以前に「ロシアの機体」「中国の機体」は取り上げたことがある。今回は、「過去には東側の国が作った機体だったが、冷戦崩壊後に西側化した機体」という事例を取り上げてみたい。アメリカのエアショーに行くとチョイチョイ目にする機体でもある。→連載「航空機の技術とメカニズムの裏側」のこれまでの回はこちらを参照

  • L-39アルバトロス。この機体(登録記号N139ES)は、オリジナルのAI-25エンジンを積んでいるようだ 撮影:井上孝司

東側のベストセラーとなったジェット練習機

お題は「アエロ・ボドホディL-39」。アエロ・ボドホディと聞いてピンとくる方は相当な「通」だが、チェコの航空機メーカーだ。今の正式社名は「アエロ・ボドホディ・エアロスペース」(Aero Vodochody Aerospace A.S.)という。

そのアエロ・ボドホディが1960年代に開発したジェット練習機が、L-39アルバトロス。エンジンはZMDBイーウチェンコ製のAI-25TLターボファン・エンジンで、単発。高等ジェット練習機の公式通りに、前後に段差をつけたタンデム複座になっているが、段差はどちらかというと控えめだ。

もちろん、冷戦まっただ中に作られた機体だから、主な販路はいわゆる東側諸国となった。開発・製造元のチェコスロバキア(当時)だけでなく、旧ソ連諸国や東欧諸国、さらにはアフリカ諸国などでも大量に導入され、製造数は3,000機あまりに達している。

ところが冷戦崩壊後に、この機体が西側諸国でも見られるようになった。これは、機体規模が手頃で性能も良く、それが冷戦崩壊後に民間向けに払い下げられたため。

例えば、アメリカに民間アクロバットチーム「パトリオッツ・ジェット・チーム」があるが、これはL-39・6機編成のチーム。たまたま展示飛行を見たことがあるが、その展示飛行の内容たるや、米海軍の「ブルーエンジェルズ」にひけをとらないのではないかと思ったぐらいだ。おっと、閑話休題。

  • 「パトリオッツ・ジェット・チーム」のL-39 撮影:井上孝司

西側化した派生型の登場

L-39の基本となるモデルは、練習機型のL-39C(Cvicny=訓練)と、軽攻撃機型のL-39ZO(Zbrojni=兵装)。そのうち後者のL-39ZOについて、冷戦崩壊後に、西側諸国のメーカーが製造するアビオニクスを搭載したL-39ZAというモデルができた。

また、軽攻撃機型の派生モデルとしてL-159ALCA(Advanced Light Combat Aircraft)があるが、これも同様に西側諸国製のアビオニクスなどを積極的に採用している。

例えば、レーダーはレオナルド製のグリフォLであり、データバスも西側標準のMIL-STD-1553B。エンジンはアメリカのハネウェル製F124-GA-100に変更しているが、これはレオナルドM-346マスター練習機が装備するエンジンと同系列のもの。

元祖モデルのL-39についても、改良型のL-39NGが登場している。こちらのエンジンはウィリアムズ・インターナショナル製FJ44-4Mで、コックピットの多機能ディスプレイ(MFD : Multi Function Display)はジェネシス・エアロシステムズ製、HUD(Head Up Display)は自国メーカーのSPEEL Praha製。

このL-39NGは2018年に初号機が完成、ベトナムやハンガリーからの受注が決まっている。

  • 米軍から仮想敵業務を請け負っている「ドラケン・インターナショナル」という会社のL-159。社名と裏腹に、サーブ35ドラケンは飛ばしていない

売り手と買い手、それぞれの事情

買い手の側にしてみれば、なじみ深い西側メーカー製の機器を使用している方が、性能の面でも供給の面でも不安がない。それに、製造元のチェコが冷戦崩壊後にNATO加盟国となっているわけで、いってみれば製造元自体が西側化している。すると、搭載機器のサプライチェーンを再構築して西側化するのは必然であったといえよう。

また、買い手が軍、あるいは軍の請負業者であれば、すでにNATO諸国の軍事組織で使用している装備との相互運用性が問題になる。特に、通信機や、それと併用する暗号化機材、敵味方識別装置(IFF : Identify Friend or Foe)といった分野は、そうした傾向が強い。旧ソ連軍規格の通信機やIFFでは使えないのだ(使えてしまったら、それはそれで大事件だが)。

そして、搭載するエンジンや電子機器を切り替えるとなれば、機体メーカーはサプライチェーン網を再構築する必要に迫られる。新規の取引先として取引を成立させなければならないから、いろいろと越えなければならないハードルはあっただろうが、それをやらないと話が先に進まない。

そして、機体メーカーとサプライヤーのいずれにとっても、新規開発案件よりも既存製品の方が具合が良い。コストやリスクを考えた場合、必然的にそうなる。L-159のエンジンがM-346と同系列の製品なのは、その一例。L-159のために、わざわざ新型エンジンを起こすような真似はしなかったわけだ。

ことにアビオニクスやエンジンを手掛けるメーカーの場合、特定機種でしか使えない製品よりも、さまざまな機種に対応できる製品を用意する方が販路が広がるから好ましい。そういうことも考えながら製品開発をしなければならないわけだ。

著者プロフィール

井上孝司


鉄道・航空といった各種交通機関や軍事分野で、技術分野を中心とする著述活動を展開中のテクニカルライター。
マイクロソフト株式会社を経て1999年春に独立。『戦うコンピュータ(V)3』(潮書房光人社)のように情報通信技術を切口にする展開に加えて、さまざまな分野の記事を手掛ける。マイナビニュースに加えて『軍事研究』『丸』『Jwings』『航空ファン』『世界の艦船』『新幹線EX』などにも寄稿している。