3K(汚い、きつい、危険)で知られる建設業を、新しい3K(休暇が取れる、給料がいい/希望が持てる)に変えようと、長崎県佐世保市の舗装工事会社・西部道路がkintoneを使って挑戦を続けている。題して「道しるべプロジェクト」。Excelと紙の二重管理に苦しんでいた現場が、導入からおよそ1年でアプリ177個を内製化するに至ったという。
サイボウズが福岡で開催した「kintone hive 2026 fukuoka」で、同社の工事部 所長 村野三喜男氏とバックオフィス担当の中嶋加奈子氏が自分たちの取り組みを発表した。
「建設業の3K」に悩む現場、Excelと紙の二重管理
西部道路は創業78年、長崎県佐世保市を拠点に4支店6営業所を展開する建設業者だ。舗装工事を主軸に、一般土木工事や管工事、さらにはアスファルト廃材の受け入れからリサイクル材料の製造販売までをグループ内で一元化している。
そんな西部道路が向き合っていたのが、建設業に古くから根付く「3K」(きつい・汚い・危険)だ。「休暇が取れる」「給料がいい」「希望が持てる」という新しい3Kへの転換を目指すものの、社内の業務フローは長らくアナログなままだった。
建設業のプロセスは入札→開札→落札→受注・契約→現場管理と流れる。契約後の現場管理を受け持つ村野氏は、案件情報はすべて手入力でExcelにまとめる必要があった。工事を受注するたびに転記作業が発生し、月に2回、各拠点のExcelファイルが本社に集約される運用が続いていた。
一方で、バックオフィスを担当する中嶋氏は紙の管理に追われていた。手書きの申請書も多く、受注契約から注文書作成、役所・下請け業者との変更契約、請求書作成に至るまで、同じ情報を何度も入力し、コピー&ペーストを繰り返す。完成した書類は種類別に印刷・ファイリングして保管するため、「書類を作成するよりも探す時間の方が長かった」と振り返る。
きっかけは「レアキャラ」専務、そして内緒で作ったアプリ
転機は約3年前、大手銀行出身の専務の入社だ。多忙でなかなか見かけないことから、一部の社員には「レアポケモン」と呼ばれていたという。この専務の主導で約2年前、kintoneのライトプランを導入。同年12月には4支店6営業所すべてで従業員説明会が行われた。
当初、社員はkintoneを休暇申請に使うだけの「ユーザー」だった。しかし、伴走担当者から「自分たちでアプリを作れますよ」と教えられたことが転機となった。
早速、村野氏と中嶋氏は業務効率化を目的としたアプリを遊び感覚で作り始める。それが専務の目に留まったことで話は一気に進み、7月には組織横断型の「道しるべプロジェクト」が発足した。コンセプトは「低コスト・内製化」だった。
低コストにこだわった村野氏がまずぶつかったのが、ライトプランではプラグインが使えないという壁だった。そこでサイボウズから開発ライセンス環境の紹介を受け、プランを1年間無料で使える環境を約3カ月にわたって並行運用。開発環境で作ったアプリを社内でプレゼンする中で、プラグインの重要性を実感し、正式にスタンダードプランへの契約変更を勝ち取った。
その後、村野氏と中嶋氏の2人を中心にアプリ開発が加速し、約半年で177個のアプリを開発した。一方、開発に熱中する2人とは対照的に、社内では「kintoneって何?」「今のままでも困っていない」「新しいことは面倒」といった声も少なくなかったという。
中嶋氏は当時を振り返り、「社内との温度差も右肩上がりだった」と語った。村野氏も「人に伝えるのは難しい」と、社内への浸透に苦労したことを明かした。
どうやって使ってもらう?「使わないと業務が進まない」がカギ
従業員への浸透に向け、村野氏と中嶋氏はYouTubeなどで情報収集しながら、独学でアプリ開発のスキルを磨いていった。使いやすさを重視し、スマートフォンに近い操作画面や、従来のExcelに慣れた社員でも戸惑わない仕組みを取り入れた。
まず、スマートフォンのように直感的に操作できるポータル画面を作成。一覧画面や新規作成画面へワンクリックで移動できるショートカットを配置した。また、縦長になりがちなレコードを操作しやすくするため、無料の「目次プラグイン」も活用した。
社員にkintoneを使ってもらうための入口として選んだのが、全員に関係する休暇申請だった。
従来の休暇申請は紙ベースで、申請用紙は事務所にしかなく、記入後は上司に直接承認を求める必要があった。中嶋氏が「スタンプラリー」と表現するこうした手続きをアプリ化し、必要な情報を自動取得してワンクリックで申請できるようにした。
これにより、場所を問わず休暇を申請できるようになり、同社が掲げる新しい3Kの一つ「休暇が取れる」の実現につながった。
続いて村野氏が取り組んだのが工事台帳のアプリ化、「使用しないと業務が進まないシステムを作る」という狙いがある。従来は営業所と本社でExcelの様式そのものが異なっており、これが転記ミスの温床になっていた。
そこで、本社側のUIに寄せて工事台帳をアプリ化し、担当者が自分の案件情報だけをレコードとして追加していく方式に統一。これにより工事情報を一元管理できるようにした。メールやFAXもほぼ廃止し、連絡はメンション機能でのコメントに置き換えた。現場の図面データもアプリ内に格納したことで、現場担当者はどこにいてもアプリを開くだけで検索・確認ができるようになったという。
工事台帳を軸に、予実管理アプリも内製した。工事情報は工事台帳からルックアップする仕組みにして転記を不要にし、色付きセルのみを入力すれば工種ごとの原価管理や集計を自動化できるようにした。プロセス管理には、同じ九州の企業であるKAIZEN社のプリントプラグインを活用し、ボタン一つでPDFをレコードに格納できるようにした。
決裁スピード5日短縮、現場からの改善提案も
工事台帳がデータベース化されたことで、バックオフィスにも変化が生まれた。必要な情報が工事台帳に集約されたことで書類を探す手間がなくなり、書類棚は目に見えてスカスカになったという。注文書についても、工事台帳の情報を自動反映してPDF出力できる仕組みを整えた。
こうした取り組みの結果、決裁スピードは5日間短縮。数日〜1週間を要していた承認が最短当日・遅くとも翌日になった。工事台帳がクラウド化されたことで、現場完結型の働き方が実現した。転記作業はゼロになり、事務作業時間の大幅な短縮とペーパーレス化を実現した。
さらには、現場からも「ここをこうしてほしい」「こんなアプリを作ってほしい」という自発的な改善提案が上がるようになった。「ミスが減り、心にも時間にも余裕が生まれた。社内で情報が会社の資産として共有される文化が定着した」と中嶋氏は成果を語る。
今後の展望:他業種への横展開、AIによる若手支援
村野氏は、工事台帳を中心に注文書アプリや予実管理アプリへと派生させてきた自社の仕組みについて、建設業に限らず他業種でも基幹となるアプリを作ることで同様の展開が可能だとの見方を示した。「それを可能にするのがkintone」(村野氏)
今後はリアルタイムな利益管理を目指す、と村野氏。実際には、収益の可視化、日報の進化を通じて赤字の原因を可視化し、現場単位での採算意識を向上し、経営層の迅速な意思決定をサポートしたい、という。また、AIなどの補助も活用しながら若手社員を後押しできる環境づくりを目指す、とした。
最後に村野氏と中嶋氏は、「ITの専門家がいなくても、自分たちの手でDXは進められる」と語る。同時に「好きじゃないとできない。好きを大事にしてください」と会場にメッセージを送った。





