今回は趣向を変えて、「国際航空宇宙展2024(JA2024)の会場で、こんなものを見つけました」という話を。どうしても大手の機体メーカーなどに注目が集まりがちだが、どうしてどうして、細かく見ていくといろいろあるものだ。→連載「航空機の技術とメカニズムの裏側」のこれまでの回はこちらを参照

サンゴバンのシール材

サンゴバンといっても御存じない方が多いかもしれないが、実は身近なところに同社の製品が使われている。500系新幹線電車の運転台前面窓ガラスや、宇都宮ライトレールのHU300形の側面窓ガラスがサンゴバンの製品だ。

ただし、同社がJA2024で出展していたのは、窓ガラスではなくて各種のシール材。分かりやすいところだと、H3ロケットの液体水素タンクや液体酸素タンクで、中身が漏れ出さないようにするシール材が、サンゴバンの製品だそうだ。

  • サンゴバンは窓ガラスの会社かと思ったら、それだけではなかった。各種のシール材を出展していたが、やはりH3ロケットで使われている製品が目を引く 撮影:井上孝司

スナップオンの工具箱

スナップオンといえば工具メーカーとしておなじみ。ことに航空機の分野では、使用する工具についても高い品質が求められており、そこで同社の製品が多く使われる状況になっている。

例えば、海上自衛隊の護衛艦を訪れると、ヘリコプター格納庫にはスナップオンの工具箱(なぜかみんな赤い)が置かれている。これはヘリコプターの整備に使用する工具を収容するためのもの。メーカー指定の工具がスナップオンなのだ。

その工具箱は、ただ単に雑然と工具を放り込んであるわけではない。ある護衛艦の乗艦取材で実際に見せていただいたが、工具ごとの形に合わせた窪みが設けられていて、みんな「定位置」が決まっている。だから、工具箱の引き出しを開けて全体を一瞥すれば、戻し忘れがないかどうかは一目で分かる。

その確認プロセスを自動化した工具箱を、スナップオンがJA2024に出展していた。工具箱に収めた工具の有無を画像解析によって把握するのだという。しかも工具箱の開閉にはICカードキーを使う。すると、「いつ、誰が、どの工具を出したか/戻したか」が、すべて自動的に記録される。

  • 何か1つ取り出すと…… 撮影:井上孝司

  • 「引き出し1」において「取り出されている1」となる 撮影:井上孝司

工具にRFIDを付ける方法でも同じことは可能だが、そうすると、壊れたり傷んだりした工具を交換したときに、いちいちRFIDを付けて、その情報を登録する手間がかかる。画像認識ならそんな手間はかからない。

このほか、トルクレンチの検査装置も出展していた。「指定されたトルクで締める」のがトルクレンチの仕事だが、そうすると締め付けトルクが能書き通りの数字になっていなければ具合が悪い。それを確認するための装置である。検査装置で確認することで、トルクレンチの信頼性も維持される。

余談だが、F-35で使う工具セットもスナップオン製である。F-35で使用する工具は1,410種類でワンセットだそうだが、それが1,360セットで888万ドル、との契約情報をしばらく前に見かけた。単純に割り算すると、ワンセットで約6,500ドル。この数字を見て「案外と安いな」と思ったのは、いささか感覚が麻痺しているのかもしれない。

MILDEFの頑丈ノートPCとUAV管制セット

野外の厳しい運用環境に強いノートPCというと、パナソニックの「タフブック」が有名だが、それだけではない。例えば、スウェーデンのMILDEFという会社も、同様の製品を手掛けている。

そのMILDEF製の頑丈ノートPCやタブレットなどを出展していたのが、株式会社ナセル。普通の市販品と異なり、(2020年代のノートPCだというのに!)RS-232Cのコネクタまで備えているが、これはそういう需要があることの証左である。

もちろん、ノートPCはキーボード操作が可能だが、タブレットはタッチスクリーン操作となる。さらに、そのタブレットを組み込んで「UAVのコントローラ」に変身させる仕掛けも展示していた。

  • MILDEF製のノートPC。コネクタはすべて、シーリング用のキャップが付いている 撮影:井上孝司

  • こちらは、タブレットをUAVコントローラのフレームに組み込んだ状態。これを両手で持つと、ちょうど親指でジョイスティックを操作できる 撮影:井上孝司

UAVの遠隔操作では、機体そのものの操作に加えて、UAVが備えるセンサー機器などの遠隔操作も必要になる。そこで、「ロ」の字型のフレームの左右にジョイスティックなどを設置して、中央部の空きスペースにタブレットを嵌め込んでコネクタを接続する。あとは所要のソフトウェアをインストールして走らせれば、携行しやすいUAVコントローラの出来上がり。

ノートPCやタブレットPCに外付けする形でジョイスティックなどを接続してもいいが、そうするとケーブルがブラブラして取り扱いが面倒になる。1つのフレームの中にすべての機能がまとまっている方が携行性がいいし、ケーブルが抜ける等のトラブルも起こりにくい。よく考えられている。

ことに、小型で安価な無人機の分野では、いちいち専用の地上管制ステーション(GCS : Ground Control Station)を開発していたのでは割に合わない。だから市販品のノートPCをGCSに仕立てるのが一般的。求められる基本的な機能に大差はないし、機種やセンサーの違いはソフトウェアで吸収する。そういう状況をうまく利用する製品といえる。

著者プロフィール

井上孝司


鉄道・航空といった各種交通機関や軍事分野で、技術分野を中心とする著述活動を展開中のテクニカルライター。
マイクロソフト株式会社を経て1999年春に独立。『戦うコンピュータ(V)3』(潮書房光人社)のように情報通信技術を切口にする展開に加えて、さまざまな分野の記事を手掛ける。マイナビニュースに加えて『軍事研究』『丸』『Jwings』『航空ファン』『世界の艦船』『新幹線EX』などにも寄稿している。このほど、本連載「軍事とIT」の単行本第5弾『軍用センサー EO/IRセンサーとソナー (わかりやすい防衛テクノロジー) 』が刊行された。