市場動向調査会社Informa/Omdia主催の「第39回 ディスプレイ産業フォーラム」において、Omdiaの中小型ディスプレイ主幹アナリストである早瀬宏氏が、新型コロナウイルスの感染拡大によって大打撃を受けている中小型ディスプレイの市場動向に関する調査結果を講演した。
世界的な巣ごもりで打撃を受けたモバイル関連
早瀬氏は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染拡大の影響を受け、大型FPD(フラットパネルディスプレイ)には「巣ごもり」需要の恩恵を受けるアプリケーションが多かったが、モバイルアプリケーション、つまり外出しての利用が主流である中小型FPDの需要はマイナスの影響を受ける結果になったと全体を総括した。
- COVID-19の感染拡大を防止するために世界各地域で行われた「都市封鎖」や「外出規制」によって、2020年の中小型FPD市場は大きな影響を受けている。テレビやPC向けディスプレイを中心とする大型FPD市場は「巣ごもり需要」の恩恵を受ける一方、モバイル機器や自動車といった「外出利用」のアプリが中心の中小型FPD市場は、大幅なマイナスの影響を受ける状況となっている。
- 中小型FPD市場の中核となるスマートフォン(スマホ)用FPDの2020年の出荷数量は前年比11%減の16億8500万枚と予測される。2020年上期はCOVID-19の影響を受け大幅なマイナスとなるも、2020年下期は5Gスマホの拡販による需要回復が見込まれる。ただし、需要の回復はフレキシブル有機EL(AMOLED)が占有すると見込まれる。また、米中貿易摩擦の影響も懸念される。
- 2018~2020年の四半期ごとの携帯電話セットメーカー向けFPD出荷動向を踏まえると、2020年に入り、Appleや中国スマホメーカー向けFPDの出荷数量が急激に減少した。また、ベトナムを生産拠点にしているため、COVID-19の影響が軽微だったSamsungも、欧米での都市封鎖の影響で2020年モデルを発表したもののFPDの需要は伸びていない。
- 車載モニター需要はCOVID-19の影響が甚大で、2020年の出荷数量見込みは前年比16%減となる見込み。近年急速に市場を拡大してきたスマートウオッチ向けもマイナス成長となる見込みである。
- 一部アプリ向けに巣ごもり需要はあるものの、2020年の中小型FPD全体の出荷数量は前年比10%減の22億1,700万枚と大幅なマイナス成長となる見込みとなる。一方、5Gスマホを中心に採用の拡大が期待されるフレキシブルAMOLEDによる付加価値向上と、FPDサイズの大型化へのシフトによる平均販売価格の上昇により、出荷金額は前年比1%減の523億ドルと小幅な減少にとどまる見込みである。
- 世界規模での「外出規制」で縮小を余儀なくされた2020年の中小型FPD市場だが、経済活動の再開と共に生活必需品であるスマホや自動車の需要が2021年以降回復の方向に向かうと予想される。ただし、COVID-19の感染拡大による景気動向の低迷から、中小型FPDの出荷数量予測は以前の予測に対し下振れする結果となった。
- 出荷数量予測が下振れしたものの、出荷金額予測は以前の予測に対し上振れする結果となった。携帯電話や車載モニター向けFPDのサイズがさらに大型化へとシフトする動きが強まったことが、出荷金額を底上げする要因となっている。
- ただし、中小型FPD市場を取り巻く環境は、依然不確定要素が大きい。COVID-19の感染拡大や米国の大統領選挙を含めた米中貿易摩擦の再燃など中小型FPDの需要変動に大きく影響を及ぼす可能性が高く、中小型FPD市場は依然として不安定感が強い状況が続いている。
今後の注目ポイント
早瀬氏は、中小型ディスプレイの今後の注目ポイントとして、「 出口が見えない“コロナウイルス”感染拡大と米大統領選以降の米中関係」を挙げた。 経済活動再開を優先に外出規制が緩和されるものの、“クラスター”が多発した場合経済活動が維持できるかどうか? 米大統領選を前に、中国に対する保護貿易と制裁が先鋭化してきているが、選挙の結果とその後の外交戦略はどう変化するか? に注目し、これらが中小型デイスプレイの需要にどのような影響を与えるか見極めたいという。
2019年の中小型FPDメーカーシェアトップは数量ではBOEも、金額ではSamsung
Omdiaの調査によると、2019年の中小型FPDメーカー別シェア(数量および金額ベース)は数量では、中BOEがトップとなるも、金額ベースではSamsungがトップに立ったという。また、日本勢は、数量ベースの8位にジャパンディスプレイ(JDI)がシェア3.9%で、同13位にシャープが同2.0%でそれぞれランクイン。一方の金額ベースでは、4位にJDIが同9.1%で、6位にシャープが同5.5%がそれぞれランクインしている。
なお、液晶パネルだけに限れば、金額ベースでは1位がBOEの15.9%、2位がJDIの15.3%、3位がTianmaの14.6%、4位がLG Displayの12.1%、5位がシャープの9.2%となっている。
(次回に続く)