米空軍では、F-22Aラプターの後継となる次世代戦闘機システム、NGAD(Next Generation Air Dominance)の計画を有している。ただ、具体的な姿が明らかになるところまでは進んでいない。2022年半ばに、当時のフランク・ケンドール(Frank Kendall )米空軍長官が、NGAD計画がEMD(Engineering and Manufacturing Development)フェーズに移行したと発言したが、その後の動向はあまり公になっていない。→連載「航空機の技術とメカニズムの裏側」のこれまでの回はこちらを参照。
NGAD向けエンジンを開発するNGAP計画
そのNGAD計画向けに新しいエンジンを開発する、NGAP(Next Generation Adaptive Propulsion)という計画がある。2025年1月に、GEエアロスペースとプラット&ホイットニー(P&W)の2社に対して、プロトタイプ・フェーズを対象とする技術熟成・リスク低減を進めるための契約を発注したことが確認されている。ちなみに契約額は、それぞれ35億ドルずつ。
現在、両社とも詳細設計審査(DDR : Detailed Design Review)を完了するところまで作業が進んでいる。GEエアロスペースでは、DDR完了に関するプレスリリースの中で、「この後は、調達・組立・試験のフェーズに移行する」と説明している。
GEエアロスペースのNGAP向けエンジンは、XA102という。一方、P&WのNGAP向けエンジンはXA103という。
可変サイクルエンジンに取り組んできたGE
そのXA102エンジンに適用する技術の一つとして、GEエアロスペースが長く取り組んできた技術である、可変サイクル・エンジンが挙げられる。
一般的なジェットエンジンは、圧縮した空気に燃料を吹き込んで燃焼させることで発生させた排気ガスを噴射して、推力の源としている。いわゆるターボジェットエンジンである。それに対して、最前列に設けたファンからの空気流をそのまま後方に流して推力の源とする、ターボファン・エンジンもある。
ターボファン・エンジンでは、ファンの空気流と、圧縮機・燃焼室・タービンを経由するコア部分の排気ガスの両方で推力を発生する。その両者の比率をバイパス比というのは御存じの通り。戦闘機用のターボファン・エンジンはパワー重視でバイパス比が低いが、旅客機用のターボファン・エンジンは低燃費重視でバイパス比が高い。
そのバイパス比は普通、固定された数字が示されている。ところが、GEエアロスペースが取り組んできた可変サイクル・エンジンでは、この両者の比率を可変式としている。
つまり、燃費を良くしたい一方で最大推力までは求められない巡航中には、バイパス比を大きくする。パワーが欲しい離陸時や空戦機動では、バイパス比を下げる。
それを実現するには、コア部分の圧縮機中途で流路を二手に分ける。その分岐部には、バイパス用のバルブ、あるいはなにかしらの開閉可能機構を設ける必要がある。バイパス比を高めたいときにはファン側の流路に空気を流し、バイパス比を低くしたいときにはコア側の流路に空気を流すためである。
この可変サイクル・エンジンの実例として、GEエアクラフト・エンジンズ(当時)がATF(Advanced Tactical Fighter)エンジン向けに開発したYF120エンジンが知られている。ATF計画から生み出されたのがF-22Aだが、このときにはP&Wが提案したF119エンジンが採用された。
そのYF120をベースとするエンジンを、次のJSF(Joint Strike Fighter)計画にも提案したが、これまたP&WのF135エンジン(F119がベース)が採用された。御存じ、F-35のパワープラントである。
米軍における可変サイクル・エンジン開発計画の流れ
しかし、用兵側もメーカーも、可変サイクルという技術には魅力を感じる部分があったのだろう。米空軍は2000年代の後半にADVENT(Adaptive Versatile Engine Technology)という計画を走らせて、GEエヴィエーション(当時)、P&W、ロールス・ロイスに研究開発を行わせた。
このADVENT計画に関連してGEエヴィエーションが出したリリースでは、「ターボジェットとターボファンを行ったり来たりして広範な飛行領域で効率を改善、燃費を30~80%アップ、シグネチャ低減、推力重量比を向上、といったゴールを実現するのが目的」と説明していた。
そのADVENT計画に続いて、2012年にAETD(Adaptive Engine Technology Development)計画、2016年にAETP(Adaptive Engine Transition Program)計画が続く。
そのAETP計画向けにGEエヴィエーションが開発したエンジンはXA100という。同社ではXA100エンジンについて「燃料消費を25%削減、航続性能を30%改善する」と説明していた。ちなみにF-35に搭載できる設計になっているそうで、そうすると少なくとも寸法・外形・重量はF135エンジンに合わせる必要があろう。
そして、そのAETPの成果を次世代戦闘機に活用しようということで、冒頭で取り上げたNGAP計画に話がつながるわけである。これから現物を作る段階だから、性能がどうとか搭載機がどうとかいう話をするのは時期尚早だが、今後の動向に注目したいプログラムの一つとはいえる。
果たして、三度目の正直で可変サイクル・エンジンを載せた戦闘機が出現することになるのだろうか?
著者プロフィール
井上孝司
鉄道・航空といった各種交通機関や軍事分野で、技術分野を中心とする著述活動を展開中のテクニカルライター。
マイクロソフト株式会社を経て1999年春に独立。『戦うコンピュータ(V)3』(潮書房光人社)のように情報通信技術を切口にする展開に加えて、さまざまな分野の記事を手掛ける。マイナビニュースに加えて『軍事研究』『丸』『Jwings』『航空ファン』『世界の艦船』『新幹線EX』などにも寄稿している。このほど、本連載「軍事とIT」の単行本第5弾『軍用センサー EO/IRセンサーとソナー (わかりやすい防衛テクノロジー) 』が刊行された。