この半導体ニュースのまとめ

・ルネサスが最大4軸のモータ制御に対応する64ビットMPU「RZ/T2N」の量産を開始
・産業イーサネット通信とLinuxアプリケーション処理を1チップに統合
・PLCから多軸サーボ、産業ロボットまで共通プラットフォームで開発可能

ルネサス エレクトロニクスは11月5日、最大4軸のモータ制御、産業イーサネット通信、Linuxアプリケーション処理を1チップで実現する産業機器向け64ビットMPU「RZ/T2N」を発売し、量産を開始したことを発表した。

RZ/T2Nは、高精度なリアルタイムモータ制御、産業イーサネット通信、アプリケーション処理という、ロボットや産業機器に必要となる3つの機能を統合したMPU。多関節ロボットや多軸サーボ、プログラマブルロジックコントローラ(PLC)など、産業ネットワークのコントローラ側とデバイス側の双方に対応する。

従来は複数のチップで構成することが多かったシステムを1チップに集約することで、基板面積やBOMコストを削減できるほか、システム構成を簡素化し、開発期間を短縮できるという。

  • ルネサスの産業機器向け64ビットMPU「RZ/T2N」とスカラロボットのイメージ

    最大4軸のモータ制御、産業イーサネット通信、Linuxアプリケーション処理を1チップに統合した産業機器向け64ビットMPU「RZ/T2N」 (出所:ルネサス エレクトロニクス)

Cortex-A55とCortex-R52を組み合わせたマルチコア構成

RZ/T2Nは、Linuxなどのアプリケーション処理を担うArm Cortex-A55が最大1.2GHzで動作するデュアルコア構成で搭載しつつ、リアルタイム処理用には、最大800MHzで動作するCortex-R52を2コア搭載。アプリケーション処理とリアルタイムモータ制御を、それぞれに適したCPUコアで実行できるようにした。

Cortex-R52の各コアには、ECCに対応した576KBの密結合メモリ(TCM)を搭載する。モータ制御プログラムやデータをTCMへ配置することで、外部メモリへのアクセスに伴う遅延や処理時間のばらつきを抑え、決められた周期で制御処理を実行する。

また、CPU内蔵TCMやキャッシュメモリ、オンチップSRAM、外部DDRメモリまで、すべてECCに対応する。外部メモリとして16ビットLPDDR4-1600を利用でき、メモリデータのオンザフライ暗号化/復号もサポートする。

最大4軸のモータ制御でスカラロボットやデルタロボットに対応

RZ/T2Nは、最大4軸のモータを制御できる周辺機能を搭載する。

これにより、複数のモータ軸を同期させて動作するスカラロボットやデルタロボットなどを、1チップで制御できるようにした。

モータの回転角度や位置を取得するエンコーダインタフェースについては、1軸当たり2チャネルを利用できる。Tamagawa T-Format、HIPERFACE DSL、A-format、EnDat 2.2、BiSS Cに加え、最新のEnDat 3とBiSS Lineにも対応する。

異なるメーカーや方式のエンコーダを使用する産業機器へ対応しやすくし、ロボットやサーボシステムに求められる位置検出の高精度化や冗長化を支援する。

ルネサスは、同社の評価ボードを使った多軸モータ制御ソリューションのサンプルプログラムも提供する。モータ制御と産業ネットワークを組み合わせたシステムの初期開発や評価に活用できるとしている。

EtherCATやPROFINET、EtherNet/IP、TSNをサポート

産業ネットワーク機能としては、EtherCAT、PROFINET RT/IRT、EtherNet/IPなどの主要な産業イーサネットプロトコルをサポートする。

Time-Sensitive Networking(TSN)にも対応し、複数の産業機器間で時刻を同期しながら、リアルタイム性が求められる制御データと一般的なネットワークデータを同じEthernetネットワーク上で扱えるようにする。

チップ内部には3つのギガビットイーサネットMAC(GMAC)、イーサネットスイッチ、EtherCATサブデバイスコントローラ(ESC)を搭載。外部の通信用LSIを追加することなく、産業ネットワークのコントローラ側とデバイス側の双方に対応できる。

このため、PLCやロボットコントローラのようにネットワーク全体を制御する機器だけでなく、サーボドライブや産業用ロボットなど、上位コントローラから指令を受けて動作する機器にも同じMPUを展開できる。

RZ/T2Nを共通プラットフォームとして使用することで、異なる産業機器間でソフトウェアや開発環境、設計資産を再利用し、製品展開を効率化できるとしている。

  • ルネサスのRZ/T2シリーズとRZ/N2シリーズの製品ラインアップ

    リアルタイム制御向けRZ/T2シリーズと産業ネットワーク向けRZ/N2シリーズの製品ラインアップ (出所:ルネサス エレクトロニクス)

冗長ネットワークとセキュリティ機能を統合

ネットワークの信頼性を高めるため、RZ/T2Nは「HSR(High-availability Seamless Redundancy)」「PRP(Parallel Redundancy Protocol)」「FRER(Frame Replication and Elimination for Reliability)」などの冗長ネットワークプロトコルにも対応する。

HSRとPRPでは、複数の通信経路へ同じデータを送信し、片方の経路で障害が発生しても、もう一方の経路を利用して通信を継続する。FRERもフレームの複製と重複除去によって、重要な制御データの信頼性を高める仕組みとなる。

工場の生産設備や産業ロボットでは、ネットワーク障害による通信停止が生産ライン全体の停止へつながる可能性がある。冗長通信をMPU側でサポートすることで、外付け部品や追加のシステムを抑えながら、停止しにくいネットワークを構築できる。

セキュリティ機能としては、暗号ライブラリ、セキュアブート、セキュアファームウェアアップデート、Arm TrustZoneをサポートする。

起動時にソフトウェアの正当性を確認するほか、ファームウェア更新時の改ざんを防止し、重要なプログラムやデータを一般のアプリケーションから分離して保護できるようにする。

PLCから産業ロボットまで共通プラットフォーム化

RZ/T2Nは、PLC、多軸サーボドライブ、スカラロボット、デルタロボットなど、産業オートメーションを構成する幅広い機器への搭載を想定している。

従来は、モータ制御用のマイクロコントローラ、産業イーサネット通信用のLSI、Linuxアプリケーションを実行するMPUを組み合わせてシステムを構成する場合があった。

RZ/T2Nでは、これらの機能を単一のMPUへ統合することで、チップ間の通信やソフトウェア連携に伴う設計負担を減らせる。外付け部品と配線を削減できるため、制御基板の小型化やBOMコストの低減にもつながる。

特に、ロボットコントローラやサーボドライブでは、制御性能を高めながら筐体を小型化し、装置内の限られた空間へ実装することが求められる。処理と通信の統合は、基板面積だけでなく、電源や放熱を含むシステム全体の設計を簡素化する効果も期待できる。

RZ/T2xとRZ/N2xでソフトウェアを共通化

ソフトウェア開発環境としては、RZ/T2xシリーズとRZ/N2xシリーズで共通利用できるLinuxパッケージとFlexible Software Package(FSP)を提供する。

産業イーサネットや各種エンコーダインタフェースについても、検証済みのサンプルプログラムを用意する。開発者は通信やモータ制御の基本機能を一から実装する必要がなく、製品固有の機能開発へ注力できる。

RZ/T2xおよびRZ/N2xシリーズで実績のある機能安全ソフトウェアソリューションについても、2027年後半に提供する予定だ。また、RZ/T2Nとルネサスの周辺製品を組み合わせたウィニング・コンビネーションとして、「イーサネットを用いた多軸モータ制御」と「FSoEを用いたEtherCATベースの多軸モータ制御」を提案していくとしている。