ある時点を基準にして、数値データが増減していく様子をグラフで示したいときは、「ファンチャート」と呼ばれるグラフを作成するのが効果的だ。「棒グラフ」や「折れ線グラフ」よりもデータの増減をわかりやすく示すことが可能となる。Excelに用意されているグラフ作成機能ではないが、この機会にその作り方を覚えておくとよいだろう。
ファンチャートとは?
まずは、今回の連載で使用するデータ表から紹介していこう。以下の図は、ある企業が製造している素材の出荷量を年別、地域別にまとめたものとなる。
この表をもとに「積み上げ縦棒」のグラフを作成すると、以下の図のような結果が得られる。
データの推移を示すグラフとしては無難であり、これはこれで特に問題のないグラフといえるだろう。しかし、「地域別の出荷量がどうのように変化してきたか?」を伝えたい場合には、このグラフは不十分なグラフといえる。このような場合は、ある時点を基準(100%)にして、それに対する比率(パーセンテージ)を示した方が効果的だ。
たとえば、2014年の各地域への出荷量を100%として、その後の推移を「折れ線グラフ」で示すと、以下の図のようなグラフを作成できる。
上図のように、ある時点を基準にして、その後のデータ推移を比率で示したグラフを「ファンチャート」と呼ぶ。
先ほど示したファンチャートの場合、
・国内向けの出荷は増減が小さく、ほぼ横ばい
・アジア向けの出荷は順調に伸びている
・アメリカ向けの出荷は一時低迷したが、その後、増加傾向にある
・ヨーロッパ向けの出荷は、ここ数年、大幅な下落傾向にある
といった傾向を読み解くことができる。その一方で、各地域への出荷量をグラフから読み解くことは不可能になる。これはファンチャートの弱点といえる。
以上の話をまとめると、「全体の数量」と「各系列の割合」を示したい場合は「積み上げ縦棒」、「各系列の増減の推移」を示したい場合は「ファンチャート」が向いていると考えられる。用途に応じて適切なグラフを使い分けられるように、ファンチャートの作り方も覚えておくとよい。
ファンチャートの作成手順
それでは、ファンチャートの具体的な作成手順を紹介していこう。Excelにはファンチャートの作成機能が用意されていないため、自分でファンチャート用のデータ表を準備してからグラフを作成する必要がある。
まずは、元のデータ表を複製し、そこから数値データだけを削除した表を作成する。
続いて、「それぞれのデータ」を「基準となるデータ」(2014年のデータ)で割り算する数式を入力していく。たとえば「国内」のデータの場合、各データを「C4セル」で割り算するように数式を入力していけばよい。
このとき、分母を「C$4」と絶対参照で指定すると、分母のセル参照が4行目に固定され、数式をオートーフィルでコピーできるようになる。
数式を入力できたら、計算結果が見やすくなるように「パーセンテージ」の表示形式を指定しておこう。数式が正しく入力されていれば、最初の数式の計算結果は必ず100%と表示されるはずだ。なお、今回は小数点以下1桁まで表示するように表示形式を指定した。
続いて、この数式をオートフィルでコピーする。すると、「2014年のデータ」を基準にした「各年の比率」を算出することができる。
今回の例では、割り算の分母を「C$4」で指定しているため、固定されるのは4行目だけとなる(C列は固定されない)。よって、それぞれの数式を横方向にオートフィルでコピーすることも可能だ。コピーされた数式のセル参照は、D列、E列、F列と変化していき、分母の「4行目」だけが固定されることになる。
このような手順で数式の入力&コピーを進めていくと、少ない工数でファンチャート用のデータ表を完成させることができる。
あとは、表内のセルを1つだけ選択した状態で「マーカー付き折れ線」のグラフを作成するだけ。この操作は、通常の「マーカー付き折れ線」を作成する場合と同じである。
以上で、ファンチャートの基本形は完成。ただし、グラフの縦軸が0(0%)から始まるため、自動作成されたグラフは見やい形にはなっていない……。
続いては、このグラフが見やすくなるようにカスタマイズする方法を紹介していこう。
ファンチャートを見やすくカスタマイズする
先ほど示した作成手順からも分かるように、ファンチャートは「マーカー付き折れ線」の一種となる。よって、グラフのカスタマイズ方法も「マーカー付き折れ線」と同じになる。続いては、ファンチャートならではのカスタマイズを簡単に紹介していこう。
まずは、折れ線グラフが大きく表示されるように「縦軸の範囲」を調整する。縦軸の「軸の書式設定」を開き、「最小値」と「最大値」を適切な値に変更する。また、縦軸に並ぶラベルの小数点以下は不要なので、「表示形式」→「小数点以下の桁数」を0に変更しておこう。
この時点でグラフ内の文字の書式も調整しておくとよい。続いて、「100%のライン」を強調表示するためのカスタマイズを行う。このカスタマイズは、横軸を100%の位置に配置することで実現する。縦軸の「軸の書式設定」を開き、「横軸との交点」に1(100%)を指定する。
すると、100%の位置に「横軸」が描画されるようになる。ただし、横軸のラベルもグラフ内に配置されてしまうため、少しグラフが見にくくなる。今度は「横軸」を右クリックし、「軸の書式設定」を呼び出す。
「ラベル」の項目を展開し、「ラベルの位置」を「下端/左端」に変更する。さらに、「軸位置」を「目盛」に変更しておくと、「グラフの左端」から折れ線を開始できるようになる。
続いて、横軸の「線の書式」を強調する。「塗りつぶしと線」のアイコンを選択し、線の「色」や「幅」(太さ)を調整しておこう。
このようにカスタマイズを進めていくと、「100%のライン」だけを強調して、「グラフの左端」から折れ線グラフを開始することが可能となる。
以降のカスタマイズは「グラフの見た目をどうデザインしていくか?」の問題なので、各自の好きなように進めていけばよい。今回の例では、縦軸方向にも「目盛線」を表示してみた。
続いて、目盛線が目立ちすぎないように、線の種類を「点線」に変更するカスタマイズを施した。
同様の手順で「横軸の目盛線」も点線に変更すると、グラフの見た目は以下の図のようになる。
さらに、各系列の「グラフの色」を調整し、「図形の効果」で影を付けると、以下の図のようなグラフに仕上げることができる。
以上が、ファンチャートを作成するときの基本的な流れとなる。後半部分は、ファンチャートのデザインに関わる話なので、各自で自由に解釈して頂ければ幸いだ。ファンチャートの作成にあたって覚えておくべきことは、以下の2点となる。
・ファンチャート用の表を効率よく作成する(数式の入力方法を工夫し、オートフィルを活用できるようにする)
・横軸を100%の位置に配置して、100%のラインを強調表示する
これらの作業手順を理解できていれば、ファンチャートを問題なく作成できるはずだ。あとは各自の好みに応じてファンチャート(折れ線グラフ)の見た目をカスタマイズしていけばよい。
今回の連載の趣旨は、「ファンチャートというグラフの表現方法もある」ということを覚えておくこと。ファンチャートの基本を理解していれば、多少手間取ったとしても意図したグラフを作成できるだろう。そのうえで、効率よく作業を進めていく方法を学んでおくと、実務に役立てられるはずだ。