以前から、航空分野の展示会では積層造形(Additive Manufacturing)に関する出展があり、これは日本の「国際航空宇宙展」も同様。当初は加工がしやすい光硬化性樹脂を用いるところから始まったが、その後、金属素材も加工の対象に加わった。→連載「航空機の技術とメカニズムの裏側」のこれまでの回はこちらを参照

  • JFEエンジニアリングと東レ・プレシジョンは共同出展を実施 撮影:井上孝司

JFEエンジニアリングと東レ・プレシジョンが共同展示を実施

積層造形に関する展示の話は、本連載でも第348回などで取り上げたことがあったと記憶している。今回の「国際航空宇宙展2024」(JA2024)で目にとまったのは、JFEエンジニアリングと東レ・プレシジョンによる共同展示だった。

航空機向けの部品を積層造形で作りましょうという話だから、素材は金属が中心になる。しかも今では、(積層造形でなくても加工が簡単ではない)耐熱合金素材まで対象に加わっているのだから、技術の進歩というのはすごい。

ちなみに、JFEエンジニアリングと東レ・プレシジョンが組んだのは、相互補完関係の構築が狙いであるという。この件に関するリリースが出たのは2022年のこと。両社はそれぞれ異なる方式を用いており、対象となる製品分野にも違いがある。そこが相互補完をうたう所以であるようだ。

DED方式とパウダーベット方式

JFEエンジニアリングが用いるのはDED(Directed Energy Deposition)方式。別名をデポジション方式という。まず金属粉末を噴射したり、金属ワイヤーを配置したりしてベースとなる形を作り、そこにレーザーを照射して溶融・凝固させる。それを繰り返すことで積層造形を実現する。

この方式は造形速度が速く、大形の製品を製造する際に向くとされる。また、既存製品の補修にも使えるほか、異なる種類の金属を接合することもできる。

一方、東レ・プレシジョンが用いるパウダーベッド方式(PBF : Power Bed Fusion)は、金属粉末を敷き詰めたところにレーザーや電子ビームを照射して、必要な部分を溶かし固める手法。レーザーや電子ビームが当たったところだけが溶融・凝固によって成型される。粉末床溶融結合法ともいう。

この方式は、小~中サイズで、複雑な形状・微細な形状を持つ製品を高い精度で造形できるとされる。ただ、造形にかかる時間は長くなるという。

それぞれ得意とする分野や特長に違いがあるので、両者を組み合わせることで幅広いニーズに対応できますよ、という話になるのだろう。

もちろん、積層造形だけで完結させるとは限らず、積層造形で作った部品に仕上げ加工を施して最終完成品にすることもある。調べてみると、DED方式では表面が粗くなる傾向があるのだそうで、これは用途によっては具合が悪い。それに、図面通りの精度に仕上げるために仕上げ加工が必要ということもあるだろう。

  • 中央を境に、左側は仕上げ加工を施していない状態、右側は仕上げ加工を施した状態 撮影:井上孝司

積層造形の強み

以前にも書いたかと思うが、積層造形の強みは「複雑な形状を持つ部品の製造に強い」「一品モノに強い」にある。もちろん、一品モノに強い利点は、開発の段階で迅速にプロトタイプを製作するために活用できる。

鋳造と違って、「型をどういう風に形作って、どういう風に抜けばよいか」と考える手間は軽減される。また、加工に使用する機械は汎用性があり、そこに与えるデータを変えればさまざまな形状の加工ができる。すると、一品モノのためにいちいち鋳型を作るような手間がかからない。

ロールス・ロイスで、科学技術研究部門のディレクターを務めているAlan Newby氏にお話を伺ったとき、実は積層造形の活用についても訊ねてみた。

ロールス・ロイスでも積層造形についてはいろいろ試していて、例えばトレントXWB97エンジンの開発に際して、積層造形で作った部品も組み込んでいるという。

  • エアバスA350-1000のトレントXWB97エンジンには、積層造形で作られた部品も組み込まれているという 撮影:井上孝司

また、耐熱性が高い合金素材の加工が可能になったことで、Pearlエンジンの燃焼器の中に組み込むタイルを鋳造品から積層造形品に替えた事例があるとのこと。

ただし、「製造方法を変えるだけでは価値は薄く、機能を組み合わせて新しい部品を作る過程で積層造形を使うのがポイントである」と話していたのが印象的だった。

なにも積層造形に限ったことではないが、それを使うこと自体が目的になってしまっては駄目で、それによって新たな価値、新たな問題解決を生み出せるかどうか、なのである。

それに、積層造形にメリットがあるからといって、積層造形「だけ」ですべて解決しようとするのも筋違いな話。積層造形のメリットが活きる場面では、可能であればどんどん使えばいいし、鋳造や鍛造や切削加工の方が良いのであれば、そちらを使えば良いのである。

著者プロフィール

井上孝司


鉄道・航空といった各種交通機関や軍事分野で、技術分野を中心とする著述活動を展開中のテクニカルライター。
マイクロソフト株式会社を経て1999年春に独立。『戦うコンピュータ(V)3』(潮書房光人社)のように情報通信技術を切口にする展開に加えて、さまざまな分野の記事を手掛ける。マイナビニュースに加えて『軍事研究』『丸』『Jwings』『航空ファン』『世界の艦船』『新幹線EX』などにも寄稿している。このほど、本連載「軍事とIT」の単行本第5弾『軍用センサー EO/IRセンサーとソナー (わかりやすい防衛テクノロジー) 』が刊行された。