前回、対潜哨戒用のヘリコプターが曳航式のMAD(Magnetic Anomaly Detector)を使用している、という話を書いた。曳航する話があれば、下に吊るす話もある。さすがにこれは、空中に静止できない固定翼機では実現不可能で、ヘリコプターの専売特許となる。→連載「航空機の技術とメカニズムの裏側」のこれまでの回はこちらを参照

吊るすセンサーとは

ヘリコプターから吊るすセンサーといえば、ディッピング・ソナーである(日本語では吊下ソナーという)。ソノブイは使い捨てだが、ヘリコプターが搭載する吊下ソナーは使い捨てではない。使用するときだけ海中に降ろして、用が済んだら引き上げる。

ソナーの種類としてはアクティブ・ソナーに属する。つまり自ら探信して、その反射波が潜水艦に当たって返ってくるかどうか、聞き耳を立てる。本体は縦長の円筒形で、それを海中に降ろす。モデルによっては、傘の骨みたいな形でトランスデューサー(送受信機)を展開することもある。展開式にするのは、使用しないときはコンパクトに収容できるようにするため。

このソナー本体をケーブルで吊る仕組みになっていて、下ろすときにはケーブルをウインチのリールから繰り出す。ケーブルを巻き取ると逆になる。そのため、胴体下面に開口部があり、そこから吊下ソナーの本体が出てくる。当然、ウインチは機体にガッチリと固定しておかなければならない。

  • 米海軍のMH-60Rが、吊下ソナーを降ろして見せているところ。胴体下面の穴から、ケーブルで吊られたソナーを下ろす仕組み。使わないときはキャビンに収容している 引用:NAVAIR

吊下ソナーは使い捨てではないから、長期的に見ると安上がり。その代わり、ソノブイみたいに多数を並べてバリアーを展開するような使い方はできない。ピンポイント捜索である。

吊下ソナーを降ろすためには床に穴を開ける必要があるので、そこに蓋を設けたとしても気密を保つのは難しそうだ。といっても、どのみちヘリコプターは、気密が問題になるほど高いところまで上昇しない。

回転させて降ろす

早期警戒機の話は第414回で書いたが、そのときに取り上げたのは固定翼機で、レーダーは固定設置するタイプだった。実は、少数派だが、ヘリコプターにレーダーを載せた早期警戒ヘリコプターもある。

ただしヘリコプターの場合、頭上ではローターが回転しているので、上部にレーダーを取り付けるわけにはいかない。早期警戒ヘリコプターはみんな、胴体下面にレーダーのアンテナを設けている。

ところが、ヘリコプターは固定翼機と比べて上昇限度が低い。しかも機内が与圧されていないから、そういう意味でも上昇できる高度が制約される。するとレーダーのアンテナが位置する高度も低くなるので、カバーできる範囲は狭くなってしまう。

イギリス海軍の早期警戒ヘリコプターは、すでに退役したシーキングASaC.7と、その後継として登場したマーリンASaC.3がある。いずれも、レーダーを収めた半球形のレドームを胴体側面に設置するのだが、降ろした状態では下方に大きく張り出してしまうので、着陸ができない。

そこでなんと、そのレドーム一式を回転式にしてしまった。地上あるいは艦上にいるときには後ろ向きにしてあり、離陸してレーダーを作動させる場面では下向きに降ろす。

  • シーキングASaC.7。胴体の右側にレドームを取り付けているが、これは後方に回転させて引き上げた状態。使用するときはこれを下向きに下ろす 撮影:井上孝司

一方、インドや中国で使用しているカモフKa-31は、胴体下面に平らな回転式アンテナを露出させている。使用しないときはアンテナを畳んで寝かせた状態にしており、使用するときはそれを展開して縦向きの状態にする。すると回転させて全周を捜索できる。

ところが、回転させようとすると降着装置にぶつかってしまうので、降着装置を引き上げてアンテナに支障しないようにする手間をかけている。

どちらにしても、ヘリコプターという飛びものについて回る構造・配置上の制約から、固定翼の早期警戒機にはないギミックを加える羽目になっているところが面白い。

マーリンASaC.3のレーダー機器は脱着式

上で言及した3モデルの早期警戒ヘリコプターのうち、変わり種がマーリンASaC.3。

早期警戒ヘリコプターとして機能するためには、レーダーのアンテナと、送受信機やシグナル・プロセッサなどのバックエンド機材、そして情報を表示させるためのコンソール(操作卓)が必要になる。

普通はこうした道具立てを固定設置するものだが、マーリンASaC.3は脱着式にした。対潜哨戒型マーリンHM.2のうち一部の機体が、レーダーと関連機器を載せてASaC.3に化ける仕組みになっている。柔軟な運用が可能にはなるが、レーダー機器の設計は難しくなったのではないだろうか。

なお、マーリンASaC.3の調達計画 “クロウズネスト” に対して提案されたアイデアの中には、胴体の両側面に昇降式フェーズド・アレイ・レーダーを取り付ける案があった。ブツはIAI(Israel Aerospace Industries Ltd.)傘下のエルタ・システムズ製、EL/M-2052だ。

こちらの方が実現しやすそうにも見えるが、アンテナの数が倍になるから、脱着の手間は増えるかも知れない。そこが嫌がられたのだろうか。

著者プロフィール

井上孝司


鉄道・航空といった各種交通機関や軍事分野で、技術分野を中心とする著述活動を展開中のテクニカルライター。
マイクロソフト株式会社を経て1999年春に独立。『戦うコンピュータ(V)3』(潮書房光人社)のように情報通信技術を切口にする展開に加えて、さまざまな分野の記事を手掛ける。マイナビニュースに加えて『軍事研究』『丸』『Jwings』『航空ファン』『世界の艦船』『新幹線EX』などにも寄稿している。このほど、姉妹連載「軍事とIT」の単行本第4弾『軍用レーダー(わかりやすい防衛テクノロジー)』が刊行された。