富士ソフトは10月14日、同1日に愛知県名古屋市に開設した同社初となるロボット開発・実証の専用拠点「名古屋Lab」をメディアに公開した。同拠点ではロボットを活用したスマート工場化を支援するため、実機を使った開発・検証、顧客との共創、人材育成を進めていく。

フィジカルAIの実装を支える「名古屋Lab」、開発・実機検証・共創に活用

まず、富士ソフト 常務執行役員 組込/制御ビジネスユニット エリア事業本部長の南川勝氏が名古屋Labの概要と役割について説明した。

  • 富士ソフト 常務執行役員 組込/制御ビジネスユニット エリア事業本部長の南川勝氏

    富士ソフト 常務執行役員 組込/制御ビジネスユニット エリア事業本部長の南川勝氏

南川氏は、名古屋Labについて「ロボットや周辺機器を実際に動かしながら検証できる専門拠点」と説明。施設の役割として、開発・実証、顧客との共創、人材育成を挙げた。ロボット活用のニーズが高まる一方で、システム上の設計だけでなく、実機を用いた制御や周辺システムとの連携検証が重要になっているという。

  • 名古屋Labの概要

    名古屋Labの概要

同氏は「実際にロボットを動かしながら検証し、そのまま開発につなげられることが特徴だ。また、お客さまと一緒に導入前の検証を行える環境を整えている」と説明した。施設内では、要件検討から構想策定、実機を活用した設計・実証、制御機器や周辺設備・システムとの連携検証まで、一連の工程を実施できる。

背景には、製造業を中心に深刻化する人手不足や生産性向上への要求がある。南川氏は「人手不足や生産性向上は喫緊の課題だ。ロボットを活用した省力化によって、そうした課題の解決を支援していく」と語った。

また、名古屋Labは顧客への技術紹介やデモンストレーションの場としてだけでなく、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の事業で進める研究開発の実証拠点としても活用される。同氏は「ここで得られたノウハウを蓄積し、さらに具体的な提案につなげていきたい。開発、検証、人材育成のサイクルを回しながら、スマート工場ソリューションを高度化していく」と展望を述べた。

  • 名古屋Labの役割

    名古屋Labの役割

複数メーカーのAMRを統合制御する「MixFlit」

続いて、富士ソフト 組込/制御ビジネスユニットエリア事業本部スマートビジネス部 部長の岡村直樹氏が同社が開発したフリート制御システム「MixFlit」を紹介した。

  • 富士ソフト 組込/制御ビジネスユニットエリア事業本部スマートビジネス部 部長の岡村直樹氏

    富士ソフト 組込/制御ビジネスユニットエリア事業本部スマートビジネス部 部長の岡村直樹氏

同システムは、MixFlitは異種AMR(Autonomous Mobile Robot:自律走行搬送ロボット)の統合管理を中核としながら、協働ロボットや生産設備、上位システムとも連携し、搬送工程全体を制御する。さらに協働ロボットや周辺設備、上位システムとも連携し、搬送工程全体を統合的に管理できるという。

岡村氏は「異なるメーカーのAMRによる搬送を最適化するプラットフォームと捉えてほしい」と説明する。工場では導入時期や用途によって異なるメーカーのAMRが混在するケースも少なくない。その場合、メーカーごとに異なる管理システムや制御方式への対応が必要になる。

岡村氏は「複数メーカーのAMRを統合管理できるため、ベンダーロックインを回避できる。また、いきなり大規模導入するのではなく、1台から始めて段階的に増やしていくことも可能だ」と述べ、MixFlitによってメーカーの違いを意識せずに運用できる点を強調した。

さらに、設備レイアウト変更への柔軟な対応や、シミュレーションを活用した事前検証も特徴として挙げた。

MixFlitではUnityを利用したシミュレーション機能を備えており、搬送ルートや必要なAMRの台数などを事前に検証できるという。同氏は「導入前にレイアウトや搬送方法を検討できるため、必要最小限の投資で導入を進められる」と説く。

システム面では、ERP(Enterprise Resource Planning:統合基幹業務システム)や生産管理システムなど上位システムとの連携にも対応する。MixFlitはシステム構成上、FMS(Fleet Management System:フリーと管理システム)やRCS(Robot Control System:ロボット制御システム)の役割を担っており、リアルタイム監視による運行状況の把握や障害検知も可能だという。

  • 「MixFlit」の概要

    「MixFlit」の概要

また、同氏は開発効率面のメリットについても触れ「こうしたシステムを一から構築すると多くの工数が必要になるが、MixFlitを活用することで、当社試算では開発期間を50%程度短縮できる」と強調した。

NEDO事業で環境変化に適応するフィジカルAIを検証

岡村氏は、現在取り組んでいる実証についても紹介した。製造現場では、棚から部品を取り出して作業現場へ運び、使用後の空箱を回収するといった作業が残っている。そこで同社では、複数のロボットを組み合わせて、こうした搬送業務の自動化に取り組んでいるという。

この取り組みはNEDO事業でも活用されている。同氏によると、従来のロボットシステムは箱のサイズや棚の高さが変わるたびに個別調整が必要になるケースが多かった。しかし、今後はフィジカルAIを活用し、対象物の違いをロボットが自律的に認識することで、システムを大きく変更することなく運用できる環境を目指す。

同氏は「既存設備を活用しながらロボットシステムを連携させていくことが重要だ。箱の大きさや棚の高さが変わっても、ロボット側が適応して作業できる世界を目指している」と力を込めていた。

さらに、今回披露するデモについても概要を説明した。事前検証にはUnityを活用しているが、シミュレーションと実機を別々の環境で動かしているわけではないという。岡村氏は「シミュレーションと実機を同じMixFlit上で制御している点がポイントだ」と説明し、複数メーカーのロボットを連携させたデモを披露した。

異種ロボットが協調、通い箱の搬送・回収を自動化

デモでは、製造現場で広く行われている部品搬送作業の自動化をテーマに、MixFlitを活用した統合制御の仕組みが紹介された。

製造現場では、一般的に棚から部品を取り出し、通い箱へ収納した後、作業場所まで搬送する作業や、使用後の空箱を回収・保管場所へ戻す作業を人手で行っている。富士ソフトでは、こうした工程をロボットで自動化し、作業者が組み立てなどの付加価値業務に集中できる環境を目指しているという。

デモ環境では、異なるメーカーのロボットを組み合わせながら、一連の搬送工程を自動化した。ポイントは、単一ベンダーのロボットだけで構成するのではなく、それぞれ異なる役割を持つロボットをMixFlitで統合制御している点だ。

まず、パイプシューターからYOUIBOTのAMR「L300」とFANUCの「CRX」を組み合わせたロボット(AMR+協働アーム)が搬送対象となる通い箱をピックアップして、コンベアへ受け渡す。

  • パイプシューターから搬送対象となる通い箱をピックアップ

    パイプシューターから搬送対象となる通い箱をピックアップ

  • コンベアへの受け渡し

    コンベアへの受け渡し

通い箱はコンベア上を移動した後、Universal Robotsの協働ロボット「UR5e」にピックアップされ、その後にオリエンタルモーターのモバイルマニピュレータ(AMR+ロボットアーム)が動作して空箱をピックアップして回収し、パイプシューターへ戻す役割を担う。

  • コンベア上を移動した通い箱をピックアップ

    コンベア上を移動した通い箱を「UR5e」がピックアップ

  • モバイルマニピュレータが通い箱をピックアップ

    モバイルマニピュレータが通い箱をピックアップ

  • パイプシューターに返却

    パイプシューターに返却

コンベアからピックアップされた後の工程は以下の動画でも確認できる。

さらに別系統では、安川電機の「MOTOMAN NEXT NHC12」とPreferred Roboticsの搬送ロボット「カチャカプロ」を組み合わせた段ボール搬送も実演された。カチャカプロが段ボールを搬送し、MOTOMAN NEXT NHC12が回収や積み替えを実施する構成となっている。

  • Preferred Roboticsの搬送ロボット「カチャカプロ」による搬送

    Preferred Roboticsの搬送ロボット「カチャカプロ」による搬送

  • 安川電機の「MOTOMAN NEXT NHC12」によるピックアップ

    安川電機の「MOTOMAN NEXT NHC12」によるピックアップ

このように、デモでは複数メーカーのロボットが協調動作しながら搬送工程を分担する様子が披露された。

MixFlitでシミュレーションと実機を同一構成で検証

MixFlitのもう1つの特徴が、シミュレーションと実機を同じ構成で検証できる点だ。富士ソフトでは、事前検証にUnityを用いたシミュレーション環境を利用している。デモでは、まずシミュレーション上で搬送工程を再現した後、そのまま実機による動作検証に移行した。

  • デモ環境はシミュレーションからそのまま実機による動作検証に移行した

    デモ環境はシミュレーションからそのまま実機による動作検証に移行した

MixFlitはシミュレーション環境と実機環境の双方を制御できるため、事前に検討した搬送ルートやタクトタイム、ロボット台数などを実機環境へ反映できる。シミュレーションと実機を同一構成で検証できることから、導入前の検証結果と実環境との差異を小さくできる点を特徴としている。

また、MixFlitはAMR運用に必要な設計、指示、設定、検証、監視までを一元化している。Blenderで作成した3Dモデルを取り込んだシミュレーション環境で事前検証を行い、その結果を実運用へ展開できる仕組みだ。必要台数の算出やタクト計算、レイアウト変更後の動作確認などにも対応する。

  • MixFlitはAMRの設計、設定、検証、監視を一元化する

    MixFlitはAMRの設計、設定、検証、監視を一元化する

異種ロボットをつなぐ、フィジカルAI時代の共通基盤へ

富士ソフトはMixFlitを単なるロボット制御ソフトではなく、「異種AMRをつなぎ、工場内搬送を最適化するデジタル搬送プラットフォーム」と位置付ける。MESやWMS、生産設備、ロボットとの連携を進めることで、工場全体の最適化を目指すという。

岡村氏は「箱の大きさや棚の高さが変化してもロボットが自律的に認識し対応するフィジカルAIの世界を見据えている」と述べている。そうした環境を実現するうえでは、個別のロボット制御だけでなく、異なるロボットや設備を接続する共通基盤が重要になる。

フィジカルAIの実現にはロボットの知能化だけではなく、異種ロボットや設備を連携させる共通基盤が必要となる。名古屋Labは、その実証の場として位置付けられている。実機を用いた開発や検証、顧客との共同検証、人材育成、そしてNEDO事業での研究開発を通じて、富士ソフトはスマート工場の現場実装を加速させていく考えだ。