体であり、滑走路から離着陸する。つまり、これを運用するためには整備された飛行場が要るということである。ヘリコプターは開けた場所があれば運用できる可能性があるが、ペアを組む無人機が滑走路を必要とするのでは、運用上の制約になる。

そこでアンドゥリルのプレスリリースを見ると、同社がリード・システム・インテグレーターとなり、機体の製造でGKNエアロスペースが参画、さらにArcherのeVTOL専門知識を利用する、としている。

eVTOLの話が出てくるとなると、Project NYXでは無人機を回転翼機にする可能性が高いと読める。なぜなら、eVTOLという言葉は一般的に、いわゆる空飛ぶクルマを指して使われるものであり、これは電動式のマルチコプターだからだ。

ともあれ、担当メーカーの絞り込みが行われるころには、また新たな動きや情報が出てくるものと期待して、現時点ではここまでの話にしておきたい。

AIによる自律制御は当然のお約束

ところで。英国防省ではProject NYXについて、“command rather than control”の原則に則って運用すると説明している。つまり、ペアを組むWAH-64の搭乗員が無人機を事細かに制御(control)するのではなく、無人機に対して指示(command)を下した後は自律的に任務を遂行させるのだと読める。

この辺は、ジェット戦闘機とペアを組む無人戦闘用機(CCA : Collaborative Combat Aircraft)と同じ考え方だ。それの具体的な話については、第514回~515回で書いた。

こういう話を実現しようとすれば、機体側に人工知能(AI : Artificial Intelligence)エージェントを搭載して、パイロットが持つ知見・知識・経験を活かした自律制御を行わなければならない。そのAIエージェントの話を、次回に取り上げることとしたい。

著者プロフィール

井上孝司


鉄道・航空といった各種交通機関や軍事分野で、技術分野を中心とする著述活動を展開中のテクニカルライター。
マイクロソフト株式会社を経て1999年春に独立。『戦うコンピュータ(V)3』(潮書房光人社)のように情報通信技術を切口にする展開に加えて、さまざまな分野の記事を手掛ける。マイナ4ビニュースに加えて『軍事研究』『丸』『Jwings』『航空ファン』『世界の艦船』『新幹線EX』などにも寄稿している。このほど、姉妹連載「軍事とIT」の単行本第6弾『軍用通信 (わかりやすい防衛テクノロジー)』が刊行された。