この半導体ニュースのまとめ
・STが組み込み開発でAIエージェントを活用する「STM32Cube for Agentic AI」を発表
・検証済みコードやSTM32CubeMXをAIから利用可能にし、生成コードを一次レビュー
・STの検証では動作するコードの生成に成功し、トークン消費量を15分の1に削減
STMicroelectronics(STマイクロエレクトロニクス)は、STM32マイコンを使用する組み込みソフトウェア開発にAIエージェントを活用するためのツール「STM32Cube for Agentic AI」を発表した。
AIエージェントへSTM32に関する正確なコンテキストや開発ガイドライン、検証済みのリファレンスコードを提供することで、生成コードの精度を高める。AIエージェントが既存のサンプルコードを利用すべきか、コード生成ツールを呼び出すべきかといった判断も支援する。
現在はベータ版を提供しており、近日中に一般公開する予定としている。
AIエージェントと開発者を1つのチームに
エージェント型AIは、利用者から与えられた目標に基づき、必要な作業を分解し、利用するツールや情報を選択しながら、複数のタスクを継続的に実行するAI技術を指す。
組み込みソフトウェア開発へ適用した場合、マイコンの設定、初期化コードの生成、ペリフェラルの制御、デバッグ、コードレビューなどをAIエージェントが支援できる可能性がある。
一方、STM32マイコンは製品ごとにCPU、メモリ、ペリフェラル、ピン配置などが異なる。AIモデルが一般的なプログラミング知識だけを基にコードを生成すると、存在しないAPIを呼び出したり、対象マイコンのハードウェア構成と合わない設定を選択したりする可能性がある。
STM32Cube for Agentic AIは、STがメーカーとして保有するSTM32の技術情報と開発資産をAIエージェントへ提供し、こうしたハルシネーションや誤った実装を抑える。
STのグループ・バイスプレジデント 兼 汎用・車載用マイクロコントローラ事業部ジェネラル・マネージャーを務めるPatrick Aidoune氏は、エージェント型AIによって、開発者の役割がコーディングの実行者から、開発全体を統括、指揮、監督する立場へ変化しつつあると説明する。
同ツールは、AIエージェントへ作業に必要な正確なSTM32情報を提供する一方、開発者にはAIエージェントへの指示と出力内容の確認に必要な機能を提供する。開発者とAIエージェントを1つのチームとして支援する考え方となる。
検証済みコードとSTM32CubeMXをAIから利用
STM32Cube for Agentic AIでは、STが作成、最適化、検証したリファレンスコードをAIエージェントから利用できる。
AIがすべてのコードを一から生成するのではなく、目的に適した既存コードがある場合は、その利用を選択できるようにする。STM32の設定や初期化コードを自動生成する「STM32CubeMX」も、AIエージェントから呼び出せる。
STM32CubeMXは、選択したSTM32マイコンに搭載されているCPUやペリフェラル、クロック、ピン配置などの条件に基づき、再現性のある形でコードを生成する。確率的に出力が変化する生成AIだけに依存せず、決定性を持つコード生成ツールを組み合わせることで、コードの正確性を高める。
開発者は「STM32CubeIDE」を利用するか、任意の統合開発環境を利用するかを選択できる。必要に応じてAIエージェントからコード開発とデバッグの主導権を引き継ぎ、使い慣れたプロジェクトや開発環境で作業を継続することも可能だ。
生成コードを一次レビューしてAPIやハードウェア連携を確認
AIエージェントによるコード生成後は、STM32Cube for Agentic AIのフレームワークが一次レビューを実施する。
生成コードで使用されるAPI呼び出しが正しいかを検証するほか、選択したSTM32マイコンのハードウェアやペリフェラルと適切に連携できるかを確認する。問題がある場合には回避策も提案する。
AIエージェントが生成したコードをそのまま実機へ書き込むのではなく、メーカーが提供する情報やツールを用いて確認する工程を組み込むことで、組み込みシステムに求められる信頼性を高める狙いがある。
開発者は、24時間365日利用できるデジタルアシスタント「STM32Sidekick」も併用できる。STM32Sidekickは、開発者からの基本的な問い合わせに回答し、関連するデータや技術コンテンツへのリンクを提示する一次窓口として機能する。
STM32Cube for Agentic AIがコードの生成や検証を含む開発ワークフローを支援するのに対し、STM32Sidekickは技術情報の探索や基本的な問い合わせへの回答を担う。
支援ありではコード生成に成功、トークン消費量は15分の1
STが効果を確認するため、複数のAIエージェントへSTM32マイコン向けコードの開発を指示。一部のAIエージェントには、STM32Cube for Agentic AIが提供するSTM32のコンテキスト情報とガイドラインを参照させ、残りのエージェントには参照させずにコードを生成させたところ、STM32のコンテキスト情報を参照しなかったAIエージェントは、正常に動作するコードを生成できなかった一方で、STM32Cube for Agentic AIを利用したAIエージェントは、動作可能なコードの生成に成功したという。また、支援を受けたAIエージェントのトークン消費量は、支援を受けなかったエージェントの15分の1であることも確認。STM32に特化した情報と検証済みの開発資産を最初から与えることで、AIエージェントが試行錯誤や不要な情報探索に費やす処理を減らし、精度とトークン効率の双方を高めたとしている。
OpenAIのモデルとSTM32Cubeの開発資産を組み合わせ
STM32Cube for Agentic AIは、OpenAIのAIモデルとSTM32Cubeが持つ技術情報や開発機能を組み合わせて利用できる。
OpenAI パートナーシップ担当マネージング・ディレクターのBenjamin Schwartz氏は、OpenAIのモデルが持つインテリジェンスと、STM32Cubeの正確なデータや機能を組み合わせることで、組み込み開発者の作業効率と最適化を支援できると説明している。
また、住宅やビル向け自動化機器を手掛けるSomfyでは、検証済みの設定、リファレンスコード、コードレビュー、柔軟な導入方法を評価しているという。
AIエージェントが自律的に作業する一方で、開発者が使い慣れた開発フローの中でコードを確認し、必要に応じて作業を引き継げることが、組み込み開発でAIを利用する際の信頼性につながる。
なお、STは、組み込みソフトウェアの複雑化や開発人材不足が進む中、検証済みのメーカー情報とAIエージェントを組み合わせることで、STM32を利用する開発者の生産性向上と市場投入期間の短縮を支援するとしている。