9月20日にイギリスのバーミンガム空港で、英空軍向けの新しいAEW&C(Airborne Early Warning and Control )機、E-7ウェッジテイルAEW.1の初号機(WT001)が機能確認飛行(FCF : Functional Check Flight) を実施した。ボーイング737-700をベースとする早期警戒機である。→連載「航空機の技術とメカニズムの裏側」のこれまでの回はこちらを参照。
無塗装の状態でFCFを実施
と、それだけなら本連載で取り上げようとは思わなかったのだが、FCFが無塗装の状態で行われたので考えが変わった。
これに限らず、民間機に所要のミッション機材を搭載して軍用機に転用する場合、まずスッピンの状態の民間機として製作することが多い。これをグリーン・エアクラフトと呼ぶ。それを後から改造して、機材の搭載や機体構造の改修を実施するわけだ。
生産ライン上で手を加えてしまう方が合理的に思えるが、少数の軍用派生型のために生産ラインの工程を変えるよりは、ひとまず民間機と同じように完成させておく方が合理的ということであろうか。
英空軍向けE-7の場合、ベースとなる737-700はもちろんボーイングで製造しているが、改造作業はイギリスでSTSエヴィエーション・サービスという会社が実施した。
これはおそらく、イギリスの企業にもいくらかの仕事の分け前を回すためである。もちろん、それができる企業が国内にあるから実現できることだ。その結果として、改修実施後のFCFもイギリス国内のバーミンガムで実施することになった。
余談だが、バーミンガムという街はアメリカのアラバマ州にもある。
機体構造にも手が入る
以前にも書いたことがあったと思うが、既存の民間機を改造してミッション機材を追加搭載する場合、センサー機器が外部に突出すると重量配分や空力面の影響を受ける。
そのため、空力付加物がゴテゴテと突出するのがお約束みたいになっている。E-7も例外ではない。胴体後部下面にベントラルフィンが加わっているのが、民間型737にはない特徴。
ウェッジテイルの現物は2019年にオーストラリアで見たことがあったが、そちらは実働部隊に配備された実戦用の機体だから、もちろん、ちゃんと塗装されている。ところが今回の英空軍向けウェッジテイルAEW.1は無塗装の状態でFCFを実施したので、外板の構造・材料の違いが一目瞭然。
ウェッジテイルはノースロップ・グラマン製のMESA(Multi-role Electronically Scanned Array)レーダーを背中に背負っている。胴体背面に搭載するアンテナ・アセンブリは、全長10.8m、高さ3.4m、重量は3.5tとされる。その直下の胴体内部にレーダー機器室があり、電子機器が納まっている。
旅客型の737-700にはない「お荷物」を背中に背負うので、当然ながら機体構造には手が入っている。実際、FCFを実施したときの写真を見ると、主翼と垂直尾翼の間、MESAレーダーが載っている部分だけ、胴体外板の色が違っている。
もちろん、民間型737では後部胴体だけ外板の色が違うなんてことはない。ウェッジテイルでは荷重負荷の増加に対応して、外板を変えたり機体構造に手を入れたりしたのだと分かる。この部分だけ窓がないことも、外板を交換したことの傍証となる。
その色違いの部分を除いて、側窓がみんな埋められている。これは軍用派生型にはよくあること。そもそも、ウェッジテイルの機内レイアウトは窓から外を眺められるようになっていない。主翼より前方のキャビンでは、左右の外側に向けて管制員のためのコンソールが並べられているからだ。
なお、MESAレーダーが胴体と接する部分やベントラルフィン取付部の周囲も色違いになっているが、この辺も補強が施されているのかもしれない。
その他の相違点いろいろ
エンジンナセルの左側にある膨らみは、電力消費の増加を受けて大型化された発電機の関係。ウェッジテイルに限らず早期警戒機の類はみんな、遠距離捜索が可能な大型レーダーをはじめとする多数の電気製品を載せるため、発電機を増強するのが通例となっている。
よく分からないのは、前部胴体下方にある色違いの部分。貨物室扉ではない。737の貨物室扉は右舷側に付いているからだ。旅客機ではないから、床下貨物室に貨物を搭載する必然性は皆無。むしろ、貨物室のスペースが機器室に転用されている可能性が高いと考えられる。
その関係で機体構造に手が入り、異なる材質のパネルを当てたものと思われる。豪空軍のウェッジテイルを見ると、この部位では左右の両方に独立したパネルが加わり、かつ、少し突出している。英空軍のウェッジテイルも同じであろう。
機内への出入りは左舷前方のL1ドアを使用するが、その扉の下に組み込み式のタラップがあるのも民間型との相違点。空港で沖止めになったときに使われるような自走式タラップが、常にあるとは限らないからだ。なお、反対側のR1ドアには組み込み式タラップはないようだ。
ESM(Electronic Support Measures)や通信など、さまざまなアンテナが機体の各所に取り付いているが、これは早期警戒機のお約束。なにもウェッジテイルに限った話ではない。
著者プロフィール
井上孝司
鉄道・航空といった各種交通機関や軍事分野で、技術分野を中心とする著述活動を展開中のテクニカルライター。
マイクロソフト株式会社を経て1999年春に独立。『戦うコンピュータ(V)3』(潮書房光人社)のように情報通信技術を切口にする展開に加えて、さまざまな分野の記事を手掛ける。マイナビニュースに加えて『軍事研究』『丸』『Jwings』『航空ファン』『世界の艦船』『新幹線EX』などにも寄稿している。このほど、姉妹連載「軍事とIT」の単行本第3弾『無人兵器』が刊行された。