宇宙航空研究開発機構(JAXA)と三菱重工業(MHI)は10月26日、H3ロケット7号機の打ち上げ結果に関する記者会見を開催した。ロケットは正常に飛行し、打ち上げの約14分4秒後に新型宇宙ステーション補給機1号機(HTV-X1)を分離、軌道に投入した。H3の打ち上げ成功は5機連続(失敗は初号機のみ)。これで成功率は約83.3%まで向上した。
JAXAの伊藤徳政HTV-Xプロジェクトマネージャによると、HTV-X1は分離後すぐに通信を確立。そして太陽電池パドルの展開、姿勢の確立にも成功しており、「現在、安定して飛行を続けている」との報告があった。この後10月30日に、国際宇宙ステーション(ISS)へ到着し、同日0時50分頃にロボットアームによる把持が行われる予定だ。
24形態は商業打ち上げで活躍できるか
これまでお伝えしてきたように、H3ロケット7号機の最大の注目ポイントは、新しいコンフィギュレーションである「24形態」での打ち上げだったことだ。これについて、JAXAの山川宏理事長は、「24形態が加わったのは大きな一歩だった」と評価。「さまざまな衛星事業者からの需要が増える。今回の打ち上げには大きな意義があった」とした。
H-IIA/Bロケットのように、H3ロケットも今後、メーカーであるMHIに民間移管され、商業打ち上げ市場に本格的に乗り出す。24形態と同じように増強型として開発されたかつてのH-IIBロケットは、残念ながら1機も商業打ち上げを受注できなかったが、H3のラインナップに加わった24形態はどうなるか、非常に気になるところだ。
これについて、同社 防衛・宇宙セグメントの五十嵐巖・宇宙事業部長は、「すでに世界中から引き合いを多く受けている」とコメント。「HTV-X専用ではなく、いろんなミッションで、24形態が活躍できるのではないか」と期待を寄せ、「このチャンスを逃さないように設備を増強し、高頻度に打ち上げられるようにしたい」とした。
その上で、「世間ではまず『価格』と言われるが、それだけでなく、今日の打ち上げのように、その日の決められた時間に打ち上げられること。そして、正しい軌道に正確に投入できること。それがH3ロケットの強みになる」とし、「より多くの顧客に、H3ロケットを選んで欲しい」とアピールした。
現場でH3ロケットを率いる2人のプロジェクトマネージャからも、商業打ち上げを期待する発言が相次いだ。
JAXAの有田誠H3プロジェクトマネージャは、「近年、小型衛星を多数打ち上げるコンステレーションが増えてきており、24形態は最もそれに適している。売れ筋になる可能性がある」と指摘。「今回、24形態を手にしたことで、かなりの武器になるのではないか」との見通しを示した。
さらに、より小さな超小型衛星を多数打ち上げたいというような需要については、「一番スマートな30形態の出番になる」とコメント。30形態は当初、政府ミッションが主な想定だったが、「30形態にも商業打ち上げの芽が出始めているのが今の状況。3つの形態が揃うことで、H3の強みが出てくる」とした。
MHIの志村康治H3プロジェクトマネージャは、「打ち上げ能力が大きなロケットを、とにかく1本飛ばせたのが大きい」と、今回の成功を評価。「衛星の大型化や小型衛星のコンステなど、多様化が進んでいるが、いずれにしても大きな質量を宇宙に届けられるのは大きなメリット。今回の成功には大きな価値がある」と述べた。
若手の力も結集して作り上げた7号機
今回の打ち上げ結果については、有田プロマネから報告があった。
HTV-X1の分離後、第2段の制御落下も成功。また飛行実証として搭載した自律飛行安全システムとTDRS対応開発についても、良好にデータを取得できたという。自律飛行安全システムは、HTV-Xの搭載能力をフル活用するのに不可欠。早ければHTV-Xの2号機の打ち上げで初使用される見込みだ。
この2つの技術実証は、「若手が中心となって、ここまで仕上げてきた」という。今回、初めてフェアリングが外国製になったが、メーカーとの技術的な折衝も若手が担当したとのことで、それもあって、このワイドフェアリングの分離信号が届いたときには「思わずガッツポーズが出た」と、その瞬間を振り返った。
今回の成功で、H3ロケットは、22形態と24形態という2つの形態が使えるようになった。残るは固体ロケットブースター(SRB-3)無しの30形態のみとなるが、7月に実施した実機型タンクステージ燃焼試験(CFT)で問題が見つかっており、その再試験が「年明けになる見込み」とのこと。打ち上げ時期については、その結果次第ということになる。
ところで、打ち上げ前のブリーフィングにて、24形態の打ち上げの見どころについて「迫力はかなり増すと思うので、そのあたりを期待して欲しい」と述べた有田プロマネだが、「管制室の中で、ロケットが飛んでいる方向が分かるくらい、上から音が聞こえてきた。これは初めての経験だった」と、驚いたことを報告。
従来、ロケットの管制は、射点に隣接する半地下構造のブロックハウスで行っていたが、H3ロケットからは、3kmほど離れた竹崎に新設された総合指令棟(RCC)で実施している。そのため、これまでの22形態の打ち上げではほとんど音は聞こえなかったそうで、「我々自身が24形態の迫力を感じた」と笑いを誘った。
また、HTV-Xの愛称が打ち上げ後に発表されるのでは? と思っていた人もいるだろうが、伊藤プロマネは「HTV-Xは、初号機のあとに、2号機3号機と続く。皆さんから愛称をいただけるような雰囲気になってきたら、付けてもらえるのかなと。(決めるのは)我々ではないのかなと思っている」とコメント。今後の盛り上がりに期待を寄せた。








