2024年8月22日に、イタリア海軍の空母「カヴール」が海上自衛隊横須賀基地に来航した(出航は27日)。搭載機はAV-8BハリアーIIとF-35BライトニングIIで、この両方を飛行甲板に並べた状態で入港した。横須賀基地に行ってきたので、今回はこのカヴールについてお届けしよう。→連載「航空機の技術とメカニズムの裏側」のこれまでの回はこちらを参照

  • これが「カヴール」。当節の軍艦にしては舷側の構造が複雑で、凸凹しているのが目立つ 撮影:井上孝司

「いずも」型と同等規模だがスキージャンプ付き

「カヴール」の全長は236.5m、満載排水量は27,100t。実は、我が国の「いずも」型護衛艦と、ほぼ同等規模である。

大きく異なるのは、「いずも」型はF-35B搭載のための改修を実施した後も滑走発艦用のスキージャンプを持たないのに対して、「カヴール」はイギリス海軍の空母「クイーン・エリザベス」と同様にスキージャンプを持つこと。

  • こちらは「いずも」。艦の規模は「カヴール」と似たり寄ったりだが、スキージャンプは持たず、設置の予定もない 撮影:井上孝司

「カヴール」の艦首を横から見ると、スキージャンプが(目測で概算して)50メートル以上の長さを持っている様子がわかる。そのスペースを何に割り当てるか、という優先順位判断の問題となる。

第258回でも書いたように、スキージャンプを設置すると、そのスペースはスキージャンプに専有されてしまう。スキージャンプがなければ飛行甲板は端から端までフラットになるから、その分だけヘリコプターの発着スポットを多く設置できるし、フライト・オペレーションがないときの駐機スペースも広くできる。

一方、スキージャンプを設置すると発艦のアシストになるので、最大離陸重量をいくらか増やす効果を期待できる。その辺のメリットとデメリットを天秤にかけて、イタリア海軍の「カヴール」やイギリス海軍の「クイーン・エリザベス」は、スキージャンプを設置することにしたわけだ。

もちろん、飛行甲板のうち垂直着艦で使用するエリアについては、耐熱コーティング処理も実施している。

  • 「カヴール」の艦首を側方から。スキージャンプがけっこうなスペースをとっている様子が分かる 撮影:井上孝司

甲板だけではフライト・オペレーションはできない

ただ、飛行甲板と(それが必要だと判断すれば)スキージャンプを設置するだけで、F-35Bのフライト・オペレーションが可能になるわけではない。整備のための施設や機材、搭乗員のための待機室など、といった具合に、さまざまな施設が必要になるのは当然のことだ。

  • 飛行甲板の左舷側では、艦首寄りにAV-8B、艦尾寄りにF-35Bを並べていた 撮影:井上孝司

また、昼夜、天候を問わずにフライト・オペレーションを実施するためには、相応の支援設備が要る。つまり、航空管制レーダーや着艦進入支援装置の類である。では「カヴール」にはどんな備えがあるか。

「カヴール」はF-35Bを運用するから、他国のF-35B搭載艦と同じような陣容の機材を搭載することになる。具体的に挙げると、こうなる。

  • 進入誘導灯
  • AN/SPN-41 ICLS(Instrument Carrier Landing System)
  • AN/USN-3 JPALS(Joint Precision and Approach Landing System)

AN/SPN-41は、上下方向の進入角測定用アンテナと、左右方向の角度測定用アンテナが分かれていて、別個に設置する。後者は当然ながら、着艦レーンの真後ろに設置しなければならない。

  • 「カヴール」を艦尾方向から 撮影:井上孝司

上の写真で、飛行甲板直下の左寄りにある四角い箱が、AN/SPN-41のうち左右方向の進入角をみるもので、上下方向の進入角を見るレーダーはアイランドの後端、写真ではF-35Bの尾翼の直上にある。

一方、右上の隅、アイランドの屋上に据えられている十字型の物体が、進入誘導灯。海上自衛隊の「かが」も、同じものを載せている。同じF-35Bを運用する艦だから、日・英・伊の艦は同じ進入誘導機材を載せている。わざわざ違うものを使う必然性はない。

「いずも」型も、F-35B対応改修に際して、艦尾に向けてAN/SPN-41と進入誘導灯を設置する。してみると、両クラスとも艦尾方向からの進入も考慮に入れているということになろうか。

ただし英空母と違い、低速で滑走着艦するSRVL(Shipborne Rolling Vertical Landing)をやるとの話は聞かないから、SRVLの誘導に使用するベッドフォード・アレイ光学誘導装置は載せていない。

JPALSの所在は謎

JPALSは第117回でも書いたように、艦と機体の間でGPS(Global Positioning System)の三次元測位データを照合することで、正しい進入経路に乗っているかどうかを把握する。

だから、JPALSのアンテナは、進入する機体との間でデータをやりとりする「通信用」であり、進入誘導レーダーみたいな形状にする必然性はない。ただ、そのJPALSが使用するアンテナの外観に関する情報は乏しく、所在の確認もできていない。

アイランドの艦尾側を見ると、AN/SPN-41の上に、後方向きのレドームを備えた装置がある。しかし、これは竣工直後の写真でも存在を確認できるので、2020年代に入ってから後付けしたJPALSとは関係なさそうだ。それに、後方に向けて強い指向性を持たせたアンテナでは、他の方向から進入するときに具合がよろしくない。

  • 後方から進入する機体に対する排煙の影響を抑制しようと考えたのか、煙突は外舷側に傾斜させている 撮影:井上孝司

著者プロフィール

井上孝司


鉄道・航空といった各種交通機関や軍事分野で、技術分野を中心とする著述活動を展開中のテクニカルライター。
マイクロソフト株式会社を経て1999年春に独立。『戦うコンピュータ(V)3』(潮書房光人社)のように情報通信技術を切口にする展開に加えて、さまざまな分野の記事を手掛ける。マイナビニュースに加えて『軍事研究』『丸』『Jwings』『航空ファン』『世界の艦船』『新幹線EX』などにも寄稿している。このほど、本連載「軍事とIT」の単行本第4弾『軍用レーダー(わかりやすい防衛テクノロジー)』が刊行された。