VMwareは10月20日、都内で開催した「VMware Explore on Tour Japan 2026」の基調講演で、企業のAI活用をプライベートクラウドで支える「Private AI Cloud」の構想を紹介した。既存の仮想化・コンテナ技術を生かし、AI基盤の構築からアプリケーション開発、セキュリティ対策までを一体的に支援する方針を示した。

冒頭に登壇したヴイエムウェアの山内光カントリーマネージャーは、プライベートクラウドを取り巻く課題として、セキュリティ対策、ハードウェアやクラウドのコスト、本格的なAI活用への備えという3点を挙げた。

  • ヴイエムウェア Broadcom カントリーマネージャー 山内光氏

    ヴイエムウェア Broadcom カントリーマネージャー 山内光氏

続いて登壇したBroadcom インフラストラクチャ ソフトウェア グループ社長のラム・ヴェラガ氏は、AIの普及によって企業のITインフラに求められる役割が変化していると説明した。

  • Broadcom インフラストラクチャ ソフトウェア グループ社長 ラム・ヴェラガ氏

    Broadcom インフラストラクチャ ソフトウェア グループ社長 ラム・ヴェラガ氏

AIの活用拡大に伴って計算資源の需要が増える一方、ハードウェアやパブリッククラウドのコストが企業の負担となっている。また、企業固有のデータを安全に扱うことも重要な課題だ。

こうした課題への対応策としてVMwareが提唱するのが「Private AI Cloud」である。自社の管理下にあるプライベートクラウドをAIの実行基盤として活用し、コストの最適化、セキュリティの確保、AIエージェントの活用を支援する。

  • VMwareが提唱する「Private AI Cloud」の3つの柱(VMwareの講演資料を基に編集部作成)

    VMwareが提唱する「Private AI Cloud」の3つの柱(VMwareの講演資料を基に編集部作成)

AI基盤を自社で構築、AI Factoryでモデルの導入・運用を支援

Private AI Cloudの中核となるのが、プライベートクラウド基盤「VMware Cloud Foundation(VCF)」だ。

Broadcom VCF部門 最高製品責任者のポール・ターナー氏は、2026年5月にリリースした「VCF 9.1」を紹介し、仮想マシン、コンテナ、AIのワークロードを共通のプラットフォームで実行・管理できる点を強調した。

  • Broadcom VCF部門 最高製品責任者 ポール・ターナー氏

    Broadcom VCF部門 最高製品責任者 ポール・ターナー氏

VCFは、サーバ、ストレージ、ネットワークの仮想化と運用管理を統合した基盤だ。従来の仮想マシンに加え、Kubernetesを利用したコンテナにも対応し、アプリケーションごとに異なるインフラを用意する必要性を減らす。

AI活用のためのプラットフォームとしては「VMware AI Factory」を提供する。VCFを基盤に、AIモデルの導入や提供、GPUなどの計算資源の管理、Kubernetes実行環境、運用の自動化までを支援する仕組みだ。

  • AIモデルの提供からインフラ管理までを支援する「VMware AI Factory」(VMwareの講演資料を基に編集部作成)

    AIモデルの提供からインフラ管理までを支援する「VMware AI Factory」(VMwareの講演資料を基に編集部作成)

AI Factoryでは、GoogleのGemma、NVIDIAのNemotron、NECのcotomiなど、複数のAIモデルを利用できる。Hugging Faceのリポジトリを通じて150以上のモデルを利用できることも紹介された。

ターナー氏は「すべての業務で4,000億パラメータ規模の巨大なAIモデルが必要なわけではない。多くの業務では、特定の用途に最適化した小規模言語モデル(SLM)を活用できる」と述べ、用途に応じたAIモデルの選択が重要だと強調した。

また、インフラコストの削減策として、NVMeストレージをメモリの一部として活用する「NVMe Memory Tiering」も紹介した。DRAMへの依存を減らすことで、サーバのハードウェアコストを抑える技術で、講演では構成例として42%の削減効果が示された。

VMwareは、既存のプライベートクラウドをAIの実行基盤として活用することで、インフラの効率化とAIモデルの選択によるコスト最適化を図る考えだ。

AIによるサイバー攻撃に備え、HyperArmorでハイパーバイザーを保護

Private AI Cloudを実現するうえで、もう一つの重要な要素がセキュリティだ。

ターナー氏は、AIによって脆弱性の発見から攻撃コードの生成、侵入後の横方向への移動までが高速化し、従来の事後対応型のセキュリティ対策では十分ではなくなりつつあると指摘した。

「セキュリティは後付けであってはならない。個々のアプリケーションと、その間のやり取りを保護する必要がある」と述べ、セキュリティをシステムに最初から組み込む重要性を強調した。

VMwareは、アプリケーション、データ、ネットワーク、インフラの各レイヤーを保護する多層防御を重視している。その新たなソリューションとして紹介されたのが、10月13日に発表した「VMware HyperArmor」だ。

  • ESXハイパーバイザーの保護を強化する「VMware HyperArmor」(VMwareの講演資料を基に編集部作成)

    ESXハイパーバイザーの保護を強化する「VMware HyperArmor」(VMwareの講演資料を基に編集部作成)

HyperArmorは、VCFのESXハイパーバイザーを保護する製品で、ホスト層での仮想パッチ、許可されていないプログラムの実行防止、多要素認証などの機能を備える。

仮想パッチは、正式な修正パッチを適用する前でも、脆弱性を悪用する攻撃を検知・遮断する仕組みだ。ホストの再起動やソフトウェアのアップグレードを行わずに保護できるため、システムの稼働を維持しながらリスクにさらされる期間を短縮できる。

また、許可された実行ファイルやスクリプトだけを動作させる仕組みに加え、ESXへのSSHログインに多要素認証を導入することで、認証情報が盗まれた場合の不正アクセスにも備える。

VMwareはすでに、ネットワーク層でマイクロセグメンテーションや仮想パッチなどを提供する「VMware vDefend」を展開している。HyperArmorはその保護範囲をハイパーバイザーのホスト層に広げるもので、両者を組み合わせて多層防御を強化する。

AIエージェントの開発・運用にもTanzuを活用

VMwareは、AIモデルを実行する基盤だけでなく、AIアプリケーションやAIエージェントの開発・運用まで支援する方針だ。その中核となるのが、アプリケーション開発・運用プラットフォーム「Tanzu Platform」である。

Tanzu Platformは、開発者がアプリケーションのコードを用意すれば、ミドルウェアや実行環境の管理をプラットフォーム側で担うPaaS(Platform as a Service)としての機能を持つ。VMwareは、こうした開発・運用の仕組みをAIエージェントにも広げようとしている。

ヴイエムウェア 執行役員 ソリューションアーキテクト本部 本部長の塩﨑崇氏は、従来のAIエージェント開発ではPythonなどを使ったプログラミングが必要になるケースが多いと説明。そのうえで、Tanzu Platformを活用することで、AIエージェントの開発や運用を簡素化できるとした。

  • ヴイエムウェア 執行役員 ソリューションアーキテクト本部 本部長の塩﨑崇氏

    ヴイエムウェア 執行役員 ソリューションアーキテクト本部 本部長の塩﨑崇氏

基調講演では、保険会社の担当者を支援するAIエージェントアプリケーションのデモを披露した。担当者が事故の内容を文章で入力すると、複数のAIエージェントが連携し、保険の適用可否や判断の根拠となる契約条項などを回答する仕組みだ。

また、Tanzu Platformの画面では、AIエージェントの名前を設定し、実行すべき処理や禁止事項を指示書として記述する開発手順も紹介した。塩﨑氏は、こうした仕組みによって、AIエージェントを簡単に開発できることを示した。

一方、AIエージェントの業務利用では、アクセス権限やデータの取り扱いを適切に管理する必要がある。VMwareが発表した「AgentMinder」は、AIエージェントのID管理やアクセス制御、操作の追跡を担う仕組みだ。

塩﨑氏は、AIエージェントをまず制限された環境に置き、利用するAIモデルやツール、アクセス先のアプリケーションなど、必要な権限だけを与えるという考え方を説明した。これは、ゼロトラストと最小権限の原則をAIエージェントに適用するものだ。

さらに、AIエージェントが参照するデータのガバナンスも重要になる。VMwareはTanzu Platformを通じて、AIエージェントの開発・運用だけでなく、データへのアクセスや利用の統制も支援する方針を示した。