ここまで取り上げてきた、航空機における各種センサーの設置形態は、「機体外部にセンサーを突出させて、それを何かでカバーする」形だった。ただし、モノによってはセンサー本体を機体内部に収容して、平面の窓を設ける形もある。F-35のAN/AAQ-37 EO-DAS(Electro-Optical Distributed Aperture System)では、機首の両側面に取り付けるセンサーがその形。→連載「航空機の技術とメカニズムの裏側」のこれまでの回はこちらを参照

外板そのものをセンサーにしたら?

それに対して、「機体の外板そのものをセンサーにしたら」という発想もある。ただし、これが通用するのは電波を使用するものだけで、光学センサーの類では事例も取り組みもないようだ。

ロシアのスホーイSu-57戦闘機

例えば、ロシアのスホーイSu-57戦闘機は、機首の両側面と主翼の前縁部にレーダー・アンテナを埋め込んである。機首のレーダーはN036-1-01といい、周波数はXバンド。側面のレーダーはN036B-1-01、主翼前縁のレーダーはN036L-1-01という。後者は周波数が低いLバンドを使用しているとされる。

機首に設置するレーダー・アンテナは、機体の断面によってサイズと形状が制約される。ところが、機首の側面や主翼の前縁に細長いアンテナを組み込む形であれば、より大きなアンテナを実現しやすそうではある。そして、側面向きのアンテナは、機首のアンテナではカバーできない範囲を見ることができる。

日本における「スマート・スキン」開発

我が国でも、機体構造の表面をそのままアンテナにする「スマート・スキン」の研究開発が行われた事例がある。2013年に開かれた「防衛技術シンポジウム」に展示品が登場したので、御覧になった方もいらっしゃることだろう。

  • 「スマート・スキン」の展示品。2013年の「防衛技術シンポジウム」で 撮影:井上孝司

機体の外板そのものを電波兵器のアンテナにする場合、必然的にAESA(Active Electronically Scanned Array)方式になる。つまり、機体の表面に小さなアンテナをたくさん並べて、かつ埋め込む形になるわけだ。

それだけなら艦載フェーズド・アレイ・レーダーを上部構造に組み込むのと似ているが、航空機では空力という制約要因があるので、表面が真っ平らとは限らない。そして、アンテナ・アレイが平面ではなく曲面になると、送信するビームの方向を制御したり、受信した電波の位相差を割り出したりするプロセスが複雑になる。

だから、「防衛技術シンポジウム」に出てきた展示品では「曲面の曲率を調べて、位相差の計算内容を自動的に補正する」との但し書きがつけられていた。ただ、シンプルな二次曲面ならまだしも、複雑な三次曲面になると、相当に面倒な計算になりそうではある。

メリットとデメリット

では、こういう形でアンテナを設置することのメリットとデメリットは何だろう。

外板がアンテナになれば、それは機体の表面と一体化しているわけだから、凸凹を作ることはなくなり、空力的には有利になる。レーダー反射断面積(RCS : Radar Cross Section)を減らす観点からいっても、凸凹を作らないことは有利な要素に見える。

また、先にも記したように、機首に設置するアンテナでは見えない範囲を指向できる、大きなサイズのアンテナを実現できる可能性がある、といった利点も考えられる。

  • F-35Aの機首側面。側面にあるEO-DASのセンサー窓は平滑。一方、EOTSのセンサー窓は下面に突出している 撮影:井上孝司

一方で、外板そのものがアンテナ・アレイになると、それをどのようにして保護するかという課題、それと塗装をどうするかという課題ができそうだ。

まず、保護材にしても塗装にしても、電波の行き来を妨げない素材でなければ具合が良くない。

また、側面ならまだしも前方を向いた場所に設置した場合、バードストライクに耐えられるかどうか、という問題も考えられよう。もちろん、整備を初めとする普段の取り扱いでは、傷をつけたり凹ませたりしないように注意を要する。

あと、外板の一部にアンテナ・アレイを組み込むと、そこだけ外板に穴が空いた状態になる。すると、その状態で所要の強度を持たせる設計が求められるだろうから、構造屋さんの仕事は増えそうだ。しかも、後から開口を大きくするのは不可能か、実現できるとしても内部の補強を要する可能性がある。

あと、故障や損傷が発生して、アンテナ・アレイを構成する送受信モジュールを交換する場面は、当然ながら想定する必要がある。つまり整備性の確保という課題もあろう。個別交換ではなく、全体をゴソッと交換するのも一案だが、それでは経費がかさむ。

こうしたメリットとデメリット、そして開発・製造・維持管理にかかるコストを天秤にかけて、採否を決めることになる。技術的に面白い、実現できたら技術的にすごい、という話と、それが実用品としてどうか、という話は別の問題だ。

著者プロフィール

井上孝司


鉄道・航空といった各種交通機関や軍事分野で、技術分野を中心とする著述活動を展開中のテクニカルライター。
マイクロソフト株式会社を経て1999年春に独立。『戦うコンピュータ(V)3』(潮書房光人社)のように情報通信技術を切口にする展開に加えて、さまざまな分野の記事を手掛ける。マイナビニュースに加えて『軍事研究』『丸』『Jwings』『航空ファン』『世界の艦船』『新幹線EX』などにも寄稿している。このほど、姉妹連載「軍事とIT」の単行本第4弾『軍用レーダー(わかりやすい防衛テクノロジー)』が刊行された。